多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

都内散策 羽子板資料館のあるまち向島

2011年04月11日 | 都内散策
春の日の土曜の午後、言問橋の向こう岸の向島を散策した。本所吾妻橋の駅から歩き始め、業平橋を経て北上する。
まず、言問橋近くのすみだ郷土文化資料館を訪問した。戦争孤児の企画展が行われていた。

45年3月10日の東京大空襲でこのあたりは大きな被害を受けた。東京大空襲では10万人近い人が亡くなったが、そのうち2万7000人は墨田区の住民だった。とくに北十間川以南は全滅だった。戦争孤児は1947年の厚生省の調査で12万3000人に及ぶ。上野駅の新聞売りや靴磨きの子ども、「狩り込み」で収容された子ども、「鐘の鳴る丘」をモデルにした群馬県の少年園などの写真と4人の元・戦争孤児の方の証言映像のビデオが放映されていた。
深川区生まれのある女性は9歳で孤児となり、愛知県の母の実家に引き取られたが「居候に二杯も食べさせるな」といわれる待遇で、その家を出て各地を転々とすることになった。神社の軒先で野宿することもあり、その当時のことを思い出して描いた絵が展示されていた。軒先にたたずむ寂しそうな少女を三日月が照らしている。「親戚から追い出され、夜は神社の隅で・・・」と手書きの説明が付いていた。

資料館を出て見番通りという粋な名前の通りのはずれまで歩くと、隅田川のほとりに有名な言問団子の店があった。向島は江戸後期から墨堤の桜で有名だったが、明治になると料亭街に発展し、1940年には芸妓1300人を擁する日本有数の花柳界となった。いまも料亭が18軒、100人以上の芸子がいるそうだ。

その東、向島5丁目に羽子板資料館がある。
職人のまち墨田区では25年も前の1985年から、小さな博物館運動、マイスター運動、工房ショップ運動の3M運動を展開している。そこで、藍染、合金鋳物、屏風、乾燥木材、ブレーキ、名刺など24ものミニ博物館が開館している。この資料館もそのひとつで、ご主人は1921年生まれで90歳、いまは息子さんが2代目として跡を継いでいる。
店先を活用したミニ博物館なのでスペースは広いとはいえないが美しい羽子板がびっしり展示されていた。正面には、歴史的な押し絵羽子板、右手の壁には汐汲、女暫など女の子の初正月に贈る優しい印象の押し絵羽子板が並んでいる。絵柄は歌舞伎俳優が多く、江戸時代はブロマイド代わりに鑑賞されたそうだ。毎年12月17-19日に浅草寺で行われる羽子板市には数十軒の羽子板商が集まり、この業界にとって一大イベントだそうだ。羽子板には厄除けの役割もあり、縁起物として使われた。2代目の奥方が親切に解説してくださった。わたくしは初正月の羽子板という風習を知らなかったが、ネットでみると男の子には破魔弓、女の子には羽子板をお守りとして贈るのは江戸時代からかなり全国的なならわしだったようだ。
手前のガラスケースには、普通の木の羽子板が展示されている。
面相師に弟子入りした初代は、戦争から帰り、昭和30年ごろこの場所で店を構えた。2006年に名誉都民として顕彰され、2010年には墨田区名誉区民に選ばれた。名誉区民第一号で、ホームラン王の王貞治さんと並び2人が顕彰された。 

一筋北には鳩の街通り商店街が延びている。路地のように幅の狭い店の両側に、はんぺん・さつま揚げの店、洋傘製造・卸店、竹製家庭用品店、質屋、そば屋などがまるで昭和30年代あるいは40年代のような店が並んでいる。
さらに北には永井荷風の「墨東奇譚」や「断腸亭日乗」で有名な玉ノ井があった。文化資料館の方にお聞きして墨田2丁目周辺を歩いたが、跡地はよくわからなかった。

帰りに、京成曳舟駅から300mほど八広寄りにある岩金酒場に立ち寄った。浜田さんのブログで知った店だ。
L字のカウンターが中心で、そのほか2つか3つテーブル席があった。客は近所の常連さんが多いようで、話がはずんでいる。
酒は焼酎ハイボール、炭酸をビンで出してくれて継ぎ足して飲めるのでちょっと得した気分になれる。わたしは煮込みやさつま揚げ焼きを注文したが、あとでネットで調べるとまぐろや貝の刺身、ハムカツやもんじゃグラタン、ポテサラなどボリュームのあるものも人気メニューのようだ。
切り盛りしているのは女性3人。女性が3人以上集まると、赤羽のまるます屋や立石の江戸っ子と同じように元気がよく、店中に活気があふれていた。

☆この日歩いたどこからでも、建設中の634mの東京スカイツリーがよく見えた。このまちはまさに「ALWAYS 三丁目の夕日(山崎貴 2005)の昭和30年代のようだった。来春開業する予定だが、あと20年たつといまの芝のようにちょっと垢抜けた街に変貌してしまうのだろうか。
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