田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

わたしもう走れない/超能力シスターズ美香&香世 麻屋与志夫

2011-01-12 10:52:45 | Weblog
19

すれちがった。男。オカシナ男だった。
まだ黄昏には間がある。ニット帽をふかぶかとかぶっている。
目だし帽ではない。表情は読みとれた。
動体視力。クノイチだからこその男をあやしいと感じた。
夢遊病者のようなうつろな表情を一瞬。
すれちがいざまに。
読みとつた。
だからつけた。
駅にむかっている。
ふらふらと歩いている。
憑かれているようだ。
なんども、みている。
新宿でも、池袋でも。渋谷でも。ともかく繁華街を巡回していると。
かならずみかける。
だがここは目黒の高級住宅地をひかえた通りだ。
このへんにホームレスのたむろする場所はない。
だからこそ。男の挙動不審がめだったのだろう。
クノイチ48のパトロール区域にははいっていない。
たまたまヒカルが住んでいる。
自主トレもかねてジョギングしていただけだ。

色の浅黒い男。フロにも入っていない。異臭がした。
黒いというよりも、日にあぶられてる。
日焼けしている。路上生活者の臭いがした。
ヤバイ感じ。

女子学生が駅からでてきた。
まだ街には灯はともらない。
だからこそ。
無防備に歩きだした。
毎日通いなれた通学路だ。
あの学生服は私立の……どこだったかしら。
みおぼえはあるんだけど。
おもいだせない。
そんなこと、こだわらなくてもいい。
アイツ。
危険だ。
彼女をつけて歩きだした。
彼女は路地にはいる。
もうじきだ。
家が近くってきた。
その安堵感がつたわってくる。
さりげなく歩いていた。
でも、この物騒な世の中だ。
やはり注意はしていたのだ。
だめ、ふりかえらないで。
そのままはしさって。
はやく家の玄関をくぐって。
クノイチがはしりだした。
男が腰らなにかとりだした。
腰さしていたのだ。
ナイフだ。
それもかなり長い。

「逃げて!!」

彼女は動けない。
石塀に背をおしつけて震えている。

「逃げて――」

叫びながらクノイチは男にからだをたたきつけた。
ジョギングしていので、武器はなにももたなかった。
きたえあげたクノイチの体が武器だった。
首筋に手刀、空手チョップをたたきつけた。
男はゆらいだ。
そしてゆっくりとふりかえった。
ヨダレをたらしている。

「じゃまするな。おれの食事のじゃまするな」

みぞおちに拳を叩きこむ。
倒れる。
膝をついた。
それからゆっくりと上半身を前に倒した。
ナイフではなかった。
刺し身包丁のようだ。
遠目でみたよりもさらに長い。

「ジャマしたな。クノイチ48メンバーだな。どうせ名前はいわないのだろう」
「そうよ。小太郎さんみたいな死にざまがわたしたちの理想。仲間の記憶に残ればそれでいいシ。わたしにも名前はない。あんたらに名のる名前はない」

男がおきあがった。
今まで姿は擬態だった。
顔が青く縞模様にかわっていた。

彼女は塀に背をもたせたまま失心してしまった。
クノイチは携帯でGGエクササイズにある指令室に緊急の連絡を入れた。
おかしい。
つながらない。
指令室につながらない。
襲われている。
玲加たちも、指令室も襲われている。
それいがいにかんがえられなかった。

クノイチは包丁をかまえた。
武器を手にできてもラッキー。
ヴァンパイアが歯をむいた。
ニョロっとのびた。
興奮しているのだ。
夕飯を前にして食欲が増進しているのだ。
わたしはアンタラの餌ではないシ。
切りこんだ。
かわされた。
突きを入れた。
かわされた。
まったく重力に支配されとていないみたい。
身が軽すぎる。
勝負にならない。
バーァチャルの世界の住人? 
でも、ここで噛みつかれれば、現実のわたしは傷つく。
さっと鉤爪をだした。
いよいよくる。
ホンキだ。
はやくでて。
玲加。
百子。
麻衣。
翔子。
そうだ彼女の制服は――池袋女子学園のものだ。
翔子がときおり着ている制服だ。

「逃げて」

彼女はようや覚めた。
まだ夢ごこちなのだろう。
ふらふらと去っていく。
それでいい。
速く逃げて。
クノイチは逃げられなかった。
深々と鉤爪が喉にささった。

「逃げて」

もう声は出ない。
ジョギングシューズが路上にころがった。
Vがわたしを持ちあげている。
もう走れない。



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