ZTNetというIT系サイトが、『1年前には予想もしなかった大きな変化も--2021年以降のテクノロジー予想』という記事を掲載していた。TOP10で、』1位は”監視技術の利用や受容が進む”、2位が”Extended Reality(XR)”、3位が”通信インフラの保護、以下、”マルウエアの脅威がます”、”社長が30歳以下のベンチャーがマーケットの主軸になる”、”ローコードのソフトがIT の主役になる”、現在主流の通信サービスの年間契約制がなくなり随意契約となる”など。
世界中で進行している健康危機と景気後退によって、この数カ月の間に、どんなに優れたアナリストでも予想できなかった出来事が数多く起きた。それを考えれば、これからの数年間を見通そうとするのは難しいことだ。
調査会社のCCS Insightは、それでもこの課題に挑戦し、2021年以降のテクノロジーに関する100の予測を発表した。同社が予想を発表するのは毎年のことだ。前年の予想の中には、今後10年間でディープフェイクを検出する技術が台頭する、一部の家庭に家庭用ロボットが導入されるといった項目が含まれていた。
しかしそれから1年後のとなる2020年の予想では、その項目の多くが、何らかの形で新型コロナウイルスの影響を受けたものになっている。CCS Insightの主席アナリストAngela Ashenden氏は、米ZDNetの取材に対して、「この数カ月間に私たちが見てきたことは、私たちが専門としている多くの分野の様相を完全に変えてしまった」と述べ、「私たちが2020年に提唱した予想の多くは、2020年にしかできないものだったかもしれない」と付け加えた。
同社が予想した今後数年間のトレンドの多くは、その背景に、健康危機がもたらした働き方の劇的な変化がある。CCS Insightは、2022年になっても、オフィスで働く従業員の半数以上が依然として主に自宅で勤務しており、大企業の3分の1は、オフィスの不動産経費を平均で20%削減すると予想している。
3月頃を皮切りに世界中で在宅勤務の実験が始まってからは、同様の判断を示すレポートが数多く発表されてきた。例えば、英国経営者協会(IoD)が発表した最新の統計によれば、経営者の4分の3近く(74%)が、今回の危機が去った後もリモートワークを増やした状態を維持すると回答しており、半数以上がオフィスの利用を減らす意向を示している。
最近では「未来の働き方が到来した」というキャッチフレーズが繰り返し使われている。Ashenden氏は、この状況認識から、ほかの多くの予想が生まれたと説明する。「2020年に誰もが興味を引かれたのは、デジタルトランスフォーメーションの加速だった」と同氏は述べている。「私たちが最初に行った予想は、リモートワークに関するものだった。それが、ほかの多くの予想に影響を与えた」
例えばCCS Insightは、いわゆる「在宅勤務のラストワンマイル」について改善する製品が数多く登場すると予想している。優れたリモートコラボレーションツールは以前から存在していたが、今後ネットワークに接続されたホワイトボードデバイスなどのサービスに対する需要が高まることは不可避だからだ。同社は、2021年を通じて、Googleの「Jamboard」やMicrosoftの「Surface Hub」、サムスンの「Flip」などの利用が急激に増えると予想している。
また同社は、今回のパンデミックは、Extended Reality(XR)の分野に対する関心をあらためて呼び起こし、AppleやFacebookが従来よりも優れたハードウェアをリリースしようと進めていることもあって、中規模企業や大企業の半数以上が2025年までにXRデバイスを導入するとも予想している。
Ashenden氏によれば、現在の状況下では、企業は創造性やイノベーションを支える強い必要に迫られている。その結果、コラボレーションを可能にするツールに対する需要が急激に高まっており、これは短期的な現象ではないという。
「これらの分野は、今後はさらに主流になるだろう」と同氏は述べている。「かつては対面に依存していた業務プロセスの多くが、現在ではデジタルに移行しており、それが元に戻ることはない。人々がオフィスに戻っても、一度デジタルの世界に移ってしまった業務プロセスは元には戻らない」
CCS Insightによれば、リモートワークへの移行が進んだ結果、ネットワーク接続を提供する通信の分野にも変化が起きるという。通信事業者は2021年以降、企業に対して、会社での利用と個人での利用を区別する在宅勤務専用のサービスパッケージを提供し、企業が従業員にセキュリティやコラボレーションツール、ITサポートなどの適切なサービスを提供できるようにすると同社は予想している。また、通信事業者は、都市部よりも郊外エリアの接続性改善に力を入れる。これは、オフィス以外の場所で働く働き方が確立されつつあるためだ。
またCCS Insightは、ネットワークへの接続性がこれまで以上に重要になっていることを受けて、各国の政府は、国内の通信インフラを保護する施策を活発化させ、向こう3年間は混乱が起きると予想している。例えば、外国企業によるネットワークインフラの所有を禁止することや、通信事業者に対して、従業員を審査し、新型コロナウイルスの蔓延と結びつけるなど、5Gに関する陰謀論をひそかに信じている可能性のある従業員を一掃することが求められると考えられる。
