多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

博物館のような書店 松丸本舗

2011年04月18日 | 日記
一度書いたかもしれないが、わたくしのもっとも古い「趣味」は書店巡りだった。過去形で書いたのは、書店にあまり行かなくなってもう10年近くなるからだ。理由はいろいろある。まずあまりにも発刊点数が増えたことがある。数は多いものの「価値ある本」の出現率は、20-30年昔に比べ少ない。勢い週刊読書人など他人が書いた書評をみて読む気になったものを図書館にネット予約することになる。いまは23区内の図書館は提携しているし、いざとなれば都の中央図書館から取り寄せてもらえるので、借りられない本はまずない。ただベストセラーなど人気のある本は3か月とか4か月待ちになる。どうしても買いたい本は、アマゾンや「日本の古本屋」のネットの古書でもっとも安い本を購入しているので、ますます書店に足を運ばない悪循環となる。
だいたい、昔でいう大型書店はますます巨大化して、店内を歩くだけで疲れてしまう。
たしかに千駄木の往来堂書店のような「特色ある棚づくり」をしている小規模の店は、宝石でもながめているようで見ていて楽しい。しかしそういう書店はじつに少ない。

松丸本舗は、東京駅丸の内口のオアゾ丸善本店4階にある「ショップインショップ」の書店である。広さは65坪、2009年10月にオープンした。書店というより松岡正剛氏の「知の博物館」のような様相を呈している。
松丸本舗は、外壁のなかに二重の同心円がある構造になっている。外円の内側と内円の内外両側は「本殿」という名で、一種の「常設展」である。松岡氏の著書「千夜千冊(求龍堂 全7巻 2006)の配列に従い、「1 遠くからとどく声」「2 猫と量子が見ている」「3 脳と心の編集学校」「4 神の戦争・仏法の鬼」「5 日本イデオロギーの森」「6 茶碗とピアノと山水屏風」「7 男と女の資本主義」と心ときめくタイトルをもつ7つのブロック(巻)から成る。それぞれの巻は10前後の章に分かれる。「遠くからとどく声」は、さらに「銀色のぬりえ」「少年達の行方」「リボンの恋」「遠方からの返事」など11章に分かれる。編集工学者で、分類と結合の達人、松岡正剛氏ならではの魅力的な棚が次から次へと現れた。
書棚は6-7段で、前後に本を並べられる奥行がある。たとえば後列が単行本、前列が文庫といった具合だ。自宅の本棚と同じように横置きして積んである本もある。棚の前面には、ところどころ松岡氏直筆の手書き文字で「乱歩と久作を知らないまま、年をとってはいけません」「最近のぼくはブコウスキー、オースター、チャンドラーの順」などと書いたシールが貼ってある。これは客の視覚の動きを狙った工夫だそうだ。

外円の外側は「本集」という企画展で、わたくしがみたときは「男本・女本・間本」というテーマだった。これも花鳥風月の4つの章から成る。「風」は「歴女哲男」、「鳥」は「オスとメスの生物学」、「月」は「ハイパーセクシュアリティ」というサブタイトルがついている。
「月」は、「ジェンダーな思想」と「商品化された性記号」の2つのセクションから成る。「ジェンダーな思想」はさらに「男尊女卑の時代」「マッチョな男」「婦人参政権に始まる」など9つの節に分かれ、「商品化された性記号」は「女もの男もの」「美女論・美男論」「快楽の装置」「繚乱ポルノグラフィ」などの項から成る。「美女論・美男論」の棚には清水真理の桃色と青の2体の兎少女の人形が展示されていた。33万6000円の値札が付いていたのでこれも商品である。なお人形やロボットは男でも女でもないということなのだそうだ。「女もの男もの」のコーナーに、昔読んだ「ペヨトル興亡史」があった。倒産した出版社の歴史の本だったはずなのでなぜこの本がと思って聞くと「夜想」のバックナンバーを並べているからだそうだ。「繚乱ポルノグラフィ」の棚には手書き文字で「これは本格ポルノの棚です。どうぞドードーと手にしてレジに持っていって下さい」とあった。
テーマが合えば、漫画も古書も同じ棚に並んでいる。絶版になった書籍はスタッフが新刊取次ぎとは違うルートから仕入れているそうだ。わたしのように1970-80年代の価値ある書籍が新刊書のようにみえる世代にとって、よい試みだと思う。
こんなに詳しく構成を書けるのは、じつは博物館の学芸員のように、イシス編集学校のブックショップエディターという職の方が常駐しており、ツアーを行い解説していただいたからだ。

4つある外壁のひとつは「造本 杉浦康平の意匠」というコーナーになっていた。杉浦氏は松岡氏の工作舎の初期の雑誌「」のエディトリアルデザインを引き受け、それ以来の古いつきあいなのだそうだ。 
「宮武外骨著作集」(河出書房)、「タルホ・クラシックス 稲垣足穂」(読売新聞社)、「シリーズ食文化の発見」(柴田書店)はガラス付きの書棚に収められ、鍵がかかっている。これは杉浦さんから借りた作品だそうだ。日夏耿之介全集(河出書房新社)、「遠山啓著作集」(太郎次郎社)季刊銀花(文化出版局)は、鍵なしの普通の棚に並んでいた。

一番長い外壁を使い、鴻巣友希子氏、長谷川真理子氏、福原義春氏、町田康氏、山口智子氏、中谷巌氏、森村泰昌氏などの蔵書を並べている。コーナーの名は「本家」である。 
じつは、わたくしにはこのコーナーが一番興味深かった。昔あった「本棚が見たい!(川本武文 ダイヤモンド社 96.6)のように覗き見趣味の欲望を満たし、かつ現物を手にとってみることもできる。
森村泰昌氏の本棚の上4段は「ウメップ(梅 佳代)、「千野香織著作集(ブリュッケ)など、美術、写真、建築の本だった。5段目には「無痛文明論(森岡正博 トランスビュー)、「東京」(坪内祐三 太田出版)、「桂米朝集成」( 岩波書店)など、6段目は文庫本で「ブンとフン」(井上ひさし)、「江分利満氏の優雅な生活」(山口瞳)など、7段目は「阿Q正伝」「白痴」「冷血」など、最下段は「ナルニア国ものがたり」「海底二万海里」「ウは宇宙船のウ」「ジャーロックホームズの事件簿」「いやいやえん」など、おそらく小中学生のころの愛読書と思われる本が並んでいた。
長谷川真理子氏の棚に生物学の本が並んでいるのは当然だが、はロフティングの「ドリトル先生物語(岩波書店)が、それも少年文庫ではなく全集で12巻揃えて並んでおりなつかしかった。「レディ・ジョーカー(高村薫)もあった。

☆「松岡正剛の書棚―松丸本舗の挑戦(中央公論新社 1500円 2010.7)を購入した。書店で本を買うのは1月以来のことだ。この記事を書くための参考資料として購入したのだが、博物館としての松丸本舗の一種のカタログになっている。松丸本舗では、週に1回程度「ワークショップ」も開催している。ますます博物館らしい。講師はブックショップエディター、テーマは「読書の秘訣 セイゴオ流目次読書術」である。目次読書術とは、本文を読む前にじっくり目次をながめ、著者の構想を想像し、そのあと想像との相違をみつけながら読めば著者の論旨の「明」と「無明」をつかむうえで有効だという読み方なのだそうだ。
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