物質を形作る素粒子は大きく二つに分類することが出来る。クォークや電子、Wボソンといった質量のある粒子と光子(光の粒子)のような質量のない粒子である。なにがこれらの粒子の性質を分けたのだろうか?
宇宙の始まりビッグバンの当初はクォークや電子、Wボソンといった粒子も質量がゼロで、光速で好き勝手に飛び回っていた。ところが宇宙がある温度以下に冷えると、ヒッグス場という場が宇宙を海のように満たすようになった。すると好き勝手に飛び回っていた素粒子はヒッグス場と相互作用を起こす粒子と起こさない粒子に分かれるようになった。相互作用を起こす粒子は海をかき分けて進む船のように動きづらくなり、光速以下でしか動けなくなったのである。こうして粒子に生まれたのが質量であるというのがヒッグス機構である。
このシナリオによればヒッグス場に対応する素粒子、ヒッグス粒子が存在する筈である。
2012年7月4日、LHCでヒッグス粒子を見つける実験を行っているアトラスとCMSという二つのグループが、CERNのセミナーで新粒子の発見を報告した。この発見によりヒッグス機構とヒッグス粒子の提案をしていたイギリスの物理学者ピーター・ヒッグス氏の理論が正しいとして2013年のノーベル賞受賞に至った。
宇宙の大きさは、誕生時には素粒子のように小さかったが、直後にインフレーションと呼ばれる加速度的急膨張が起こって、誕生から10の34乗分の1秒後までの間にマクロな大きさとなった。その後、膨張が緩やかになったため、大量の潜熱が解放されて宇宙は高温となり、ビッグバンが起こって大量の素粒子が生み出された。ヒッグス機構によれば、当初、全ての素粒子は高速で自由に飛び回っており質量を持たなかったが、宇宙が冷却するに従って、真空にあるヒッグス場が自発的対称性の乱れを生じ、一部の素粒子はこのヒッグス場と力を及ぼし合って動きにくくなった。動きにくさの度合いが質量の大きさであるとされ、軽い素粒子ほど動きやすく、重い粒子ほど動きにくい。ここで素粒子と力を及ぼし合ったのが、ヒッグス場を満たすヒッグス粒子である。
そして、ヒッグス粒子は崩壊してさらに細かいほかの素粒子に変わる。2014年には、LHCの検出器であるATLASとCMSの共同実験チームが、ヒッグス粒子が1対のガンマ線光子へと崩壊する過程を観測したと発表している。
標準モデルでは、ヒッグス粒子がクォークと呼ばれる素粒子に崩壊する可能性も予言されている。クォークには、アップ、ダウン、トップ、ボトム、チャーム、ストレンジという6種類があり、原子をつくる陽子や中性子などを構成している。
ヒッグス粒子の崩壊は、いくつかの重要な法則にしたがって起こるとされている。例えば、ヒッグス粒子は電荷をもたないので、崩壊によってできる粒子の電荷の合計もゼロにならなければならない。ヒッグス粒子が崩壊して電荷をもつクォークになるときには、クォークと反クォーク(電荷が逆である以外はすべて同じ粒子)の対になって現れなければならない。そうすれば、クォーク対の電荷が打ち消しあってゼロになるからだ。
ヒッグス教授は、ヒッグス粒子崩壊でもノーベル賞祭受賞に値するのでは?