12月17日(日)午後、「第33回人権と報道を考えるシンポジウム」が水道橋のスペースたんぽぽで開催された(主催:人権と報道・連絡会)。今年のテーマは「森友・加計疑獄と報道――ゆがめられた行政を監視する責任」、今年前半大きく注目を浴び、発覚後、安倍首相は憲法違反を犯してまで臨時国会を開かせず、そして「アベ難解散」で総選挙に逃げ込んだ2大「疑獄」事件だ。
パネリストは豊中市議の木村真さん、「加計獣医学部問題を考える会」共同代表の黒川敦彦さん、東京新聞社会部記者の望月衣塑子さん、人報連世話人の浅野健一さんの豪華メンバー、司会は人報連の山際永三事務局長だった。あまり広くはない会場は文字通りスシ詰め状態だった。
4時間にも及ぶ長いシンポジウムだったので、わたくしがとくに関心をもったところだけ紹介する。それでもずいぶん長文になってしまった。安倍独裁政権の強引さだけでなく、ここにはあまり書けなかったが、マスコミの功罪についても考えさせられるシンポジウムだった。
●木村真さん(森友学園問題を考える市民の会・共同代表、豊中市議会議員)
木村さんの講演は3月末に議員会館で聞いた。地元豊中でどのように森友問題を発掘し、疑惑解明運動を展開したかということは「木村真・豊中市議が抉る森友問題の本質」(リンク)で書いたので、そちらを参照していただきたい。 ここでは、木村さんとマスコミの関わりについて話されたことに絞って紹介する。
昨年11月下旬にジャーナリストの西谷文和さんのインターネットラジオの番組に白井聡さんとともにゲスト出演し、森友問題を話した。そのとき西谷さんからマスコミ各社に情報提供してはどうかとアドバイスされた。それで名刺交換した記者のなかから十数人に連絡を入れたところ、毎日、大阪のNHK、大阪の共同通信の記者が取材に来てくれ「これは怪しい。独自に取材してみる」といってくれた。しかし一向に記事にならない。
これは何か具体的なできごとがないと取り上げにくいのではないか、と近畿財務局の職員を背任で刑事告発することにした。
じつはもうひとつきっかけがあった。12月に毎日放送が夕方の報道番組で取材に来た。17日の金曜に取材依頼の連絡があったので、「22日まで議会の本会議があるので23か24ではどうか」と答えた。すると「30分か1時間なのになぜ時間がとれないのか」とかなり強引に迫るので早めに取材を受けた。内容は政務活動費で「3年間で膨大な本(450冊)を買っている」というものだった。しかしなんら違法な点はないし隠したわけでもない。書名・金額・領収証を添付したからこそ取材に来たわけだ。ところが1冊ずつ「この本は豊中のどの条例と関係あるのか」「この本で、いったいどういう議会質問をしたのか」「この本はどんな政策実現に反映されたのか」と聞く。21日にオンエアされたものをみると、怪しげなBGMを流し「1対1で対応できるものではなく、何の役にも立っていない本もある」と答えたところだけ流していた。また事務所に入ってくるところから盗み撮りして、わたくしが机の上を片付けているシーンが映し出された。撮っていることに気づかなかったが、もし気づけばきっと「なんのあいさつもなしに撮影するのか」と気色ばんだと思う。もしカメラを遮ったりすれば、きっとその映像が流されただろう。これは5分間のミニ特集だったが、なぜ公共の電波を使ってこんな番組をと思った。10月からビラまきをしていたこともあり「森友問題をやると、お前なんかいつでもつぶせる」という警告かとも思った。こうなったら、つぶすかつぶされるのかだと腹をくくり、ビラまきの地域を拡大し2月8日に提訴、記者会見した。翌日大阪朝日が独自取材も加え7段ぬき記事を掲載し、一気に全国レベルの疑惑事件になっていった。
ただひとつ気になる点がある。この事件は、税金のムダづかいという意味でのたんなるオンブズ系ニュースではない。あくまでも、教育勅語を幼稚園の生徒に暗唱させ、ヘイト発言が日常化するカルト右翼学園に、政権中枢が肩入れした事件ととらえるべきだ。安倍は第一次政権のときに教育基本法を改悪し、育鵬社教科書の採択運動を行い、教育への介入に尋常ならざる執念をもっている人物だ。もしヨーロッパで首相がネオナチ学園に100万円寄付したりすれば大きな政治問題になる。大手メディアはこの点に触れていない。
●黒川敦彦さん(加計獣医学部問題を考える会・共同代表)
