映画「南京の真実」をみた。南京大虐殺70周年の2007年、チャンネル桜の水島総社長が製作・監督した映画で正式タイトルは「南京の真実」第一部「七人の『死刑囚』」である。
極東国際軍事裁判の7人の死刑囚の最後の一日、すなわち絞首刑執行を予告され7つの棺が運び込まれたときから、1948年12月23日午前零時すぎの執行までの24時間を描いている。花山信勝教誨師の7人への聴聞が中心だが、遺族へ伝言なので「楽しそうだったと伝えてほしい」「まるで他人事のようだった」「大往生を遂げた」といった調子で歴史的事実が語られるわけではない。連合国軍の処刑場下見、処刑者の署名、読経、葡萄酒と菓子、水杯の飲み交わしなどディテールも描かれている。あいだに松井石根が1940年2月静岡県熱海市伊豆山に建立した興亜観音のエピソードもはさんでいる。
映画の趣旨は下記のようなものだった。南京大虐殺は、松井石根・中支那方面軍司令官兼上海派遣軍司令官が厳しく監督していたのでありえない。強姦が発覚した将校1人と兵士数人は厳しく処罰した。むしろ強姦は中国の便衣兵が撹乱工作のため行っていた。したがって極東国際軍事裁判は間違いだ。裁判の30万人虐殺という数字は広島、長崎の死者20万人と東京大空襲の死者10万人を足して出てきた数合わせのウソに過ぎない。松井以外の6人も、事後法で裁かれたので無罪だ。アメリカ人弁護士ブレイクニーが法廷で主張した「原爆投下も同様に裁かれる必要がある」が正しい。
ところが、この映画に出てくる「南京大虐殺はなかった」という論拠は東宝文化映画部製作の記録映画「南京」だけである。この記録映画は陥落翌日の12月14日昼から翌年1月上旬まで撮影された。正月なので兵士が餅つきをしたり、地元の子どもが爆竹遊びをしている。こんな平和な風景、家屋もきちんとした場所で強姦、虐殺、略奪はありえないことがサイズの広いフィルムで実証されている、という主張だ。このフィルムがねつ造とは思わない。しかし当然、陸軍報道部なり憲兵隊のもとで撮影していただろうから都合の悪いシーンはもともと撮れないし、どこかに映り込んでいたらカットされているはずだ。あまり説得力はない。
なお本編のあと、南京攻略戦に参加した金沢9師団や京都16師団の90歳前後の元兵士のインタビューが続いた。もちろん「強姦などすれば憲兵に捕まる」「虐殺など見たこともない」など、南京大虐殺はなかったという主張のオンパレードだが、その人が南京のどこでどんなことをしていたかは興味深いので、もっと聞きたかった。おそらく今後製作される第2部「検証編」(ドキュメンタリー)に多数登場すると思われるので期待したい。
上映時間は2時間50分とはなはだ長い。7人の死刑囚を平等に描かないと礼を失するとでも監督が考えているかのようで、聴聞も辞世の句も、食事も7人分繰り返し描かれる。処刑は15分ほど間隔をあけ2グループに分かれて執行されたが独房を出され最後の聴聞を行い、葡萄酒や水盃を取り交わし、万歳三唱し、刑場で最後の別れを行い死刑執行する一連の儀式まで2回映写していた。主人公であるべき松井石根を中心にして170分を普通の長さの90-100分にすることはさほど難しくないはずだ。肝心の南京事件に関する裁判での訴追や弁論もいっさいなかったので「南京の真実」というタイトルにも遠かった。「南京大虐殺はなかった」という説をすでに頭に刷り込んでいる人には納得のいく映画かもしれないが、肝心の部分が弱い。死者を象徴する能の舞台や原爆か空襲で死んだ2人の小学生の姉弟のシーンをつくり工夫していたが、映画としてはもうひとつであった。「氷雪の門」のほうがずっと完成度は高く、石原慎太郎の「俺は、君のためにこそ死ににいく」ですらレベルを高く感じた。
この映画には、 浜畑賢吉(松井石根役)、十貫寺梅軒(武藤章役)、三上寛 (花山信勝役)、上村香子(松井石根夫人文子役)、烏丸せつこ(広田弘毅夫人静子役)など著名な役者が出演している。そのなかでわたくしが注目したのは寺田農(広田弘毅役)だ。城山三郎『落日燃ゆ』で、松井ら前のグループが「万歳」を叫んだのを聞いた広田が「さっきマンザイをやっていたでしょう」「いやそんなものはやりません。ああ、万歳のことですか、ではここで」と問答を交わした部分を覚えていた。城山の小説では2人だけやり広田は加わらなかったが、映画では率先して「天皇陛下万歳」「大日本帝国万歳」をやっていた。腰縄、手錠なので腕が上がらず、まるで民謡でも踊っているようで滑稽だが、少しがっかりした。寺田は、大谷直子のデビュー作「肉弾」(岡本喜八監督、1968年)に出演したとき27歳だった。鹿島灘あたりの海で回天を小型にしたドラム缶の特攻艇に乗り、戦後、白骨死体で発見される役だった。それから40年後まったく逆の立場で出演していた。
☆日曜の朝10時の回の上映を見たが、観客は30人前後と少なかった。映画の賛同者リストには、高橋史朗、藤岡信勝、八木秀次らはもちろん伊藤 隆、稲田朋美、クライン孝子、櫻井よしこ、中西輝政、西尾幹二、西部邁、東中野修道、平沼赳夫、松原仁、渡部昇一らいつものメンバーが勢ぞろいしている。
