田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

あなたの隣の吸血鬼/超能力シスターズ美香&香世 麻屋与志夫

2011-01-03 08:58:21 | Weblog
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夜の街が広がっていた。遠くにネオンがまたたいている。
だがここは闇だ。ねばい闇が美香の体にまつわりついてくる。
美香は闇の中にたっていた。浮船を携えている。
浮船は日光柳生流の守り刀だった。
東照宮造営の時、家光の影護衛をつとめた但馬宗孝がそのまま日光にのこって開いた流派だ。
だがなぜか、柳生流の皆伝の書には名前をとどめていない。

闇は上野公園だった。
闇はむろん夜。夜は吸血鬼のものだ。
闇こそ吸血鬼のもの。
闇こそ吸血鬼によく似合う。
闇は吸血鬼そのものだった。
そして――そのものたちが襲ってきた。

「これは古来よりつづく、闇と光の戦いなのだ。日の光の元に生きるお前らが憎い」

地を這うような声だった。だが頭上から襲ってきた。
バサッとおおきな羽音がした。生臭い。カオリだ。
ほとんど見えぬまま、浮船で斜め上を斬った。
ほとんど直感だ。ギャッという悲鳴。
瞬時、あたりが明るくなった。
いる。
いる。
いる。
桜の古木の上。
不忍池の枯れた蓮の花茎の影にコウモリが潜んでいた。
興奮してギャギャ鳴きなから実体化してくる。
吸血鬼となる。

美香は闇に慣れてきた。
こんなみじかに吸血鬼がいた。
確固たる実体をもって存在していた。
想定外だった。
ここは美香の、幼いころからの遊び場だった。

「あんたには覚醒してもらいたくなかった」

おじさんなの。聞きなれた声がした。
闇法師のオジサンなの。
いつもぼろぼろの黒い衣をきている浮浪者。
ホームレスのオジサンだった。

わたしの遊び場所とはちがう。
異界だ。
空想の世界の住人とばかりおもっていた吸血鬼が存在している。
3Dの世界だ。いや、時間を自由にあやつり、時間を超えている。
4次元の世界だ。

「美香ちゃんとは戦いたくなかったのになぁ」

なにか口にものを含んだような声。
低い恫喝するような不気味な声。
これはわたしのしっているオジサンの声であるはずがない。

「よくのこりもののソバをもってきてくれたものな。おいしかったよ」
「わたしも、オジサンとは戦いたくない。ドウシテェ。なぜなの? どうしておじさんが吸血鬼なの」
「おれたち野上一族はこの江戸を恨んで死んだものの怨念が凝り固まって生まれた鬼だ。美香ちゃんには覚醒してもらいたくなかった。取り決めがある。約束がある。規則だ。覚醒したものとでなければわが野上の吸血鬼は戦えない。やたらへたら噛みつく今風な吸血鬼とはちがう」
「日本古来の鬼に伝承にのっとっているとでもいいたいの」
「そういうことだ。いくぞ」

ザワッと殺気がもりあがった。
いっせいに吸血鬼の群れが美香の周囲でざわめいた。
包囲網を縮めてきた。


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