黒川さんは、加計学園グループの岡山理科大学獣医学部の予定地である愛媛県今治市で、公文書の開示請求を行い加計疑惑を追及している。10月の総選挙では、安倍の本拠地山口4区で立候補した。
加計疑惑には2つの大きな論点がある。ひとつは国会でも追及され前川喜平氏がいう「行政が歪められている」という問題だが、わたしたちは、加計の獣医学部はそもそも計画がデタラメでカネについての疑義があることを追及している。
最前線として、50億の補助金詐欺事件とウィルス漏れが発生するずさんな設計の2つについて説明する。
わたしたちは、建築費は2倍程度に水増しされており、水増し分の約50億の現金は政治家に配られるのではないかと疑っている。つまり加計問題は政治とカネの問題というわけだ。今治市は36億円の土地無償譲渡に加え96億円(市64億円、愛媛県32億円)の補助金交付を決定している。しかし96億円が適正かどうか、市も市議会もだれも見積もりを入手せず、建築費が適正かチェックしていない。
わたしたちは独自に加計の建築図面を入手し、8月23日に公開した。建築費は木造住宅なら坪単価40万くらいからで、森ビルの六本木タワーですら110万円なのに、加計は図面から計算すると150万円になっている。図面には「外壁は6センチのコンクリートパネル」など仕様も記載されているが、建築の専門家にみせると倉庫に毛のはえたような仕様なので、民間なら70万円を切ってもおかしくないという。イオンモールはボリュームディスカウントもあるが、45万円で建てている。
加計は、建築着工統計用に33万平方mを80億でつくるという数字を国交省に提出しており、坪単価88万円ということになる。88万でも高いほうだが、学校建築物の単価としてはありうる数字だ。150万との差額が水増し分と考えられる。
図面の公開と同時にニュース23と報道ステーションがこの数字も含めて報道してくれたが、それまで沈黙を続けた加計から即座に4通のファックスが届いた。そのなかに80億は1期工事であり2期工事もあると書いてあった。建築費は136億ということになっているので、2期は56億ということになる。しかし2000平方m程度しかないので、坪単価952万円と、とんでもない数字になる。もともとウソをいっているのでだんだん辻褄が合わなくなり、以降加計はいっさいしゃべらなくなった。
11月の特別国会予算委員会で原口一博議員(民進)が追及し、文科省から「1期121万、2期216万」という数字が提出された。単価の精査は、文科省も内閣府も今治市もやらない。
この建物の設計は加計学園グループのSID創研で、取締役として加計夫人の泰代さんが就任している。施工は加計氏と親しい大本組とアイサワ工業だ。
もうひとつの「100%ウィルス漏れが発生する設計」を説明する。これは内閣委員会で山本太郎議員(自由)が追及してくれた。
鳥インフルエンザなど危険なウィルスを研究するBSL3という研究室は5坪しかなく、マウスも鳥も飼育できず実験もできない。しかも建物の真ん中にあるので、まわりは学生がうろうろしているし、ウィルスはだれでも乗れるエレベータで運ぶことになっている。
だからこんなところでウィルス研究はできないし、やらないのだと考えられる。しかしそれでは特区の要件(獣医師養成系大学・学部の新設の石破4条件)に合わなくなる。
最後に、山口4区で立候補し、「税金ドロボー、カネ返せ!!」のポスターを1000か所に貼り、ボランティアとカンパのみで闘った体験からイタリアの五つ星運動を紹介する。リカルド・フラカーロ下院議員が来日し11月28日に参議員会館で講演した。
五つ星運動は、創設6年目の2013年の総選挙に千数百人が立候補し、900議席のうち130議席(上院40、下院90)を獲得した。かかった金額は5000万、供託金がないので1人4万円にしかならない。ポイントは千数百人立候補させたことだ。その人たちがネットで友人に呼びかけたので、ネットが騒然となったそうだ。日本でも市民が立ち上がり、もっと立候補する人が増える社会環境になれば、こういう新しいムーブメントがつくれるのではないかと思う。
なお、安倍首相を相手に10月16日に刑事告訴し、12月20日に今治市を相手取った住民訴訟の第1回期日の裁判がある。多くの方に「モリカケ共同追及プロジェクト」への参加を呼びかけている。
