田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

わたし広い所でも戦える/超能力シスターズ美香&香世  麻屋与志夫

2011-01-19 12:54:27 | Weblog
26

 その闇の中へ美香がふみだした。
 広大な庭園を常夜灯だけがてらしている。
 いたるところに、闇が滞っている。
 まだ機動隊員が銃を乱射している。
 最後の一人になるまで戦う。
 そんな気迫が銃にはこめられている。

「くるわ。くるわ」
 という香世のツブヤキが後から追いかけてくる。

 美香はバラヘンスの外にいた。
 庭園の真ん中にいた。
 ミイマが真っ直ぐにサタンに迫っていった。
 真っ向勝負を挑んだ。
 堂々としていた。
 その動作。
 美香は感動した。
 あれほど美香を悩ませていた広場恐怖症。
 治っていた。快癒していた。
 ミイマの勇気への賛歌。
 ミイマへの尊敬の念。
 それが恐怖症を治した。
 人の存在は、肉体だけではない。
 心にささえられているのだ。
 翔子、百子、みんなに勇気をあたえてくれた。
 そして美香にも――。

「くるわ。オネエ、くるよ」
 香世が追いすがってきた。
「おねえ。広場だよ。パリヤはる」
「その必要はないみたい」

 黒い森からそのものがあらわれた。

 闇よりも暗いもの。
 闇をさらに恐怖で暗くするもの。
 サタンが去った後だ。
 これほどの負のエネルギーを放射するのは。
 数え切れぬ肉塊となって横たわるものを避けるでもなく。
 そのものは――。

「ヴァンパイア・マスター。エイドリアン。やはりあなたでしたか」
 アンデイが美香の隣に並び、赤毛の男をにらんでいる。

「えっ!? この男が。マスター」
「赤い毛のロックグループが日本に向かったというので……おいかけてきてみれば、やはりあなたでしたか」
「サタンに呼ばれたのでな」
「日本になんのようですか」
「投資だよ。投資。日本はいま、食べごろだからな」
 とんでもない応えがもどってきた。
「さきほどのつづきといくかい。かわいい美香ちゃん」
「まて、わたしが相手だ」
「いいえ。アンデイ、わたしにやらせて」
 
 サッと、美香は指剣をかまえた。青い炎が剣の形となった。
 マスターが鉤爪でおそってきた。

「その爪、際限なくのびるとおもって」
 百子と翔子がアドバイスを美香の背にとばす。
 爪とつめが交差して金属音をたてた。
 脅しているのだ。チャリン、チャリンと音をたてて美香に迫る。
 美香は後退する。
 マスターと美香。
 ふたたび、にらみあった。

「きたならしい鉤爪で脅かさないで」
「なら、これでどうだ」
 高く跳んだ。
 とび蹴りががおそってきた。
 体術でくるとは!!
 予想していなかった。
 美香は胸をうたれた。
 回し蹴りがおそってくる。
 中空でからだを回転させた。
 恐るべき体技だ。
 無重力の空間で動いているようだ。
 跳ばされた美香。
 さらに爪がのびてくる。
 黒い嫉風が2人の間に割って入った。
「闇法師」
「美香。浮船を使え。あの剣に乗って戦え」
「なにものだ」
「野上吸血鬼族の長。闇法師としれ」
「どけ」
 
 闇法師は避けなかった。
 体をさばいて伸びてきた鉤爪をやりすごす。
 十分にみきれたはずだ。
 それが避けなかった。

「美香。いまだ」
 美香は浮船を空に投げ上げた。
 そしてスケボウにみたててとびのった。
 虚空に浮いているマスターに指剣を叩きこんだ。

 切り口の肩から血しぶきが噴いた。
 青い噴水のようだった。
 
 どさりと大地に倒れた。
 
 闇法師が。

「おじさん、法師のおじさん」
「心配するな。おいらは、吸血鬼。死にたくても、死ねない。復活する。そしたらソバを馳走になる」
「どうして。どうしてこんなムチャスルノヨ」
「美香ちゃんの相手は、おいらだ。なにせ美香ちゃんが生まれたときからの馴染みだからな」
 美香&香世が闇法師の胸にすがった。

「おじさん、はやくもどってきて」
「あいよ。日本の女を外来種から守りぬくためにな」
 さすが、江戸時代の怨念が凝固して形成された吸血鬼。
 日本古来の鬼。
 古いことをいう。
 闇法師が若侍の顔になっていた。
 上野の彰義隊で討ち死にした若武者なのだろう。
 目には涙が光っていた。


 今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
 お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
 皆さんの応援でがんばっています。

にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へにほんブログ村