破滅だわ。
どうして声がきこえるのよ。
離れた場所にいる女のひとの声が耳元でひびく。
歌いながら……。
舞台で歌っているのに……。
ほかのこと……おもっている。
玲菜はつかれていた。
玲菜は錯乱していた。
破滅に向かって坂をころげおちている。もうだめだとおもう。
破滅の前兆はだいぶまえからあった。
ダメ! 歌うことに集中して。
「どこに消えたの」
理沙子と名乗った女はきえていた。
いままでそこにいたのに。
歌はおわっていた。拍手がまばらにした。
せりだした顎。
せりだした犬歯。
せりだした鉤爪。
それらをかねそなえたものたちも消えていた。
消去キーをおしたみたいに。
きれいさっぱり玲菜の目前からいなくなっていた。
いや幻覚だったのかもしれない。
はじめから存在しなかったのだ。
あんな忌まわしいものがこの世にいるわけがない。
吸血鬼なんてエンターテイメントの世界の住人だ。
小説、映画、テレビ、ゲーム、アニメのなかの人気キャラだ。
「どうしたの? 玲菜」
つきびとの高内さんがきく。
クレオソートでうがいをしていた。
ああここにも、わたしの不調に気づいているひとがいた。
それはそうよね。つきびとですもの。いちばんさきに気づいていて。アタリマエ。
「ねえ、変な客いた。一番前の正面」
「だれもいなかったわ。だれもまえのほうにはいなかった」
オーデイエンスもまばらだった。
と……高内さんはいう。
「オチコマナイデ。次のステージを期待しましょう」
宵の客でオリオン通りもにぎわってくるから。
そんな、高内さん。なにいっているの。
広場のまえの八百屋さん、客が通りまであふれているじゃないの。
ふりかえるとつきびとの高内さんまできえていた。
ああいや。わたし発狂しちゃう。
したら。ステージまでには帰ってきてね。
散歩でもしてきたら。
高内さんは玲菜の後ろにたっていた。
one bite,please. ひと噛みして!! おねがい。
↓
ああ、快感。
どうして声がきこえるのよ。
離れた場所にいる女のひとの声が耳元でひびく。
歌いながら……。
舞台で歌っているのに……。
ほかのこと……おもっている。
玲菜はつかれていた。
玲菜は錯乱していた。
破滅に向かって坂をころげおちている。もうだめだとおもう。
破滅の前兆はだいぶまえからあった。
ダメ! 歌うことに集中して。
「どこに消えたの」
理沙子と名乗った女はきえていた。
いままでそこにいたのに。
歌はおわっていた。拍手がまばらにした。
せりだした顎。
せりだした犬歯。
せりだした鉤爪。
それらをかねそなえたものたちも消えていた。
消去キーをおしたみたいに。
きれいさっぱり玲菜の目前からいなくなっていた。
いや幻覚だったのかもしれない。
はじめから存在しなかったのだ。
あんな忌まわしいものがこの世にいるわけがない。
吸血鬼なんてエンターテイメントの世界の住人だ。
小説、映画、テレビ、ゲーム、アニメのなかの人気キャラだ。
「どうしたの? 玲菜」
つきびとの高内さんがきく。
クレオソートでうがいをしていた。
ああここにも、わたしの不調に気づいているひとがいた。
それはそうよね。つきびとですもの。いちばんさきに気づいていて。アタリマエ。
「ねえ、変な客いた。一番前の正面」
「だれもいなかったわ。だれもまえのほうにはいなかった」
オーデイエンスもまばらだった。
と……高内さんはいう。
「オチコマナイデ。次のステージを期待しましょう」
宵の客でオリオン通りもにぎわってくるから。
そんな、高内さん。なにいっているの。
広場のまえの八百屋さん、客が通りまであふれているじゃないの。
ふりかえるとつきびとの高内さんまできえていた。
ああいや。わたし発狂しちゃう。
したら。ステージまでには帰ってきてね。
散歩でもしてきたら。
高内さんは玲菜の後ろにたっていた。
one bite,please. ひと噛みして!! おねがい。
↓
ああ、快感。