都庁には衝撃が走り、教育現場では歓声があがった9.21難波判決から1年、10月6日(土曜)関連14団体の共催で「東京の『日の丸・君が代』裁判の勝利のために大同団結を!10.6集会」が星陵会館で開催された(参加者250人)。
主催14団体は下記のとおり。
予防訴訟をすすめる会、不当処分撤回を求める被処分者の会、不当解雇撤回を求める被解雇者の会、嘱託員不採用撤回を求める会、東京・教育の自由裁判をすすめる会、不当処分撤回を求める会(東京教組内)、3人の先生を支える会(都教組八王子支部内)、東京都障害児学校教職員組合、東京都障害児学校労働者組合、都高教有志被処分者連絡会、アイム'89、「良心・表現者の自由を!」声をあげる市民の会、河原井さん根津さんらの「君が代」解雇をさせない会、府中「君が代」処分を考える会
この1年めまぐるしい動きがあった。判決直後の9月26日安倍晋三首相が就任し強行採決により教育基本法・教育関連三法が次々に成立、2月のピアノ訴訟最高裁判決、6月の解雇裁判1審、7月の大泉ブラウス裁判最高裁判決(判決そのものは高裁まで)で敗訴、9.21判決以降も10.23通達に基づく都教委の懲戒処分は続いており、処分者は累計388人となった。一方、被処分者の会が提訴した東京「君が代」裁判は1次(2月)・2次(9月)合せて原告240人の大型訴訟になったのをはじめ、都を相手取った裁判・人事委員会審理は16に及ぶ。
この日は16時から他の団体が会場を借りているため、2時間半の集会だったが非常に濃密な内容であった。
大内裕和さん(松山大学)の記念講演「9.21難波判決の歴史的意義とこれからの闘いの展望」を中心に紹介する。
1 教育基本法改悪の先取りとしての国旗・国歌法、10.23通達
1999年制定の国旗・国歌法を実体化させる有力な場所のひとつが東京だった。これに応え、石原都知事が出したのが2003年の10.23通達だった。この通達は2006年12月に改悪された教育基本法を先取りするものであった。
47年教育基本法と06年教育基本法を比較してみる。第1条目的で、47年版の「個人の価値をたっとび」「自主的精神に充ちた」という文言が06年版では消えている。06年教基法の目的は「個人の価値」でなく「国家・社会の形成者としての資質」づくりであり、これが教育の目的の「人格の完成」なのである。目標そのものが「個人の価値」の尊重から国家にとって有用な人材育成に変わった。
また、第2条は「教育の方針」から「教育の目標」に変わっている。方針は概括的な方向付けを示すが、目標となると評価可能、点数付け可能になる。養うべき態度は5つ、徳目は20に及ぶ。違反すると法律違反となる。教育勅語ですら列挙した徳目は13だった。
とくに問題になったのは5項「我が国と郷土を愛する態度」、いわゆる愛国心条項である。昨年テレビの街頭インタビューで「愛国心教育がよいか悪いか」と聞いていた。テレビ局はわかっていない。この法律が通ればよいか悪いか判断する自由はないのである。学校は「国を愛する態度」を養わなければならず、通知表や教員評価で養っていないと評価されれば法律違反になり「内心の自由」は問題にならなくなる。これは10.23通達で先取りした強制と服従、それに伴う処分にほかならない。
その他、格差社会化の推進、新自由主義・国家主義を幼児教育・生涯教育まで全域化すること、平和憲法との切断など、問題点が数多くある。
2 グローバル国家戦略のなかの「愛国心」教育
「日の丸・君が代」強制は単純な戦前回帰、反動復古とはいえない。1985年のプラザ合意以降、トヨタなど日本企業の多国籍化・グローバル化が急激に進展した。2つのことが産業界から要請された。
一つは弱肉強食の国際競争に打ち勝つための労働力育成である。従来からのエリート育成に労働コスト削減が加わった。これまでの平等主義を捨て、格差を作りだすことを意味し、市場主義原理を学校に持ち込むことになった。もう一つは石油を確保しグローバル市場秩序を維持するための海外派兵であり、9条改憲につながる。
こうした背景から、東京都では新自由主義的教育改革が実行された。都立高校の大幅な統廃合と定時制課程の削減で公立学校は縮小し、代わりに私立学校や塾・教育産業の比重が増大した。また公立学校に競争原理が導入され、2003年に学区制が撤廃され、品川区から始まった公立小中学校の学校選択は2005年には19区/23区で実施されている。都・区の一斉学力テストの結果公表も行われている。また、公立学校の階層化が進展している。個性化、特色化と称し、進学重点校、チャレンジスクールなどへの高校再編が行われているが、個性化、特色化を「差別化」と読み替えると実態がよくみえる。
