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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

今年の教科書採択に見る問題点

2009年11月03日 | 集会報告
10月31日(土)午後、中野の環境リサイクルプラザで「どうなっているの?教育の現状 教科書採択に問題あり!」という集会が開催された(主催 中野の教育を考える草の根の会)。
「中野の教育を考える草の根の会」は、月一度集まり学習会や運動を行い、これまで沖縄強制集団死の高校歴史教科書検定問題で請願や署名運動を行ってきた。今年の教科書採択では採択方法について、質問書提出、教育長との面談、陳情提出を行った。そして歴史・東京書籍、公民・教育出版が採択された。
集会のプログラムは、今年の採択について中野・杉並・練馬からの報告と全国の状況に関する俵義文さんの講演だった。俵さんの講演を中心に紹介する。

●全国の教科書採択、結果から見えてくること  俵義文さん(子どもと教科書全国ネット21
今年の教科書採択が終了した。教科書販売(株)のデータによれば、扶桑社が歴史・公民教科書合わせて11451部、自由社の歴史が14019部で合計25470部。2005年は8614部だったので約3倍に増えた。
重要なのは横浜市で自由社の歴史教科書が採択されたことだ。18採択地区中8区で約13000部が採択された。市教委は2005年の採択のときと採択システムを大きく変えた。これまでは審議会の答申を尊重していたのに、今回は6人の教育委員の無記名投票で採択したのである。05年の採択でも今田委員が扶桑社賛美の大演説を行ったが、当時の教育長が審議会答申を尊重して採択した。
横浜は2001年に教科書取扱審議会を設置した。審議会に現場の教員は入っていないが、教員を区ごとに教科書調査員に推薦し、調査報告書に基づき答申を作成していた。ところが今年は歴史のみ会社名を白紙にし、区ごとに「望ましい項目数」(最大7項目)の数を採点し答申とした。審議会の答申では帝国が18区すべて3点で1位、東京書籍が1点か2点で2位、自由社・扶桑社は港北区と都筑区のみ1点で2位、他は3位か0点だった。にもかかわらず教育委員の無記名投票で8区で採択された。なかには0点なのに採択された区が2区あった。
この4年でいくつか変わった点がある。まず前回の教育委員のうち扶桑社を強力に推した今田忠彦委員を除き5人がすべて入れ替わった。また05年に採択候補対象教科書を8社から6社に絞り込んだ。この結果、当時の現行教科書だった日本書籍新社、清水書院が候補からすら外された区が出現し、代わりに扶桑社が入った。そして採択から外れた教科書を全校に1冊配布し扶桑社教科書が備え付けられた。こうした布石が着々と打たれていった。
採択の2日前に今田教育委員長が藤岡信勝・「つくる会」会長に自由社教科書採択を伝えたという内部情報がある。事実であれば明らかな不正である。
最大の問題は、審議会の答申を無視して、6人の教育委員の無記名投票で採択したことである。
90年代までは教科書採択は学校票を尊重していた。横浜でも同じだった。ところが99年に「つくる会」が「教科書採択は(学校票など教員の意見を反映させず)教育委員会の権限と責任で採択」することを求める地方議会決議運動が始まった。中川昭一や安倍晋三らの「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」がバックアップし、2000年8月8日小山孝雄参議院議員(2001年1月KSD事件で逮捕、議員辞職)が参院予算委員会で質問し大島理森文部大臣と中川秀直官房長官が「全面的に容認」する答弁を行った。
じつはそれより前の96年12月行政改革委員会規制緩和小委員会が「将来的に学校単位の教科書採択の実現に向けて検討していく必要がある」と意見書を提出し、97年3月この方向で閣議決定され文部省は9月に「教科書採択制度改善について」という通知を都道府県と政令指定都市の教育委員会に出していた。大島と中川は閣議決定や文部省の通知に反する答弁を行ったわけである。「つくる会」はこの答弁を「政府統一見解」として地方議会や教育委員会に運動し2001年3月末までに29県が請願を採択した。一方、文部省は「教科書を教育委員会の責任で採択するように」との新通知を2000年9月と01年2月に発出した。さらに02年8月「静ひつな採択環境の確保」の通知を出した。
そして「教育委員の権限と責任で採択」を「教育委員の権限と責任で採択」と読み替え、教育委員の無記名投票による採択が始まった。こうして学校票や教科書の順位付けはなくなり、現場の教員は排除されていった。
横浜のように首長が自分の気に入った教育委員に入れ替え、そのなかに「他をかえりみず断固として実行する」タイプの人間がいれば、「つくる会」教科書が全国どこでもどんどん採択される。教科書や採択に詳しい委員はあまりいないので、声の大きい委員に引きずられるからである。しかし教育委員の投票で採択する制度をやめればこういうことは起こらない。
幸い、民主・社民・国民新党の連立政権が誕生した。民主党のインデックスの「教科書の充実」という項目には「教科書採択にあたっては、保護者や教員の意見が確実に反映されるよう、現在の広域採択から市町村単位へ、さらには学校(学校理事会)単位へと採択の範囲を段階的に移行します」と書かれている。学校単位の採択という点は支持できる。ただし、教員や保護者の意見を反映させる「採択方法の改善」は書かれていない。
2年後の採択に向け、採択制度を改善し、たとえば「投票制をやめ、教員・保護者の意見を反映させる」という文科大臣答弁を引き出せれば2000年9月の答弁を打ち消すことができる。そうなれば文科省も新しい通知を出す。来年の通常国会の早い段階でこういうことを実現するよう、国会への働きかけを行いたい。

