官憲関与が語られる千葉県高津の朝鮮人虐殺の真実
『払い下げられた朝鮮人』 監督:呉充功(57分)
笠原眞弓
『払い下げられた朝鮮人』とは、衝撃的なタイトルである。呉充功監督によって1986年に作られた記録映画だ。内容は想像以上だった。
千葉県でも朝鮮人虐殺があったこと、その追悼碑があることは、だいぶ前に知っていた。
千葉県民として気になっていたが、実際に行ったことはなかった。
江古田映画祭でこの映画が上映されると知り、見に行き、監督のお話しも伺った(写真)。さらに、現在編集中の作品の映像も見せていただいた。その3つの要素が、私の頭の中でグル
グル回りはじめた。
私が一人で一生懸命このことを勉強していたのは、もう30年くらい前
のことである。20年くらい前から、毎年荒川の河川敷で追悼式に参加し追悼のプンムルをするようになった。
そんなある年『隠された爪痕』を式の前に上映して、一気にこの事実が立体的に見えてきたのである。恥ずかしいことに、この作品が呉充功監督の第1作目であると知ったのは、『払い下げられた朝鮮人』を見た後である。
≪陸軍の収容所に収容された朝鮮人≫
墨田で聞く虐殺は、暴徒化した市民が武器を持って殺したという話が主だった。でも、ここ習志野駐屯地では違った。朝鮮人3500人、中国人1500人が「収容」されていたのだ。そのうち中国人の何人かは殺されたものの、ほとんどは正規の手続きを取って本国に帰されたとか。記録も正式には出てこないが、あるはずだという(監督談)。
では、3500人の朝鮮人はどうなったか? 映画は習志野駐屯地跡の俯瞰からはじまり、朝鮮人を収容所に入れる当時の写真などが写し出される。そして高津地域でかかわった方たちなどが、きちんと証言していく。
特に当時警察官だった方は、収容所に入れるために受け取りに行きながら、暴徒に阻まれたという。その方は、警察署までいったん戻り報告してから、戻ったところ、すでに虐殺がはじまっていて、収容所まで護送できなかったことを悔やんでいた。
つまり、一部の人たちは、収容される前に虐殺されたのだ。
≪軍が関与して村落ごとに殺害した事実≫
村では、陸軍から「鮮人を払い下げるから取りに来い」と言われて、集落ごとに3人くらいずつを申し受けてきたという。
その時「処分せよ」といわれたので、この人たちを集落で殺害する。しかも、当の朝鮮人に殺さなければならないからとお酒を飲ませ、どんな死に方がいいかと相談するのだ。それで鉄砲で一発ということになる。実際に実行したのは、村人ではなく、よそから来ていた鉄砲の撃てる人だという。下賜された朝鮮人は、16~18人とたいして多くなかったらしいが、残りの人たちはどうなったか映画の中では分からなかった。
ここで問題なのは、私の認識が偏っていたということ。つまり、「暴徒化した一般人による殺害」だけではない、官憲による煽りや命令があったことは知っていたが、何となく「暴徒による虐殺」と印象付けられていたことだ。
頭でわかったと気になっていることと、「理解」していることは、大きく違うのだ。 殺害に、軍は直接手を出さず、村人にやらせたという姑息さに、白黒の白茶けた映像がリアリティーをもって迫ってくる。とはいえ、軍関与である。それは重要なことである。
だから殺害のいきさつや人数、名前などの資料が公に出てこないともいえる。
≪慰霊する村人たち≫
震災後40年くらい経たころ(1964年ころ)から高津では、殺害した人を埋めた場所に卒塔婆が立ちお参りする人が現れる。70年代に入ると、中学の先生と生徒による調査が始まったようだ。1998年には遺体を掘って、6体の犠牲者を荼毘に付して近くの曹洞宗観音寺にきちんと埋葬したという
それを知った韓国の劇団「ソナンダン(?)」が自国で募金活動をして、韓国の木材、韓国の職人による立派な鐘楼を観音寺に建てる。韓国からの僧侶10人と日本の僧侶とで、落慶法要を行った。
千葉県での虐殺の掘り起こしは、前述の学校の先生たちの調査から判明したことがほとんどだという。家族から聞いたり、家にあった日記などに対する疑問が子どもたちから先生に寄せられ、古老に聞いたりして調べているうちに詳らかになったとか。
墨田区の調査も学校の先生がきっかけだった。地元や関心のある日韓の人々によって、八広の荒川河川敷で発掘調査が行われた。その後の追悼碑建立の息の長い運動に堤防わきの方が土地を提供してくださったので、2009年に念願の追悼碑が建てられた。
千葉には高津の観音寺以外にも碑があるが、どこも地味な活動で建てられていると聞く。 映画の中で見るように、中国・朝鮮人の殺害には、軍がかかわっていることは明白である。しかし、証拠となる文書が出てこない。今一番信用できる資料では、犠牲者数がおよそ6500人以上ということだ。
まだまだこのことは私自身、関心をもって追求していかなければならないと思う。江古田映画祭は、12日まで。「3.11日常」「はだしのゲン」「核兵器の終わりの始まり」他。詳しくは下記。
http://www.jtgt.info/?q=node/2580