また学校に新しい行政経営(New Public Management)が導入された。学校は教育機関というより経営体であることを求められている。効率性追求のため、本来、教育には似つかわしくない経営計画立案や数値目標設定が実施され、「主幹」導入、トップダウン式学校経営が行われている。教育・福祉・医療に効率という尺度は合わない。効率だけを追及すれば産婦人科医はいなくなり、地方の病院はなくなってしまう。
では「日の丸・君が代」強制のねらいは何だろうか。一つは新自由主義改革の反対勢力をつぶし、いままで以上のスピードで「改革」を進めることである。具体的には最大の抵抗勢力である教職員組合運動や教職員の力を削ぐことである。また日の丸・君が代を、校長など管理職を改革推進派にする「踏絵」とし使い、石原派に動員するシステムづくりをねらっている。もう一つは戦争と海外派兵を肯定する世論づくりである。たとえば今年3月に公表された教科書検定で沖縄の集団自決から軍の関与を削除させた。軍による強制集団死ではなく、住民は自ら望んで死んでいったと「歴史偽造」を企んだ。
3 今後の闘いの展望
2006年12月教育基本法は改悪され、今年6月関連3法が成立し「我が国と郷土を愛する態度を養う」ことが普通教育の目標になった。これまでは教基法改悪への闘いだったが、今度は現場でどのように止めるかという闘いに変わった。身分の剥奪は免許更新制の先取りである、この意味で根津公子さんの闘いは一人の問題でなく、免許更新制の実体化が一気に進むかどうかという点で、解雇を許さないことの意義は大きい。
なぜこんなに強烈な攻撃がなされるのだろうか。それは政府の恐怖感だといえる。自民党結党以来50年がんばっても9条を変えられない、平和主義を解体しきれない、苛烈なことをしないと教育現場を変えられない。1970年の杉本判決は美濃部都政下の判決だった。難波判決は、あの石原都政のなかで下された。これは戦後の遺産と結びついたわれわれの運動がまだ効いているからだといえる。
いま仕掛けられているのは、原理原則への攻撃である。したがって組織・団体のささいな違いにこだわらず、力を結集し大同団結することが今後の希望となる。
大内さんの講演のほか、王子養護学校校長が「ものづくり教研」に学校施設使用拒否したことに対する訴訟で7月20日最高裁で都の敗訴が確定したことが都障労組から報告されるなど、各訴訟の進展がそれぞれの団体から報告された。そして10.23通達により都教委が、生徒とともに作ってきた卒業式、子どもの実態に合わせた卒業式を奪ったことへの怒りが口ぐちに上がった。
また白井劍弁護士から、1943年のバーネット事件連邦最高裁判決を引用し次の話があった。バーネット事件とは、「エホバの証人」を信仰するバーネット家の2人の子どもが国旗敬礼を拒否し退学処分になった事件である。判決は「国旗敬礼の強制を認めれば、個人が自己の信念を述べる自由を保障するはずの憲法修正条項が、じつは自己が信じていないことを公権力が強制することを容認しているのだと、公言することになる」と、国旗敬礼の強制を違憲とした。「生徒の前で教職員が面従腹背しないと処分されるのはおかしい。日本のバーネット判決を勝ちとろう」と力強いアピールで締めくくった。
主催14団体は下記のとおり。
予防訴訟をすすめる会、不当処分撤回を求める被処分者の会、不当解雇撤回を求める被解雇者の会、嘱託員不採用撤回を求める会、東京・教育の自由裁判をすすめる会、不当処分撤回を求める会(東京教組内)、3人の先生を支える会(都教組八王子支部内)、東京都障害児学校教職員組合、東京都障害児学校労働者組合、都高教有志被処分者連絡会、アイム'89、「良心・表現者の自由を!」声をあげる市民の会、河原井さん根津さんらの「君が代」解雇をさせない会、府中「君が代」処分を考える会
この1年めまぐるしい動きがあった。判決直後の9月26日安倍晋三首相が就任し強行採決により教育基本法・教育関連三法が次々に成立、2月のピアノ訴訟最高裁判決、6月の解雇裁判1審、7月の大泉ブラウス裁判最高裁判決(判決そのものは高裁まで)で敗訴、9.21判決以降も10.23通達に基づく都教委の懲戒処分は続いており、処分者は累計388人となった。一方、被処分者の会が提訴した東京「君が代」裁判は1次(2月)・2次(9月)合せて原告240人の大型訴訟になったのをはじめ、都を相手取った裁判・人事委員会審理は16に及ぶ。
この日は16時から他の団体が会場を借りているため、2時間半の集会だったが非常に濃密な内容であった。
大内裕和さん(松山大学)の記念講演「9.21難波判決の歴史的意義とこれからの闘いの展望」を中心に紹介する。
1 教育基本法改悪の先取りとしての国旗・国歌法、10.23通達
1999年制定の国旗・国歌法を実体化させる有力な場所のひとつが東京だった。これに応え、石原都知事が出したのが2003年の10.23通達だった。この通達は2006年12月に改悪された教育基本法を先取りするものであった。