このほか今年の教科書採択に関し、中野・杉並・練馬から報告があった。
●中野の教育を考える草の根の会 中野の教育を考える草の根の会
今年の採択に当たり、区教委へ6月に下記2点の陳情を提出した。
中野区教委は、「中野区立学校教科用図書の採択に関する規則」10条「教科書採択の過程並びに選定調査委員会及び調査研究会の委員を特定できる事項は、教科書採択が行われる日まで非公開とする」を根拠に、採択の定例会すら非公開にしている。採択の場に市民が参加できるようにすることは区民参加の区政を行ううえで重要だ。また学校単位の採択の方向にするという97年の閣議決定を実現するためにも採択の場に市民が参加することが大切だ。
もうひとつの問題は扶桑社や自由社の教科書の問題だ。この教科書は東南アジアを侵略したアジア太平洋戦争を「大東亜戦争」と表記し、「自衛と解放のための戦争」と肯定する戦争賛美の教科書だ。また天皇賛美は公平で民主的な社会の実現にも反する。そこで「つくる会」教科書を採択しないことを求めた。
本当の公正中立は、平和を実現する明確な方向性を持つものだ。公正中立を謳いながら戦争をできる国づくりをすることはありえない

●「つくる会」の教科書採択を拒否する闘い 杉並の教育を考えるみんなの会 
2004年に扶桑社歴史教科書が採択された杉並ではこの4年間激しい闘いを繰り広げた。「『新しい歴史教科書』の〈正しい〉読み方」という本を出版し、毎月学習会を行った。毎週駅頭でビラをまき、今年は保護者会が行われる5月から7月まで校門前でビラを配布した。また「つくる会」が横田夫妻の講演会を行なえば蓮池透さんの講演会を開催し、向こうが田母神俊雄・元航空幕僚長の講演会を開催すれば、こちらは「田母神批判集会」を行った。
昨年11月の教育委員の再任の際、「つくる会」教科書を推進する大蔵雄之助委員に反対し、区議会で公明も含め共産、社民などの会派が退席し一時採決できない状態になった。採択の場でも扶桑社採択反対の委員が激しく食い下がった。
情報開示で調査報告書を調べると23校中18校が扶桑社反対と前回より多く、わたしたちの運動の成果だと思った。なかには扶桑社の批判を非常に具体的に書いた先生もいたが、審議会の答申はほとんど取り上げなかった。そこまでしないと採択できないのかと思った。
運動を継続したことで手ごたえを感じた。たとえば教科書展示会のアンケートは285通のうち扶桑社を評価するのは11通のみだった。2年後の採択を目指し、今後も運動を継続するしかないと考えている。

●中高一貫・大泉附属中学の歴史教科書署名運動 教科書を考える大泉さくらの会
2010年4月に中高一貫6年制学校に改編される大泉高校の有志は「つくる会」教科書採択に反対する請願を都教委に提出し2830筆の賛同署名を集めた。しかし8月14日無記名投票の結果、5対1で扶桑社歴史教科書が採択された。これまでの6校と同じ結果だった。8月28日付回答には「審議会から答申を受けた教科書調査研究資料及び教科書採択資料等を踏まえて慎重に検討し、最も適切な教科書を採択している」とあった。しかし大泉の教科書調査研究資料では扶桑社は4位、教科書採択資料を見ると1位は日本書籍新社、2位が帝国、日文、扶桑社、自由社だった。また「慎重な審議」はまったくなく、いきなり無記名投票したことを傍聴した人が目撃している。まったく不透明な採択といわざるをえない。
わたしたちの会は、2年後の採択でも「つくる会」教科書に反対する署名運動を展開する。

☆俵さんから採択方法の問題点について歴史的経緯が説明された。中野、杉並、練馬の報告も、異口同音に審議会や教育委員会定例会の採択方法に問題があるというものだった。
やはり市民や保護者の運動で、採択のやり方を変えていかなければ、ますます「つくる会」教科書が増えていく。
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