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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

国連人種差別撤廃委員会の「朝鮮学校無償化除外問題」への勧告

2010年04月26日 | 集会報告
3月17日、「朝鮮学校無償化除外の動きに懸念 国連人種差別撤廃委」という記事が新聞各紙に掲載された。ちょうどこの問題への署名活動が全国で活発に行われている時期で、わたしたちはとても勇気づけられた。中井洽(ひろし)拉致問題担当相の「問題発言」が報道されて1か月も経たない時期だったので、なぜこんなに早くタイムリーな勧告が出たのかと驚いた。この間の事情がわかるセミナーが開催された。
4月23日(金)冷たい霧雨が降る夜、新川区民館で反差別国際運動(IMADR)事務局の小森恵さんをゲストに「人種差別撤廃委員会の日本政府への勧告」というセミナーが開催された(主催:平和力フォーラム)。司会進行は前田朗さん(東京造形大学教授)で、お二人とも2月24―25日にジュネーブで行われた審査の場にNGOとして参加された。対談形式のセミナーで、国連人種差別撤廃委員会の日本政府への勧告までのプロセスが明らかになった。わたくしは「朝鮮学校無償化除外問題」に関心があるので、その部分を中心に、前田さんのブログも一部援用しつつ報告する。
セミナーは18時30分から始まったが、わたくしが到着したのは19時前だったので最初のほうは残念ながら聞くことはできなかった。

