[上海/北京 11日 ロイター] - 中国政府は、米国との貿易摩擦の長期化をにらみ、海外投資家に対して積極的に門戸を開き続けている。輸出減少や資本流出、人民元の持続的な下落を巡る懸念を強め、外国からの投資を呼び込む必要性を痛感しているためだ。
10日には国家外為管理局が、中国本土の株式や債券を売買できる「適格外国機関投資家(QFII)」と、同じく人民元建てで中国株・債券に投資できる「人民元適格外国機関投資家(RQFII)」の限度枠を撤廃すると発表した。
世界的な企業の幹部を中国に招待しようという熱心な取り組みや、フォーチュン誌が選出する大企業500社を対象とした会議を開催する計画なども、当局がいかに海外資金を求めているかの表れだ。
こうした働き掛けが成功した最も顕著な例は昨年の米電気自動車メーカー、テスラ(TSLA.O)の工場誘致だった。同社には中国初の外資100%の工場建設に対して、寛大な条件が認められた。
ある中国の上級政策アドバイザーはロイターに「海外からの投資を安定させれば、経済の安定に役立つ。それは為替レートに直接影響する」と話した。念頭にあるのは、人民元が8月に節目の1ドル=7元を割り込んで11年ぶりの安値に沈み、米中貿易摩擦が激化した5月以降の下落率が5%強に達していることだ。
実際、米中貿易摩擦が本格的に始まった昨年から、中国にとって世界中の投資家を招き入れることが優先課題の1つになっている。特に米企業の場合は、中国からの撤退を求めるトランプ大統領との間で板挟み状態にある。
先の中国のアドバイザーは、トランプ氏の「引き揚げ」命令を単なる「願望」だと一蹴した上で、海外投資家は中国の巨大な市場が持つ潜在力と消費者層に引き寄せられると自信を示した。
ただ中国の貿易黒字と外国企業による直接投資家はじりじりと減少しており、なぜ中国政府が外資を追い求めるのかを物語っている。
中国国家開発銀行傘下の証券子会社のエコノミスト、ワン・ペン氏は、関税引き上げと保護主義の高まりで中国が貿易で獲得する外貨はどんどん減っていくと指摘。「中国国内で高水準を投資を維持したいなら、海外からの資金流入は不可欠だ」と述べた。
<2つの赤字>
これは苦しい戦いだ。
中国が2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟すると、急成長を続ける同国に資金が押し寄せ、人民元は10年余りにわたって一本調子に上昇し、外貨準備は膨らみ続けた。
だがそうした流れは変化し、中国は今や資本勘定と経常勘定の両方で赤字に陥る恐れが出てきている。
経常黒字は15年以降一貫して縮小しており、昨年は491億ドルと15年ぶりの低水準を記録した。
ピクテ・アセット・マネジメントの広域中華圏債券責任者ゲーリー・ヤン氏は、中国が輸出依存度を下げ、国内消費が拡大するとともに経常収支も赤字となるのに伴って、資本の純輸入国に転じるのは自然なことだとの見方を示した。「そうなれば対外借り入れを増やして赤字を埋めなければならなくなる」という。
中国政府はそうした試練が近づいていると分かっているからこそ、海外資金を呼び込む努力を強化し、金融セクターを幅広く開放しているのだ。
過去1カ月間では、複数の中国政府高官が少なくとも4人の米金融機関トップと公式もしくは非公式に会談した。その中にはシティグループのマイケル・コルバット最高経営責任者(CEO)や、ブラックロックのラリー・フィンク会長、フィデリティ・インターナショナルの日本を除くアジア地域責任者ラジーブ・ミタル氏などが含まれる。
QFIIとRQFIIの限度枠撤廃に至るまでの一連の改革で、MSCIやFTSEラッセルは世界的な指数に中国株・債券を組み入れることに同意した。
それでも中国向け直接投資は減少基調で、ノムラの推計では、今年の純投資額は403億ドルと半分以下になりそうだ。
チャイナ・マーケット・リサーチ・グループのマネジングディレクター、ベン・キャベンダー氏は、世界に展開する巨大企業が中国から別の場所に生産拠点を分散するのは時間がかかるにしても、より小さな企業は貿易摩擦の長期化によって中国事業を閉鎖する公算が大きい、とみている。
同氏は「現在のように政策面で支障が生じている場合はいつでも、直接投資は鈍化しがちで、それが現実化していると思う。別の現実として、中国経済が減速し、投資リターンが下がっていることもある」と説明した。
もう1つの心配すべき材料は。
の厳格な資本規制にもかかわらず、第1・四半期には非公式な形で海外に流出した資金が878億ドルと過去最高に達した。一部エコノミストは、当局の監視をすり抜けるためのより「革新的」な方法で、資金が不正に出て行っている証拠だとみなしている。今後資金流出が急増すれば、人民元には一層下げ圧力が加わり、負の連鎖を引き起こしてしまう恐れがある。