極東国際軍事裁判の7人の死刑囚の最後の一日、すなわち絞首刑執行を予告され7つの棺が運び込まれたときから、1948年12月23日午前零時すぎの執行までの24時間を描いている。花山信勝教誨師の7人への聴聞が中心だが、遺族へ伝言なので「楽しそうだったと伝えてほしい」「まるで他人事のようだった」「大往生を遂げた」といった調子で歴史的事実が語られるわけではない。連合国軍の処刑場下見、処刑者の署名、読経、葡萄酒と菓子、水杯の飲み交わしなどディテールも描かれている。あいだに松井石根が1940年2月静岡県熱海市伊豆山に建立した興亜観音のエピソードもはさんでいる。
映画の趣旨は下記のようなものだった。南京大虐殺は、松井石根・中支那方面軍司令官兼上海派遣軍司令官が厳しく監督していたのでありえない。強姦が発覚した将校1人と兵士数人は厳しく処罰した。むしろ強姦は中国の便衣兵が撹乱工作のため行っていた。したがって極東国際軍事裁判は間違いだ。裁判の30万人虐殺という数字は広島、長崎の死者20万人と東京大空襲の死者10万人を足して出てきた数合わせのウソに過ぎない。松井以外の6人も、事後法で裁かれたので無罪だ。アメリカ人弁護士ブレイクニーが法廷で主張した「原爆投下も同様に裁かれる必要がある」が正しい。
ところが、この映画に出てくる「南京大虐殺はなかった」という論拠は東宝文化映画部製作の記録映画「南京」だけである。この記録映画は陥落翌日の12月14日昼から翌年1月上旬まで撮影された。正月なので兵士が餅つきをしたり、地元の子どもが爆竹遊びをしている。こんな平和な風景、家屋もきちんとした場所で強姦、虐殺、略奪はありえないことがサイズの広いフィルムで実証されている、という主張だ。このフィルムがねつ造とは思わない。しかし当然、陸軍報道部なり憲兵隊のもとで撮影していただろうから都合の悪いシーンはもともと撮れないし、どこかに映り込んでいたらカットされているはずだ。あまり説得力はない。
なお本編のあと、南京攻略戦に参加した金沢9師団や京都16師団の90歳前後の元兵士のインタビューが続いた。もちろん「強姦などすれば憲兵に捕まる」「虐殺など見たこともない」など、南京大虐殺はなかったという主張のオンパレードだが、その人が南京のどこでどんなことをしていたかは興味深いので、もっと聞きたかった。おそらく今後製作される第2部「検証編」(ドキュメンタリー)に多数登場すると思われるので期待したい。
上映時間は2時間50分とはなはだ長い。7人の死刑囚を平等に描かないと礼を失するとでも監督が考えているかのようで、聴聞も辞世の句も、食事も7人分繰り返し描かれる。処刑は15分ほど間隔をあけ2グループに分かれて執行されたが独房を出され最後の聴聞を行い、葡萄酒や水盃を取り交わし、万歳三唱し、刑場で最後の別れを行い死刑執行する一連の儀式まで2回映写していた。主人公であるべき松井石根を中心にして170分を普通の長さの90-100分にすることはさほど難しくないはずだ。肝心の南京事件に関する裁判での訴追や弁論もいっさいなかったので「南京の真実」というタイトルにも遠かった。「南京大虐殺はなかった」という説をすでに頭に刷り込んでいる人には納得のいく映画かもしれないが、肝心の部分が弱い。死者を象徴する能の舞台や原爆か空襲で死んだ2人の小学生の姉弟のシーンをつくり工夫していたが、映画としてはもうひとつであった。「氷雪の門」のほうがずっと完成度は高く、石原慎太郎の「俺は、君のためにこそ死ににいく」ですらレベルを高く感じた。
この映画には、 浜畑賢吉(松井石根役)、十貫寺梅軒(武藤章役)、三上寛 (花山信勝役)、上村香子(松井石根夫人文子役)、烏丸せつこ(広田弘毅夫人静子役)など著名な役者が出演している。そのなかでわたくしが注目したのは寺田農(広田弘毅役)だ。城山三郎『落日燃ゆ』で、松井ら前のグループが「万歳」を叫んだのを聞いた広田が「さっきマンザイをやっていたでしょう」「いやそんなものはやりません。ああ、万歳のことですか、ではここで」と問答を交わした部分を覚えていた。城山の小説では2人だけやり広田は加わらなかったが、映画では率先して「天皇陛下万歳」「大日本帝国万歳」をやっていた。腰縄、手錠なので腕が上がらず、まるで民謡でも踊っているようで滑稽だが、少しがっかりした。寺田は、大谷直子のデビュー作「肉弾」(岡本喜八監督、1968年)に出演したとき27歳だった。鹿島灘あたりの海で回天を小型にしたドラム缶の特攻艇に乗り、戦後、白骨死体で発見される役だった。それから40年後まったく逆の立場で出演していた。
☆日曜の朝10時の回の上映を見たが、観客は30人前後と少なかった。映画の賛同者リストには、高橋史朗、藤岡信勝、八木秀次らはもちろん伊藤 隆、稲田朋美、クライン孝子、櫻井よしこ、中西輝政、西尾幹二、西部邁、東中野修道、平沼赳夫、松原仁、渡部昇一らいつものメンバーが勢ぞろいしている。