「初めに」 「金日成をどう見るか」 黄 民基 ( ファン・ミンギ )
第一部 証言 「隠された真実」 北朝鮮人民軍作戦局長 兪 成哲 ( ユ ソンチョル )
第二部 手記 「暴かれた歴史」 元北朝鮮人民軍師団政治委員 呂 政 ( ヨ ジョン )
「初めに」・・黄 民基
今回は、呂 政氏の証言を出版した朝鮮日報の巻頭言を、紹介します。呂氏の著書名は、『赤く染まった大同江』です。韓国と北朝鮮の国民が、互いにどのような関係にあるのか、興味深い事実が語られています。
「北朝鮮政権の閉鎖政策は、北朝鮮住民を〈井の中の蛙〉にしてしまっており、外部の人々の北朝鮮に対する理解を遮断してきた。」「あまつさえ韓国人は、北朝鮮の実像について、外国人よりもっと暗いのが実情だ。それは韓国政府の、北朝鮮情報に対する統制政策のためでもある。」
韓国人は米国に作られた南の政府より、抗日戦争で独立を通した北朝鮮の方が正統性のある政権だと考え、引け目を感じていると日本のマスコミは説明していました。だから金大中大統領も盧武鉉大統領も文在寅大統領も、一歩下がったような形で金日成、金正日、金正恩氏らと対面していると思って来ました。
しかし朝鮮日報の説明を読むと、そうではなさそうです。朝鮮日報は「北朝鮮政府」と呼ばず、「北朝鮮政権」と書いていますし、「北朝鮮住民」と言う言い方をやめません。つまり、正統の政府は韓国であり、北朝鮮はまだ国ではないと言外に意思表示していると言う気がします。
北朝鮮が閉鎖政策を取るのは理解できますが、韓国政府がなぜ北朝鮮情報に関し統制政策を取るのか、私には分かりません。北の全体主義や国民弾圧の実態を知らせた方が、韓国政府には都合が良いと思うのは、私が第三者だからなのでしょうか。
「だが冷戦体制の終息と共に、朝鮮半島に新たな和解ムードが形成される中で、南北間の情報交流が次第に活発化している。」「南北対話の進展と民間交流の拡大に伴い、双方の実情に対する報道も増えている。」
「こうした報道と出版物を通じて、少なくとも韓国人たちは今や北朝鮮の実像について、ある程度は目を開くことができるようになった。」
「本書は、元北朝鮮人民軍師団政治委員・呂政 の回顧録である。彼はこの中で、一人の金日成主義者が自分を取り戻すまでの過程を描き出すと共に、さまざまな資料と、彼が出会った関係者たちの証言を元に、北朝鮮初期の歴史を、ある程度客観的に明らかにしている。」
「著者は1959 ( 昭和34 ) 年に粛清され、10年の間獄中生活を強いられたが、69年に釈放された直後中国に脱出。現在は、牡丹江市で暮らしている。彼は金日成の罪悪を暴露せねばならないという一念で、20年の歳月をかけてこの記録を綴ったという。」
韓国政府による北朝鮮情報の統制政策が緩んだとは言え、このような際どい本がどうして出版できたのか、理解を超えるものがあります。同社の説明を続けます。
「本書では、本来の北朝鮮地域の言葉を、あえてそのまま生かした。韓国で使われておらず、常用されていない言葉については、括弧の中に説明を付け加えた。そしてここに出てくる〈わが祖国〉というのは、北朝鮮を指すものである。」
「著者は、今でもなお、北朝鮮政権に対する恐怖心を拭いきれずにいる。身辺の安全を配慮した彼の要請に従い、〈呂政〉という仮名を使用している点をあらかじめお断りしておく。」
ここまで読みますと、黄氏が『金日成』の著作を書いたのは、韓国日報の連載記事と東亜日報の出版した本が元になっていると分りました。在日コリアンで、ノンフィクションライター、翻訳者だった氏が、よくこのような資料を手に入れたものです。
次回は、金日成関係の資料に関する説明です。ここまでで「初めに」の半分を紹介しました。