多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

名作ぞろいの東京国立近代美術館所蔵作品展

2010年01月29日 | 博物館など
久しぶりに竹橋の近代美術館に行った。ジョギングでほぼ毎週、美術館の前を通過しているが、中に入るのは3年ぶりになる。
この美術館は、もとは京橋にあり、1969年6月石橋正二郎の寄付で竹橋に新築開館した。コレクションは9800点もあり、年4―5回展示替えがある。1回の展示は200点前後なので、何シーズンかかっても見切れないボリュームだ。

わたくしが訪問したときにも、岸田劉生の「切通」や「麗子肖像」、萬鉄五郎「裸体美人」、福田平八郎 「雨」、藤田嗣治「五人の裸婦」など、教科書に出ているような名作がゴロゴロ展示されていた。スペースもゆったりしており観覧する側にはありがたい。ただし、60年代以降の作品は深川の現代美術館に軍配が上がる。
展示は、4階が明治・大正期の美術(文展開設前後、大正のヒューマニズム)、昭和戦前期の美術(都市のなかの芸術家)、3階が昭和戦前期の美術(日本画・洋画の成熟)、戦時と「戦後」の美術、1950-60年代の美術、2階が現代美術-1970年代以降と企画展「早川良雄――顔と形状」と区分されていた。このほか、コーナー展示で「小林和作  意外と大胆な風景画」「水彩・素描 生まれる線」「写真 今道子特集」が開催され圧倒的なボリュームだった。

北脇昇「空港」
わたしが好きなのは、関根正二「三星」、北脇昇「空港」「クォ・ヴァディス」、吉原治良「黒地に白」などだが、佐伯祐三「ガス灯と広告」、野田英夫「帰路」、古賀春江「海」もそれぞれの画家の作のなかでレベルが高い作品だ。椎原治の写真「近代文化」「手」もここで見ることができた。
アメリカから1970年に返還された戦争画153点のうち、田村孝之介「佐野部隊長還らざる大野挺身隊と訣別す」、小磯良平「カリジャティ会見図」の2点がちょうど展示されていた。
受付でシールをもらえば、いくつかの条件はあるが写真も撮れる。

吉原治良「黒地に白」
毎日14時から50分間の「MOMATガイドスタッフによる所蔵品ガイド」というツアーがある。この日は高村光太郎「手」、村上華岳「日高河清姫図」、吉岡堅二「氷原」、東山魁夷「たにま」の4点のツアーだった。光太郎の父は彫刻の光雲で、「手」は仏像の「施無畏印」をタテヨコ逆にした形であること、清姫の髪や体はすでに蛇の姿をし、地面に落ちた杖は川の方向を指し示していること、「氷原」のバックに銀箔が貼られていること、「たにま」の川のバックに金箔が貼られていることなど、聞いてはじめて気づくことが多く得るものが大きかった。
1階の企画展ギャラリーでは「ウィリアム・ケントリッジ」展を開催中だった。ケントリッジは1955年生まれで南アフリカのヨハネスブルグ在住の作家だ。解説には「木炭とパステルで描いたドローイングをコマ撮りした独自の手描きアニメーション」とある。一見したところ、古典的なアニメだ。しかし違うのはテーマである。たとえば、炭鉱労働者と資本家がいる。資本家はベッドのなかでパイプをふかしながら指令を出したり計算機でカネ勘定するだけで、カネが流れ込みぜいたくな食事をしている。一方労働者は息もたえだえ、疲労の色が濃い。しかし突然逆流が始まり、資本家は団結した労働者にノックアウトされ、身ぐるみはがされ路上に放り出される。手のひらから魚が飛び出したり、スクリーンをサイが歩き回り、まるでブニュエルの「アンダルシアの犬」をアニメにしたようなシーンもスクリーンに登場する。映像のバックにはドボルザークのチェロ協奏曲などクラシック、賛美歌312番(いつくしみ深き友なるイェスは・・・)からジャズまでさまざまなBGMや、掘削機、電話、計算機の音など効果音が鳴り響く。1分20分から12分のこういうアニメが合計13本放映されている。その原画とドローイングも数多く展示されている。これはこれでなかなか面白かった。

早川良雄展を駆け足でみて、4時半近くになっていたので急いで工芸館に回った。坂を上り7分ほど南へ歩くとレンガ造りの旧近衛師団司令部庁舎の建物がある。
「現代工芸への視点―装飾の力」を開催中で、平常展(人間国宝・巨匠コーナー)は一室だけだが、これがまたすばらしい。染織、漆工、木竹工等19点が展示されていた。わたくしはとりわけ漆が好きである。大場松魚「平文宝石箱」は金、白、黒の直線で区切られそのなかに小さな花紋、菱がちりばめられている。大場は1916年石川県生まれ、松田権六に師事した。そういえばずいぶん前に行った石川県立美術館には見事な蒔絵の作品がたくさんあった。
現代工芸への視点―装飾の力」では、礒?真理子の和室に陶器の赤い花や蕾を並べた作品や、桝本佳子の片側からみると白鷺、逆からみると壺の「白鷺/壺」のアイディアが面白かった。
所蔵品ガイドのツアーに参加したせいもあるが、13時に入館したのに4時間ではとても見切れない。そのうえ企画展や工芸館までみて800円(割引)という料金は安い。

大場松魚「平文宝石箱」
住所:千代田区北の丸公園3-1
電話:03-5777-8600
開館日:火曜~日曜
開館時間:10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)
入館料(所蔵作品展):一般420円、大学生130円、高校生以下無料


☆この美術館がオープンしたのは1969年6月なので、40年以上前のことだ。70年ごろ夜のセミナーがあり何度か聞きに来た覚えがある。名前は忘れてしまったが、たぶん高名な評論家が庭に展示されている木村賢太郎「七つの祈り」のスライドをみながら「七つの重ね餅、いや祈りでした」といって観客が笑ったことを覚えている。
20代のころ、4階からみえる皇居の石垣は、わたしが最も好きな東京の風景だった。
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