ゴラン高原を巡って 中東で軍事大国のイスラエルとイランの対立が先鋭化し、衝突の危機が高まっている。そもそも、ゴラン高原は1967年にそれまでシリア領であったものをイスラエルが奪い取ったもの。中東は古来から、さまざまな王国が誕生しては戦争で消え、国境が定かでない。イスラエルにしろ遊牧民とされるが、ダビデ・ソロモン王朝などを起こしており、国家を持っていたことは歴史が示している。そういう複雑な歴史の背景に加えて、欧米や帝政ロシアの帝国主義介入で、訳が分からなくなっている。
それが今、ゴラン高原から戦争が起ころうとしている。戦争となれば、近代兵器に一日の長がある欧米が優勢になると思われる。以下、時事通信社の解説::::
イスラエル軍は5月初旬、隣国シリアにあるイラン精鋭部隊「革命防衛隊」の拠点を空爆。イランがイスラエル占領地ゴラン高原に向けてロケット弾約20発を発射したとして、その報復攻撃だったと主張した。「緊張の激化で、静かな生活を脅かされたくない」。イスラエルと敵対するシリア、レバノンに近接するゴラン高原の住民は「戦時下」への警戒を強めている。
◇高まる軍事的緊張
肥沃(ひよく)な丘陵にリンゴやブドウの木が溶け込み、牛が牧草をはんでいる。イスラエルが1967年の第3次中東戦争で、シリアから奪い占領したゴラン高原。点在するユダヤ人入植地ではワインやオリーブ油の製造が盛んで、観光バスにもすれ違う。
のどかな風景とは裏腹に、ゴラン高原は軍事的緊張に包まれている。イスラエルは4月以降、シリア領内のイラン軍事拠点を再三攻撃し、イラン兵や、イランが支援するイスラム教シーア派組織ヒズボラ戦闘員が多数死亡したとされる。イスラエルの存在を認めず敵視するイランが反撃に出れば、ゴラン高原は最も近い標的となるからだ。
イスラエル軍は5月10日、イランがゴラン高原に向け発射したロケット弾を迎撃したと発表。着弾被害はなかった。ただ、ヒズボラの最高指導者ナスララ師は「(今後)反撃がないと思ったら誤りだ」とイスラエルをけん制。その後もゴラン高原でロケット弾飛来を伝える誤警報が発令され、住民らは「緊張は新たな局面に入った」と話す。
◇本気の攻撃なら「地獄に変わる」
「最初は混乱もあった」。ゴラン高原の町カツリンの地域評議会職員、ダリヤ・ラモスさん(45)は振り返る。イスラエル軍はイランの攻撃に備え、ゴラン高原の住民に避難シェルター開放を指示。異例の事態を受け、ラモスさんはその20分後には警戒を呼び掛けるテキストメッセージを住民に一斉送信した。
対シリア国境まで数キロのアインジバン。住民のダビド・スペルマンさん(74)はメッセージを見て「何が起きるか分からないという意味では不安だが、ゴラン高原に住む以上は軍事的な危険は生活の一部」と語った。67年の占領直後に入植し、既に51年。「イランが国境近くに新たな前線をつくるのは絶対認めない」と語気を強める。
米国が21日に発表したイラン新戦略では、シリアからのイラン兵力撤退、イスラエルを念頭に近隣諸国への脅迫行為中止など12項目の要求を突き付けた。しかし、イランが応じる可能性は低く、むしろ態度を硬化させかねない。ラモスさんは「イランが本気で攻撃すれば、ここの生活は瞬時に地獄に変わる」と険しい表情を崩さなかった。