●望月衣塑子(いそこ)さん(東京新聞社会部記者)
望月さんは6月の菅官房長官記者会見でデビューし、質問を重ねて食い下がり有名になった。しかし「殺すぞ」という脅迫電話が新聞社にかかってきたそうだ。この日のスピーチでも「問題ない。関係ない」という菅官房長官の口癖や山本幸三・地方創生担当大臣の「わたくしめが言いました」の口マネを交え、雨宮処凛さん並みのマシンガン・トークが炸裂した。
2人の子どもの育休・産休を終え2014年に職場復帰し、武器輸出の取材を始めた。それまで事件一色、政治オンチのわたしだったが、4月1日に武器輸出三原則を大きく転換し「防衛装備移転三原則」が閣議決定された。国家のありかた、経済政策のあり方が、武器を売って稼ぐアメリカの軍産複合体のミニ版のように変わっていくだろうと、安倍政権に危機感をもった。
当時、官邸主導で、オーストラリアに12隻4兆2000億で潜水艦を輸出しろと指示を出し一気に舵を切っていた。そうりゅう型潜水艦は音が静謐だからだ。それだけに機微技術や機微情報のかたまりなのに、政権はリスクがわかっていないようだった。安倍政権の下、日本が変わっていくことを肌感覚で感じていた。
それに加え、伊藤詩織さんの準強姦事件で、2015年6月4日、中村格刑事部長が逮捕直前に執行見送りを指示する事件が起こった。その後不起訴になったが、中村氏は菅官房長官の秘書官を長く務め信頼の厚い人物だ。これまで十数年事件報道をやってきて、検事が執行停止させることはあっても警察のトップが止めることなど一度も経験がない。司法の場まで歪められ始めたと感じた。
6月に前川喜平・元文科事務次官に4時間弱のロングインタビューをした。なぜ安倍政権に疑問をもつようになったか聞くと、06年の第一次安倍政権の教育基本法改正がきっかけだったという。前川氏は旧教基法がとても好きで全文暗唱していて、とりわけ前文の「平和を希求」という文言が好きだったのに削除された。日本に民主主義を根付かせるためつくられたのに、これでは日本の教育のあり方が根本から変わっていく、安倍政権は非常に危ういと感じたと話した。一方の籠池氏も、それまでは「変なおっちゃん」と見られていたのに、教育基本法が変わり役所の人が自分をていねいに扱うようになった。「政治の力はすごい、安倍さんすごいわ」と心酔するようになった。
行政の場が歪み、政治が変わり教育の場も変えられていく。さまざまな疑問をもち安倍首相に聞きに行こうと思ったが、総理への会見では報道官が決まった人しか指さない。それでナンバー2の菅さんに聞くことにした。
本当は社会部が会見に出るのはご法度らしいが、部長に「もう少しモリカケを聞きたいので」というと「いいよ。キャップにだけ言っといてな」とOKが出た。それで前川問題で、読売報道の半年も前に内閣府が出会い系バー通いを把握していたことについて、「全省の事務次官にこんなことをやっているのか」と聞くと「そんなことやっていない」と答える。「不正の温床となるような場所に行き、教育者としてあるまじき」と紙をみながら何回もいう。そのことを聞くと「心から思っていることをいったまでだ。あなたに、紙を読んでいるか答える必要はない」と答える。
2回目は詩織さんのことを聞かねばと、事前に知っていたのではないかと思って聞いた。「知らない」という「警視庁において必要な捜査を行い、検察で不起訴になった。こういうことだ」。加計学園の文科省と内閣府のやりとり文書については、役人が身の危険を冒して告白しているのだから何としても再調査させないとと「きちんとした回答をもらっているとは思わないので」と繰り返し質問したが、菅さんは「仮定の質問に答えるわけにはいかない」というのが大好きだ。
望月さんは、幣原喜重郎首相が9条戦争放棄が生まれた事情を語った「世界は今一人の狂人を必要としている。(略)世界は、軍拡競争の蟻地獄から抜け出すことができない。これは素晴らしい狂人である。その歴史的使命を、日本が果たすのだ」という言葉で話を締めくくった。
●浅野健一さん(同志社大学教授、人報連世話人、元共同通信記者)
わたしは「安倍晋三記念小学校疑獄」「加計学園獣医学部疑獄」と呼んでいるが、この2つの疑獄事件の報道は日本のジャーナリズムを少しだけ国際標準に近づける突破口になったと思う。モリカケ解散に追い込み、結果としては小池・前原につぶされたが、大きな潮流は続くと思う。