●日本報告審査事前質問状へのNGOの働きかけ
日本政府は95年12月国連の「人種差別撤廃条約」に加入し、96年1月に批准した。批准国は世界の173カ国に及ぶ。各国政府は委員会に報告書を提出することになっており、委員会はこれをもとに数年に一度審査する。日本政府に対しては前回は01年3月に所見が発表された。今回日本政府は2001年から08年の分の報告をまとめて08年8月に提出し、09年11月委員会から事前質問状(list of issues)が届いた。
人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)は、反差別国際運動日本委員会(IMADR-JC)も含め84団体28個人が参加するマイノリティ当事者団体・個人を中心にしたネットワークである。
国連は開かれているので、「事前質問状でこういう質問をしてほしい」という要望をNGO団体が出すことができる。そこでERDネットの参加者に問題をあげてもらい、1.政府の姿勢を問いだたす項目、2.01年所見で勧告されたにもかかわらず改善されていない項目、3.個別コミュニティの問題、に整理して昨年8月末に提出した。また11月に事前質問状が届いたあと、政府回答とは別に、NGO版の回答書を作成し今年1月末に委員会に提出した。
●ジュネーブでのNGOブリーフィング
人種差別撤廃委員会の委員は18人で、学者、弁護士、宗教者、元外交官など人種差別問題の専門家たちである。アジア、西ヨーロッパ、アフリカなど地域バランスも考慮して、批准国の互選で選ばれる。日本人はいない。18人のなかで国別の審査担当者が選ばれ、日本担当はイギリスのパトリック・ソーンベリー委員だった。
2月の審査では日本、オランダ、パナマ、アイスランドなど11カ国が2週間で審査された。ひとつの国につき、1日目は午後3時から6時まで委員がさまざまな質問をし、2日目の午前10時から13時まで政府が答える。日本政府代表団は、上田秀明・人権人道担当大使、志野光子・人権人道課長、ジュネーブ日本政府代表部、外務・法務・厚生労働・文部科学など各省の若手官僚、合計18人だった。
審査前日23日の午後1時45分から1時間、NGO側から委員にブリーフィングする時間がある。日本からは日弁連の弁護士3人を含め12人が参加した。委員の出席は任意で義務ではないが、10人以上の委員が参加した。1時間しかないので、審査でぜひ取り上げてほしい問題について分刻みのプレゼンテーション計画を立てた。分野横断的な課題では差別禁止法の早期制定、国内人権機関の早期発足、個人通報制度の必要性など、個別問題ではアイヌ、琉球・沖縄、在日コリアン、、外国人移住者問題などを説明した。
在日コリアン問題のなかで12月の京都朝鮮学校襲撃事件のDVDを上映した。また直前に、「中井洽拉致問題担当相が、高校無償化に関し、在日朝鮮人の子女が学ぶ朝鮮学校を対象から外すよう川端達夫文部科学相に要請した」ことが報道されたので、これを目玉にした。そのほか、日本国籍のない人は家裁の調停員になれないことを訴えた人もいた。
●2日間の審査
審査は、レマン湖のほとりにある国連人権高等弁務官事務所が使っているパレ・ウィルソンという建物の会議室で行われた。NGOも傍聴できる。日本の審査は24日午後と25日午前に行われた。
24日の審査は、上田人権人道大使の報告書の概要紹介から始まった。アイヌ民族の有識者懇談会の設置、アイヌ政策推進室とアイヌ政策推進会議の設置などが中心で20分ほどだった。そのあとソーンベリー委員が1時間半ほど、かなりつっこんだ質問を行った。政府が相手なので、統計数字も含め緻密な情報収集に基づくものだった(詳しくは前田さんのブログのグランサコネ通信2010-05を参照)。その後各委員から質問があった。高校無償化朝鮮学校除外問題については2人の委員から質問があった。
アレクセイ・アフトノモフ委員(ロシア)は「高校無償化問題で(中井)大臣が、朝鮮学校をはずすべきだと述べている。すべての子どもに教育を保証するべきである。朝鮮学校の現状はどうなっているのか」と問い、ホセ・フランシスコ・カリザイ委員(グアテマラ)は「朝鮮学校に関して、もっとも著名な新聞の社説にも、高校無償化から朝鮮学校を排除するという大臣発言への批判が出ている。すべての子どもに平等に権利を保障するべきだ」と主張した。
アフトノモフ委員は日本語を読むことができ、前日のブリーフィングでNGOが指摘したことを早速朝日新聞社のネットで確認してくれた。24日の朝日の社説は「高校無償化――朝鮮学校除外はおかしい」というものだった。また日本の新聞記者も取材しており、この質問を報道してくれた。
25日には日本政府の回答があった。各省庁の担当が前日の委員の質問ひとつひとつに答える「マジメ」な回答だが、東京の上司が作成した回答を朗読しているような感じで、余計なことを言ってはいけないといわれているようだった。(詳しくはグランサコネ通信2010-06、07を参照)
高校無償化朝鮮学校除外問題については、人権人道課長から「指摘のあった記事の内容は承知しているが、法案では高等学校の課程に類するものを文部科学省できめるとしている。今後の国会審議を踏まえつつ適切に考慮していきたい」との回答があった。
自由に発言できるのは人権人道担当大使と人権人道課長の2人だけのようだったが、大使からとんでもない発言が飛び出した。「民は日本人であり、何の違いもない、民は私たちだ。同じだ」、「沖縄語は日本語の変形だ」、「先住民族の国際法上の定義はない。どのように定義するというのか」というものだ。08年に「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」を衆参両院で採択しているのにその精神を尊重しない発言だ。問題については、人権人道課長が焦って同和対策についてフォローしていたほどだ。なぜこんな人物が「人権人道担当大使」なのかわからない。(グランサコネ通信2010-06「怒りの記者会見」を参照)
●審査の総括所見
それから半月後の3月16日審査の総括所見が発表された。29項目もの日本政府への懸念と勧告が記載されている。
差別を禁止する法律制定の検討、独立した人権機関の設置、公務員や一般住民への人権教育など分野横断的な勧告、このなかには2001年勧告で改善されなかったものも多くある。そして個別の課題である問題、アイヌ民族、琉球沖縄、在日コリアン、移住者などへの勧告である。
パラグラフ25で「マイノリティの文化や歴史をもっと反映するように既存の教科書を改訂すること」、26でテレビ、ラジオなどのメディアや報道で人種差別につながる偏見への措置を強化することが勧告された。
最後のほうのパラグラフ33で「1年以内に勧告に対するフォローアップ情報の提供」を求めている。
高校無償化朝鮮学校除外問題については、パラグラフ22で「子どもの教育に差別的な効果をもたらす以下のような行為に懸念を表明する」として「締約国において現在、公立・私立の高校、高等専門学校、高校に匹敵する教育課程を持つさまざまな教育機関を対象にした、高校教育無償化の法改正の提案がなされているところ、そこから朝鮮学校を排除すべきとの提案をしている何人かの政治家の態度(第2条、5条)」、と指摘している。

民主党政権に代わり初の大規模な国連の審査だったので、NGOは、発言できる地位にある政治家を審査の場に送ってほしいと要望した。しかしだれも来なかった。今回の勧告内容を知らない議員がほとんどだろう。小森さんは「議員に、いろんなやりとりやいきさつがあったうえでの勧告であることを、背景も含めきちんと理解してほしい。またマイノリティの当事者の声も聞いてほしい」と語った。

☆朝鮮学校問題で触れられている人種差別撤廃条約2条は「各締約国は、政府(国及び地方)の政策を再検討し及び人種差別を生じさせ又は永続化させる効果を有するいかなる法令も改正し、廃止し又は無効にするために効果的な措置をとる」、5条は「第2条に定める基本的義務に従い、締約国は、特に次の権利の享有に当たり、あらゆる形態の人種差別を禁止し及び撤廃すること並びに人種、皮膚の色又は民族的若しくは種族的出身による差別なしに、すべての者が法律の前に平等であるという権利を保障することを約束する」である。
3月に川端達夫文部科学相は、朝鮮学校無償化問題の結論が出るのは今年夏以降になると述べたが、ぜひこの条約の趣旨を理解した結論を出してほしいものである。

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