多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

新自由主義化が加速する練馬の教育

2008年04月01日 | 集会報告
3月29日午前、石神井交流センターで開催された3.29教育シンポジウム(主催:生かそう1947教育基本法!練馬連絡会議)を聞いた。
この日のテーマは「練馬の子どもたちは、これでしあわせになれるの?」。練馬の保育園では20園の民間委託計画、小学校では一挙に8校の統廃合、学童クラブでは全児童対象の「放課後子どもプラン」、そして二学期制、学校選択、学校統廃合、小中一貫教育などさまざまな「教育改革」が急ピッチで進行している。共通するのは、現場の声を聞かずトップダウンの進め方で、子どものことを考えず、とにかくやってみようという姿勢である。その影には教育分野の新自由主義の進展が透けて見える。

1 区立保育園民間委託について  区職労保育園分会の方
練馬区では、これまでに区立保育園3園を民間委託した。2005年12月光が丘第八(委託先:ピジョン株式会社)、06年4月石神井町つつじ(委託先:NPO法人未来こどもランド)、向山(委託先:社会福祉法人多摩福祉会)である。今後2009年度の光が丘第四から2016年度の桜台第二、早宮まで原則として毎年2園ずつ計16園を民間委託する方針にしている(豊玉第二は建替え計画の変更により、委託開始を09年度から10年度に変更)。
当局との交渉により改善した点が3つある。
まず年度途中の委託開始はしないということだ。これまでの体験から、光が丘第八のように1月から3月は卒園に向けた集大成の時期に保育士が変わると子ども達が4~5月の状況に戻ってしまうことがはっきりした。
2番目に、引継ぎ期間を1年間に延ばした。また当局との検証のなかで、リーダー級のベテラン保育士が脇で見守り公立保育園の状況を学んでもらうことにした。民間委託先にとっては前年4月から職員6~8人を配置しなければいけないので高いハードルになる。
3番目に、現場の職員はフォロー職員として残さないことにした。旧職員に負担をかけないというだけでなく、光が丘第八の教訓から、子ども達に無用の混乱を生じさせないためだ。
豊玉第二は今年1月、大規模改修工事に入りゲードボール場跡の仮園舎に移転したので委託開始時期を09年度から10年度に1年延ばした。建替えを機に民間委託する予定だ。
現在は定員45人だが、76人に増員し0歳児保育を始める。看護士、調理員を含め職員5人を増員する必要があるが、公務員を増やす余裕がないことが民間委託する理由だという。
光が丘第四は来年4月から民間委託の予定だが、昨年12月に業者選定のプロポーザルを実施し2社応募があったものの選定委員会で「該当なし」という結果になり1年延びた。また選定委員に父母を加えてほしいと要望したところ、発言権はないのに守秘義務のあるオブザーバーという資格で1人参加することになった。
2010年度以降の予定を1年ずつずらすのかと思ったら北町、高野台はそのままとのことなので4園同時民間委託ということになる。すると75人の職員が宙に浮く。職員削減の方法は新人採用をせず自然減のみであり、退職者は今年が20人、来年が30人余りなので、残りは過員となる。豊玉第二は5人増員する余裕がないため民間委託するといっているのにおかしな話だ。
ある大学では「就職するとき練馬区には行くな」と教えているという。
会場からの意見や質問
一番最初に民間委託した光が丘第八は06年度に職員が26人退職、07年度も9人退職し「(保育の質の)下限を下回る」と2年続きで改善勧告の対象になった。もう一度直営に戻せという運動を繰り広げたい。この問題は、光が丘第八だけに止まらないのではないか。
民間委託された先の労働条件はどうなのか、組合はあるのか。新たなワーキングプアを生まないようにしたい。
→向山の委託先である社会福祉法人多摩福祉会には労組があり連絡を取っている。民間委託した保育園は直営より朝・夜30分ずつ時間延長し7時~20時半で、休日保育もある。子どもたちにどんな影響があるか調べたい。また直営には定員20人という基準がある。これは万一の場合に子どもを背負って逃げられる人数との観点からだ。しかし民間委託では定員を撤廃した。
光が丘第八から転園した保護者の話を聞いた。まるで戦火からなんとか逃れたような気分で、やっと話ができる状態になったと語った。
保育園民営化を全国的にみると、社会福祉法人で引き受ける余力のあるところは関東ではすでになく、秋田、神戸などの法人が応募している状態だ。受け皿の問題もある。練馬は他の自治体と違い、営利企業も委託先に含めている。これから始まる光が丘第四の再公募で企業は排除したい。
今年3月末に厚生労働省は改訂・保育所保育指針を告示した。今回から指針は告示行為となり規範性を有することになった。今年1年は試行期間で来年4月施行される。行政に声をあげ、パブリックコメントで意見を出すことも必要だ。