黒川さんの山口4区選挙に、2回応援に行った。安倍本人は選挙区に入らず、代わりに昭恵夫人が出陣式にやってきた。黒川さんは大胆にも「4区で立候補した黒川と申します」とあいさつし、山本太郎さんは夫人と握手していた。わたしは「国会証言しないんですか。100万円は本当に渡したんですか」と取材した。するとスーツ姿の男性に「もっと下がれ」「記者なら腕章をしろ」といわれたので「フリーだから腕章はない」と答えた。おそらく警視庁のSPではないかと思われる。「私人」のはずなのにSPが付くとは。最後にこぶしをグーにして腹を殴られた。抗議すると「あなたね、邪魔なんだよね」といって立ち去った。12月16日に正式に告訴状を送付した。街宣カーに乗り込んだ昭恵夫人の第一声は「参議院議員の山本太郎さん、お見えになられてありがとうございました」だったので、たいしたタマだと思った。
11月に大学設置審議会が認可を答申し文科省が認可したのですべてが終わったかのように思われているが、わたしはまだまだハードルがあると考えている。96億円の補助金はまだ議会に上提されていない。県知事は自民でなく、維新ということもあり、3月31日までに支払われない可能性もある。あきらめてはいけない。
この件について、黒川さんから補足説明があった。今治市も64億をいったん一般会計に組み込む必要があるが、議会審議は3月にある。また愛媛県は2018年11月に県知事選があるので、この件は選挙が終わってからにする可能性もある。また県・市とも一度に交付するのでなく分割払いになる可能性もある。
☆このほか、木村さんと浅野さんから11月に起きた大阪の人民新聞編集長別件逮捕事件の話があった。キャッシュカード2枚を金融機関から詐欺をしたという容疑で1か月勾留して起訴し、一方家宅捜索ですべてのパソコンや読者名簿を押収した。小さな新聞社なので編集長と2人で発行しているので発刊の危機に立たされている。現代の言論弾圧事件である。そのもう一人の編集者がなんと園良太氏だというので驚いた。今年3月11日の東電本店合同抗議で見かけた園氏が「Go West Come West!!! 3.11関東からの避難者たち」というグループを結成したとアピールするのを聞いたときにも驚いたが、新聞の編集もやっていたのだ。
パネリストは豊中市議の木村真さん、「加計獣医学部問題を考える会」共同代表の黒川敦彦さん、東京新聞社会部記者の望月衣塑子さん、人報連世話人の浅野健一さんの豪華メンバー、司会は人報連の山際永三事務局長だった。あまり広くはない会場は文字通りスシ詰め状態だった。
4時間にも及ぶ長いシンポジウムだったので、わたくしがとくに関心をもったところだけ紹介する。それでもずいぶん長文になってしまった。安倍独裁政権の強引さだけでなく、ここにはあまり書けなかったが、マスコミの功罪についても考えさせられるシンポジウムだった。
●木村真さん(森友学園問題を考える市民の会・共同代表、豊中市議会議員)
木村さんの講演は3月末に議員会館で聞いた。地元豊中でどのように森友問題を発掘し、疑惑解明運動を展開したかということは「木村真・豊中市議が抉る森友問題の本質」(リンク)で書いたので、そちらを参照していただきたい。 ここでは、木村さんとマスコミの関わりについて話されたことに絞って紹介する。
昨年11月下旬にジャーナリストの西谷文和さんのインターネットラジオの番組に白井聡さんとともにゲスト出演し、森友問題を話した。そのとき西谷さんからマスコミ各社に情報提供してはどうかとアドバイスされた。それで名刺交換した記者のなかから十数人に連絡を入れたところ、毎日、大阪のNHK、大阪の共同通信の記者が取材に来てくれ「これは怪しい。独自に取材してみる」といってくれた。しかし一向に記事にならない。
これは何か具体的なできごとがないと取り上げにくいのではないか、と近畿財務局の職員を背任で刑事告発することにした。
