オーストリア北部リンツで開催された科学とアートとテクノロジーの祭典「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」で6日、そのような問いを投げ掛けるユニークな演奏会が行われた。

 

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 映像冒頭がAIソフトが作曲した6分間の「マーラー風」楽曲の一部。このほか、未完の交響曲第10番の演奏や、祭典でステージに立つロボット。6日撮影。

 オーケストラはまず、グスタフ・マーラーによる未完の交響曲第10番を演奏し、そのまますぐにAIソフトが作曲した6分間の「マーラー風」楽曲を続けて演奏した。

 プロジェクトの開発者は、2曲の違いは明らかに分かるが、曲の変化に気付かなかった聴衆もいたと話す。

 この画期的な作曲に携わったのは、AIの研究者でアルスエレクトロニカ・フェスティバル系列の研究所、アルスエレクトロニカ・フューチャーラボに作家として所属するアリ・ニックラング氏だ。作曲には、オープンソースのAIソフト「MuseNet」を用いた。

 AFPの取材に応じたニックラング氏はMuseNetで作った曲について、「それらしい音楽に聞こえて情緒的でもあるが、マーラーに詳しい人ならすぐにこれがマーラーの曲ではないと気付く」と話し、マーラーの曲に特徴的な「ハーモニーを生かした表現」はそれほど含まれていないと説明した。

 ニックラング氏によれば、AIは「過去にマーラーが私たちに残してくれたデータ」を基に学習するため、マーラー風の楽曲を作り出せるものの、マーラーの「コンセプト」や楽曲全体のテーマ自体を考え出すことはまだできないという。

 MuseNetでの作曲は、ソフトがマーラーの交響曲第10番の最初の10音を処理し、4パターンの節を提示。そのうちの一つをニックラング氏が選択すると、そこからさらに4パターンをAIが提示するといった作業が繰り返された。

「提案されるものはどれもかなり良かった…少なくとも5か月前の技術的なレベルを考えると、AIだからというわけではない」とニックラング氏は語り、MuseNetの質が飛躍的に向上したと付け加えた。

このプロジェクトによって、興味深い問いが提起されたと専門家らは指摘する。

 ドイツ人工知能研究センターのアリョーシャ・ブルヒアルト氏は、「AIの知能がそれほど優れているなら、未完の名曲を完成できるのではないかといった疑問や、AIが完成させた音楽はそんなに素晴らしいものではないのではないかといった問いが思い浮かぶ」と指摘する。

「恐らく楽曲というものは一定の論理に従って作られていて、過去にそれを会得していたのは偉大な作曲家だけだった。今は機械もそれができる。問題はそこだ」

 コンピューターが人間の作曲家には太刀打ちできないスピードで作品を大量生産すると、曲の価格が下がるかもしれない。だが、AIソフトの力を借りずに曲を書いているアーティストたちは、特別料金を請求できるようになるかもしれないと、ブルヒアルト氏は言う。

 一方で、AIにも人の手がやはり必要だと、音楽業界でのキャリアが長いオーストリアのクリスチャン・シャイブ氏は主張する。

「たとえ非常に精巧なAIを使用しても、(楽曲の出来は)それぞれの作曲家に備わった芸術性や技術にかかっている」とシャイブ氏は述べた。

(c)AFP/Julia ZAPPEI