2 放課後子どもプランのゆくえ  学童保育指導員の方
放課後子どもプランは、厚生労働省管轄の学童保育と文部科学省管轄の放課後子ども教室を一体的あるいは連携して実施させようと昨年4月から国が始めた事業である。練馬区では07年5月から部長・係長クラスの検討会議を立ち上げ8回審議した後、8月に区民を一本釣りして関係者会議を設置した。委員は校長会、P連、学校応援団、青少年地区委員、学校開放運営委員会など14人だが、学童クラブ関係は2人だけだった。11月に区長に報告を提出し、委員は今後設置される運営委員会に横滑りで就任することになっている。
放課後子どもプランには一体型と連携型の2つがあり、練馬区は連携型を選択した。一体型では学童保育の質が低下する問題、連携型では目的や運営方法が異なるため簡単に代用できないという問題がある。学童保育は専任の指導員(公務員)が付き専用スペースを使うが、学校応援団はボランティアだ。
なお全児童対策のひろばづくり事業や学校応援団はこれより先04年度に始まっている。
わたしが危惧するのは本当に「連携」にふさわしい運営がなされるかということだ。たとえばハード面では入り口の作り方はどうなるのか、ソフト面では「連絡会議」で学童保育指導員はどう位置づけられるか、指導員はより多忙にならないか、といった問題だ。
練馬区は05年12月新長期計画を策定し06~10年度の5年で500人削減する数値目標を立てた。03年12月策定の第一次行政改革プランでは計画時の350人より多い人数を削減した。また07年10月策定した第二次区立施設委託化・民営化実施計画では民間委託を拡大することにしている。
3月27日児童館や地区区民館に設置されている大泉北と春日町の学童クラブを廃止し、09年4月校内に学童クラブを新設し、同時に民間委託する計画を発表した。
先行する品川区は学童をやめ、すまいる事業のうち「遊び」の部分は業者委託した。多くの問題が出たので学童クラブを復活させようという動きもある。しかしいったん廃止したものは復活させるのはたいへんなエネルギーを要する。
今後は区民との連携づくりが課題となる。
会場からの意見や質問
学校応援団のひろばづくり事業で子どもの事故が起きたとき、保険適用外の場合どうするのか情報がほしい。
最近小学校6年の女児が学校の階段から落ちて口の中を切る大きなケガをした。そのときは教員が夜の9時近くまで付き添った。連携事業ではどうなるのだろうか。
春日小では3月初めに、畑にしている小さいほうの校庭に学童クラブが出来ると聞かされた。しかも民間委託だというので驚愕している。保護者や一般教員への情報伝達が悪すぎる。

3 練馬区版「教育改革」で区がやろうとしていること  都教組練馬支部の方
1)二学期制
二学期制は教育長の号令下、現場の声を聞くプロセス抜きで07年度中学、08年度小学校で全区いっせいに導入された。そこで2つの問題が発生した。ひとつは2期制に合わせて行事予定をつくるという「逆立ち」した取組になることだ。もうひとつは高校受験への影響だ。一学期の成績は10月に出るがそれでは時期が遅いという声、進路決定前の二学期の試験は11月1回だけしかなく、10月とそれほど違う成績を付けられないという問題だ。また「学びの連続性」ということで夏休みに学力補充教室を開催しているが、勉強の強迫のようになっている。二学期制をいいと思う人は現場にはだれもいない。トップダウンの教育改革の象徴だ。
2)学校選択制
学校選択制は04年度の経過措置を経て05年度から本格実施され、今年全学年が選択実施後の入学生となった。
その結果3つの問題が起きている。まず過大規模校と過小規模校の二極化に拍車がかかったことだ。旭丘、豊渓、大泉学園桜など周辺部の学校は過小になり、最小の学校では77人→63人→48人と生徒数の減少が進行している。これらの学校が統廃合の対象になっている。第二に地域との一体化がなくなりつつある。区平均で2割が学区域外に流出、2割が私立・国立中学に流出している。5割以上区域外に流出する中学が6校ある。一方20以上の小学校から流入する中学もある。半数以上が学区外から流入する学校では、転勤者子弟もいるがイジメの結果入学する生徒もいる。そういう生徒が多い場合、困難に直面することもある。また、練馬区版学力テストが中1で実施され結果はHPで公表される。学校評価を行う中学が増え生徒を「お客さま」扱いする校長もいるようだ。
3)学校統廃合
光が丘の8つの小学校を4つに統廃合する適正配置第一次実施計画が2月8日決定された。昨年8月発表の計画案と比較して、教育方針決定に「教職員の話し合い」が加筆されるなど評価すべき点はある。しかし決定権限はどこにあるのか、新校の教職員への具体的支援策がないことなど問題が残っている。説明会では小規模校のよさを訴える声が聞かれた。保護者からみると、現状より悪くなるのではないかという不安が残る。また、進め方を間違えると学級崩壊やイジメが発生する。
4)小中一貫教育校
3月5日、小中一貫教育推進委員会が区長に答申を提出した。08年度からカリキュラムを作成し、11年4月開校を目標にすると、つくることを前提に進めている。
5)新基本構想
3月10日「練馬区の将来像を考える区民懇談会」が区長に報告書を提出し、3月24日と27日に報告発表会が開催された。教育分野だけとっても問題の多い新基本構想だ。区は09年度に議会の議決を通し政策化を進めようとしており、今後論議する必要がある。
会場からの意見や質問
超特急で教育改革が進んでいる。小中一貫教育校はモデル校をたった1校実施しただけですぐ全区に広がりかねない。答申をよく読んで、先手を打つ必要がある。
統廃合や学テ体制はいっきに進む可能性がある。行政からみて、最大の障害は地域のつながりだ。逆にいうと地域のつながりが弱いところがねらわれる。光が丘は統廃合の最初の標的となった。地域のつながりの強い文京区は、統廃合だけでなく民間委託に歯止めをかけることにも成功した。
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