じつはもうひとつきっかけがあった。12月に毎日放送が夕方の報道番組で取材に来た。17日の金曜に取材依頼の連絡があったので、「22日まで議会の本会議があるので23か24ではどうか」と答えた。すると「30分か1時間なのになぜ時間がとれないのか」とかなり強引に迫るので早めに取材を受けた。内容は政務活動費で「3年間で膨大な本(450冊)を買っている」というものだった。しかしなんら違法な点はないし隠したわけでもない。書名・金額・領収証を添付したからこそ取材に来たわけだ。ところが1冊ずつ「この本は豊中のどの条例と関係あるのか」「この本で、いったいどういう議会質問をしたのか」「この本はどんな政策実現に反映されたのか」と聞く。21日にオンエアされたものをみると、怪しげなBGMを流し「1対1で対応できるものではなく、何の役にも立っていない本もある」と答えたところだけ流していた。また事務所に入ってくるところから盗み撮りして、わたくしが机の上を片付けているシーンが映し出された。撮っていることに気づかなかったが、もし気づけばきっと「なんのあいさつもなしに撮影するのか」と気色ばんだと思う。もしカメラを遮ったりすれば、きっとその映像が流されただろう。これは5分間のミニ特集だったが、なぜ公共の電波を使ってこんな番組をと思った。10月からビラまきをしていたこともあり「森友問題をやると、お前なんかいつでもつぶせる」という警告かとも思った。こうなったら、つぶすかつぶされるのかだと腹をくくり、ビラまきの地域を拡大し2月8日に提訴、記者会見した。翌日大阪朝日が独自取材も加え7段ぬき記事を掲載し、一気に全国レベルの疑惑事件になっていった。
ただひとつ気になる点がある。この事件は、税金のムダづかいという意味でのたんなるオンブズ系ニュースではない。あくまでも、教育勅語を幼稚園の生徒に暗唱させ、ヘイト発言が日常化するカルト右翼学園に、政権中枢が肩入れした事件ととらえるべきだ。安倍は第一次政権のときに教育基本法を改悪し、育鵬社教科書の採択運動を行い、教育への介入に尋常ならざる執念をもっている人物だ。もしヨーロッパで首相がネオナチ学園に100万円寄付したりすれば大きな政治問題になる。大手メディアはこの点に触れていない。
●黒川敦彦さん(加計獣医学部問題を考える会・共同代表)
黒川さんは、加計学園グループの岡山理科大学獣医学部の予定地である愛媛県今治市で、公文書の開示請求を行い加計疑惑を追及している。10月の総選挙では、安倍の本拠地山口4区で立候補した。
加計疑惑には2つの大きな論点がある。ひとつは国会でも追及され前川喜平氏がいう「行政が歪められている」という問題だが、わたしたちは、加計の獣医学部はそもそも計画がデタラメでカネについての疑義があることを追及している。
最前線として、50億の補助金詐欺事件とウィルス漏れが発生するずさんな設計の2つについて説明する。
わたしたちは、建築費は2倍程度に水増しされており、水増し分の約50億の現金は政治家に配られるのではないかと疑っている。つまり加計問題は政治とカネの問題というわけだ。今治市は36億円の土地無償譲渡に加え96億円(市64億円、愛媛県32億円)の補助金交付を決定している。しかし96億円が適正かどうか、市も市議会もだれも見積もりを入手せず、建築費が適正かチェックしていない。
わたしたちは独自に加計の建築図面を入手し、8月23日に公開した。建築費は木造住宅なら坪単価40万くらいからで、森ビルの六本木タワーですら110万円なのに、加計は図面から計算すると150万円になっている。図面には「外壁は6センチのコンクリートパネル」など仕様も記載されているが、建築の専門家にみせると倉庫に毛のはえたような仕様なので、民間なら70万円を切ってもおかしくないという。イオンモールはボリュームディスカウントもあるが、45万円で建てている。
加計は、建築着工統計用に33万平方mを80億でつくるという数字を国交省に提出しており、坪単価88万円ということになる。88万でも高いほうだが、学校建築物の単価としてはありうる数字だ。150万との差額が水増し分と考えられる。
図面の公開と同時にニュース23と報道ステーションがこの数字も含めて報道してくれたが、それまで沈黙を続けた加計から即座に4通のファックスが届いた。そのなかに80億は1期工事であり2期工事もあると書いてあった。建築費は136億ということになっているので、2期は56億ということになる。しかし2000平方m程度しかないので、坪単価952万円と、とんでもない数字になる。もともとウソをいっているのでだんだん辻褄が合わなくなり、以降加計はいっさいしゃべらなくなった。