もちろん、テクノロジー業界のすべての分野が、新型コロナウイルスをきっかけとした成長の恩恵を受けるわけではない。Ashenden氏は、近い将来、企業が不景気からの回復に力を入れる局面になれば、一部の投資はほかの投資よりも優先されるだろうと説明する。例えば、クラウドへの移行やデジタル化が優先される一方、大規模なモノのインターネット(IoT)プロジェクトや人工知能(AI)の導入は後回しにされる可能性が高い。
実際CCS Insightは、中国以外では、2026年まで、産業用IoTの分野で5Gの利用が大幅に進むことはないと予想している。これは、企業の関心が売上と利益の回復に向いているためだという。
しかし全体として見れば、同社が語る将来への見通しは明るい。CCSのアナリストは、各国の景気が新型コロナウイルス危機以前の水準まで回復するのは、2021年後半か、場合によっては2022年になると予想しているが、テクノロジー産業が経済全体よりも早い時期に回復するのは間違いないと見ている。
このことは、短期的には、企業のデジタルトランスフォーメーションを大きく進展させる。例えば、新型コロナウイルスがきっかけで多くの企業が大挙して移行を進める結果、大企業の半数は、2023年までにアプリケーションの50%以上をパブリッククラウドに移行させると予想されている。
またAshenden氏は、長期的に見れば、若い世代がテクノロジー業界に大きな破壊的変革をもたらす可能性が高いと述べている。CCS Insightの予想によれば、2023年には、30才未満の経営者が率いるスタートアップが、リモートコラボレーション市場で、現在のマーケットリーダーの地位を脅かすようになるという。
最近の調査で、英国の学校教師の4分の3が、オンライン学習やデジタル学習のプラットフォームは、初等中等教育に不可欠なものとなると考えていることが分かった。別の言い方をすれば、ジェネレーションZの未来の起業家は、従業員と同じツールを使ってオンライン授業を受けたことがある人たちになるということだ。これはこれまで歴史的にビジネスの領域にしか関心がなかったコラボレーションサービスの分野においては、非常に大きな転換点になるだろう。
「勉強かビジネスかを問わず、今私たちが仕事をこなすのに使っているツールは同じだ」とAshenden氏は言う。「これらのツールにはまだたくさんの不足している点や問題があるが、今学校や大学にいる子どもたちは、それをデジタルネイティブとして経験している」
「この分野には、大きな破壊的変革が起きる可能性がある」と同氏は続けて述べた。「彼らは、今私たちが使っているものを大きく揺るがすような、人を支える方法を思いつくかもしれない。私は、Facebookが登場して、世界を完全に変えてしまったときと同じようなイノベーションが起きる可能性があるとみている」
同社の今回の予想には、新型コロナウイルスが大きな影響を与えているが、CCS Insightのアナリストは、それ以外にもいくつか意外な予想をしている。例えば同社は、Nokiaが買収される可能性があるという予想を立てている。
いくつかの予想は、環境問題に関するものだった。同社は、2022年にはAppleが炭素排出追跡機能をリリースする可能性があるとしているほか、2030年までに、3D印刷された食品が環境に優しい食料の供給源になると述べている。CCS Insightsはまた、2021年中に、従業員のアクティビズムが原因で、Fortune 100企業の最高経営責任者(CEO)が退職に追い込まれると予想している。
ここからは、CCS Insightのアナリストによる予想のトップ10を紹介する。
- 新型コロナウイルスの蔓延によって、監視技術の利用や受容が進む。これは、政府がウイルスの感染拡大をコントロールすることを口実として、市民の行動追跡を強化するためだという。
- ロックダウン中に広がった、動画技術の普及は今後も続き、2025年までには、先進国の中規模企業および大企業の半数以上が、Extended Reality(XR)ソリューションを導入する。
- 各国政府は、新型コロナウイルスの経験で、ネットワーク接続が経済に大きな影響を与えることが明らかになったことを受けて、今後3年間にわたって、国内の通信インフラを保護するための行動を活発化させる。
- 一部の通信事業者は、5Gに関する陰謀論を信じていないかといった、従業員の調査を始める。製薬会社が、動物保護団体の秘密活動家の雇用を避けるのと同様だ。
- AIを搭載した本格的なマルウェアが、防御システムを破る能力を備え始め、自己学習型のマルウェアが、2024年までに大規模なセキュリティ侵害を引き起こす。
- 2022年には、オフィスで働く従業員の半数以上が主に在宅で勤務を行うようになる。
- 教育がオンライン化された結果、2023年までに、30才未満の経営者が率いるスタートアップが、リモートコラボレーションの分野で現在のマーケットリーダーの地位を脅かすようになる。
- 2021年には、ローコードプラットフォーム企業が買収競争の対象となり、コーディング能力がないユーザーもアプリケーションを作れるようになる。
- 通信事業者は2024年までに、ブロードバンド接続やテレビサービスの年間契約の多くを段階的に廃止し、ストリーミング企業のいつでも契約を破棄できるポリシーにならうようになる。
- Appleがアプリの広告トラッキングに対する方針を変更した影響で、ユーザーは一部のアプリがデータを収集していることを意識するようになり、2021年には広告収入に頼っている企業が悪影響を受ける。