11月の特別国会予算委員会で原口一博議員(民進)が追及し、文科省から「1期121万、2期216万」という数字が提出された。単価の精査は、文科省も内閣府も今治市もやらない。
この建物の設計は加計学園グループのSID創研で、取締役として加計夫人の泰代さんが就任している。施工は加計氏と親しい大本組とアイサワ工業だ。
もうひとつの「100%ウィルス漏れが発生する設計」を説明する。これは内閣委員会で山本太郎議員(自由)が追及してくれた。
鳥インフルエンザなど危険なウィルスを研究するBSL3という研究室は5坪しかなく、マウスも鳥も飼育できず実験もできない。しかも建物の真ん中にあるので、まわりは学生がうろうろしているし、ウィルスはだれでも乗れるエレベータで運ぶことになっている。
だからこんなところでウィルス研究はできないし、やらないのだと考えられる。しかしそれでは特区の要件(獣医師養成系大学・学部の新設の石破4条件)に合わなくなる。
最後に、山口4区で立候補し、「税金ドロボー、カネ返せ!!」のポスターを1000か所に貼り、ボランティアとカンパのみで闘った体験からイタリアの五つ星運動を紹介する。リカルド・フラカーロ下院議員が来日し11月28日に参議員会館で講演した。
五つ星運動は、創設6年目の2013年の総選挙に千数百人が立候補し、900議席のうち130議席(上院40、下院90)を獲得した。かかった金額は5000万、供託金がないので1人4万円にしかならない。ポイントは千数百人立候補させたことだ。その人たちがネットで友人に呼びかけたので、ネットが騒然となったそうだ。日本でも市民が立ち上がり、もっと立候補する人が増える社会環境になれば、こういう新しいムーブメントがつくれるのではないかと思う。
なお、安倍首相を相手に10月16日に刑事告訴し、12月20日に今治市を相手取った住民訴訟の第1回期日の裁判がある。多くの方に「モリカケ共同追及プロジェクト」への参加を呼びかけている。
●望月衣塑子(いそこ)さん(東京新聞社会部記者)
望月さんは6月の菅官房長官記者会見でデビューし、質問を重ねて食い下がり有名になった。しかし「殺すぞ」という脅迫電話が新聞社にかかってきたそうだ。この日のスピーチでも「問題ない。関係ない」という菅官房長官の口癖や山本幸三・地方創生担当大臣の「わたくしめが言いました」の口マネを交え、雨宮処凛さん並みのマシンガン・トークが炸裂した。
2人の子どもの育休・産休を終え2014年に職場復帰し、武器輸出の取材を始めた。それまで事件一色、政治オンチのわたしだったが、4月1日に武器輸出三原則を大きく転換し「防衛装備移転三原則」が閣議決定された。国家のありかた、経済政策のあり方が、武器を売って稼ぐアメリカの軍産複合体のミニ版のように変わっていくだろうと、安倍政権に危機感をもった。
当時、官邸主導で、オーストラリアに12隻4兆2000億で潜水艦を輸出しろと指示を出し一気に舵を切っていた。そうりゅう型潜水艦は音が静謐だからだ。それだけに機微技術や機微情報のかたまりなのに、政権はリスクがわかっていないようだった。安倍政権の下、日本が変わっていくことを肌感覚で感じていた。
それに加え、伊藤詩織さんの準強姦事件で、2015年6月4日、中村格刑事部長が逮捕直前に執行見送りを指示する事件が起こった。その後不起訴になったが、中村氏は菅官房長官の秘書官を長く務め信頼の厚い人物だ。これまで十数年事件報道をやってきて、検事が執行停止させることはあっても警察のトップが止めることなど一度も経験がない。司法の場まで歪められ始めたと感じた。
6月に前川喜平・元文科事務次官に4時間弱のロングインタビューをした。なぜ安倍政権に疑問をもつようになったか聞くと、06年の第一次安倍政権の教育基本法改正がきっかけだったという。前川氏は旧教基法がとても好きで全文暗唱していて、とりわけ前文の「平和を希求」という文言が好きだったのに削除された。日本に民主主義を根付かせるためつくられたのに、これでは日本の教育のあり方が根本から変わっていく、安倍政権は非常に危ういと感じたと話した。一方の籠池氏も、それまでは「変なおっちゃん」と見られていたのに、教育基本法が変わり役所の人が自分をていねいに扱うようになった。「政治の力はすごい、安倍さんすごいわ」と心酔するようになった。
行政の場が歪み、政治が変わり教育の場も変えられていく。さまざまな疑問をもち安倍首相に聞きに行こうと思ったが、総理への会見では報道官が決まった人しか指さない。それでナンバー2の菅さんに聞くことにした。
本当は社会部が会見に出るのはご法度らしいが、部長に「もう少しモリカケを聞きたいので」というと「いいよ。キャップにだけ言っといてな」とOKが出た。それで前川問題で、読売報道の半年も前に内閣府が出会い系バー通いを把握していたことについて、「全省の事務次官にこんなことをやっているのか」と聞くと「そんなことやっていない」と答える。「不正の温床となるような場所に行き、教育者としてあるまじき」と紙をみながら何回もいう。そのことを聞くと「心から思っていることをいったまでだ。あなたに、紙を読んでいるか答える必要はない」と答える。
2回目は詩織さんのことを聞かねばと、事前に知っていたのではないかと思って聞いた。「知らない」という「警視庁において必要な捜査を行い、検察で不起訴になった。こういうことだ」。加計学園の文科省と内閣府のやりとり文書については、役人が身の危険を冒して告白しているのだから何としても再調査させないとと「きちんとした回答をもらっているとは思わないので」と繰り返し質問したが、菅さんは「仮定の質問に答えるわけにはいかない」というのが大好きだ。
望月さんは、幣原喜重郎首相が9条戦争放棄が生まれた事情を語った「世界は今一人の狂人を必要としている。(略)世界は、軍拡競争の蟻地獄から抜け出すことができない。これは素晴らしい狂人である。その歴史的使命を、日本が果たすのだ」という言葉で話を締めくくった。
●浅野健一さん(同志社大学教授、人報連世話人、元共同通信記者)
わたしは「安倍晋三記念小学校疑獄」「加計学園獣医学部疑獄」と呼んでいるが、この2つの疑獄事件の報道は日本のジャーナリズムを少しだけ国際標準に近づける突破口になったと思う。モリカケ解散に追い込み、結果としては小池・前原につぶされたが、大きな潮流は続くと思う。
黒川さんの山口4区選挙に、2回応援に行った。安倍本人は選挙区に入らず、代わりに昭恵夫人が出陣式にやってきた。黒川さんは大胆にも「4区で立候補した黒川と申します」とあいさつし、山本太郎さんは夫人と握手していた。わたしは「国会証言しないんですか。100万円は本当に渡したんですか」と取材した。するとスーツ姿の男性に「もっと下がれ」「記者なら腕章をしろ」といわれたので「フリーだから腕章はない」と答えた。おそらく警視庁のSPではないかと思われる。「私人」のはずなのにSPが付くとは。最後にこぶしをグーにして腹を殴られた。抗議すると「あなたね、邪魔なんだよね」といって立ち去った。12月16日に正式に告訴状を送付した。街宣カーに乗り込んだ昭恵夫人の第一声は「参議院議員の山本太郎さん、お見えになられてありがとうございました」だったので、たいしたタマだと思った。
11月に大学設置審議会が認可を答申し文科省が認可したのですべてが終わったかのように思われているが、わたしはまだまだハードルがあると考えている。96億円の補助金はまだ議会に上提されていない。県知事は自民でなく、維新ということもあり、3月31日までに支払われない可能性もある。あきらめてはいけない。
この件について、黒川さんから補足説明があった。今治市も64億をいったん一般会計に組み込む必要があるが、議会審議は3月にある。また愛媛県は2018年11月に県知事選があるので、この件は選挙が終わってからにする可能性もある。また県・市とも一度に交付するのでなく分割払いになる可能性もある。
☆このほか、木村さんと浅野さんから11月に起きた大阪の人民新聞編集長別件逮捕事件の話があった。キャッシュカード2枚を金融機関から詐欺をしたという容疑で1か月勾留して起訴し、一方家宅捜索ですべてのパソコンや読者名簿を押収した。小さな新聞社なので編集長と2人で発行しているので発刊の危機に立たされている。現代の言論弾圧事件である。そのもう一人の編集者がなんと園良太氏だというので驚いた。今年3月11日の東電本店合同抗議で見かけた園氏が「Go West Come West!!! 3.11関東からの避難者たち」というグループを結成したとアピールするのを聞いたときにも驚いたが、新聞の編集もやっていたのだ。