47年教育基本法と06年教育基本法を比較してみる。第1条目的で、47年版の「個人の価値をたっとび」「自主的精神に充ちた」という文言が06年版では消えている。06年教基法の目的は「個人の価値」でなく「国家・社会の形成者としての資質」づくりであり、これが教育の目的の「人格の完成」なのである。目標そのものが「個人の価値」の尊重から国家にとって有用な人材育成に変わった。
また、第2条は「教育の方針」から「教育の目標」に変わっている。方針は概括的な方向付けを示すが、目標となると評価可能、点数付け可能になる。養うべき態度は5つ、徳目は20に及ぶ。違反すると法律違反となる。教育勅語ですら列挙した徳目は13だった。
とくに問題になったのは5項「我が国と郷土を愛する態度」、いわゆる愛国心条項である。昨年テレビの街頭インタビューで「愛国心教育がよいか悪いか」と聞いていた。テレビ局はわかっていない。この法律が通ればよいか悪いか判断する自由はないのである。学校は「国を愛する態度」を養わなければならず、通知表や教員評価で養っていないと評価されれば法律違反になり「内心の自由」は問題にならなくなる。これは10.23通達で先取りした強制と服従、それに伴う処分にほかならない。
その他、格差社会化の推進、新自由主義・国家主義を幼児教育・生涯教育まで全域化すること、平和憲法との切断など、問題点が数多くある。
2 グローバル国家戦略のなかの「愛国心」教育
「日の丸・君が代」強制は単純な戦前回帰、反動復古とはいえない。1985年のプラザ合意以降、トヨタなど日本企業の多国籍化・グローバル化が急激に進展した。2つのことが産業界から要請された。
一つは弱肉強食の国際競争に打ち勝つための労働力育成である。従来からのエリート育成に労働コスト削減が加わった。これまでの平等主義を捨て、格差を作りだすことを意味し、市場主義原理を学校に持ち込むことになった。もう一つは石油を確保しグローバル市場秩序を維持するための海外派兵であり、9条改憲につながる。
こうした背景から、東京都では新自由主義的教育改革が実行された。都立高校の大幅な統廃合と定時制課程の削減で公立学校は縮小し、代わりに私立学校や塾・教育産業の比重が増大した。また公立学校に競争原理が導入され、2003年に学区制が撤廃され、品川区から始まった公立小中学校の学校選択は2005年には19区/23区で実施されている。都・区の一斉学力テストの結果公表も行われている。また、公立学校の階層化が進展している。個性化、特色化と称し、進学重点校、チャレンジスクールなどへの高校再編が行われているが、個性化、特色化を「差別化」と読み替えると実態がよくみえる。
また学校に新しい行政経営(New Public Management)が導入された。学校は教育機関というより経営体であることを求められている。効率性追求のため、本来、教育には似つかわしくない経営計画立案や数値目標設定が実施され、「主幹」導入、トップダウン式学校経営が行われている。教育・福祉・医療に効率という尺度は合わない。効率だけを追及すれば産婦人科医はいなくなり、地方の病院はなくなってしまう。
では「日の丸・君が代」強制のねらいは何だろうか。一つは新自由主義改革の反対勢力をつぶし、いままで以上のスピードで「改革」を進めることである。具体的には最大の抵抗勢力である教職員組合運動や教職員の力を削ぐことである。また日の丸・君が代を、校長など管理職を改革推進派にする「踏絵」とし使い、石原派に動員するシステムづくりをねらっている。もう一つは戦争と海外派兵を肯定する世論づくりである。たとえば今年3月に公表された教科書検定で沖縄の集団自決から軍の関与を削除させた。軍による強制集団死ではなく、住民は自ら望んで死んでいったと「歴史偽造」を企んだ。
3 今後の闘いの展望
2006年12月教育基本法は改悪され、今年6月関連3法が成立し「我が国と郷土を愛する態度を養う」ことが普通教育の目標になった。これまでは教基法改悪への闘いだったが、今度は現場でどのように止めるかという闘いに変わった。身分の剥奪は免許更新制の先取りである、この意味で根津公子さんの闘いは一人の問題でなく、免許更新制の実体化が一気に進むかどうかという点で、解雇を許さないことの意義は大きい。
なぜこんなに強烈な攻撃がなされるのだろうか。それは政府の恐怖感だといえる。自民党結党以来50年がんばっても9条を変えられない、平和主義を解体しきれない、苛烈なことをしないと教育現場を変えられない。1970年の杉本判決は美濃部都政下の判決だった。難波判決は、あの石原都政のなかで下された。これは戦後の遺産と結びついたわれわれの運動がまだ効いているからだといえる。
いま仕掛けられているのは、原理原則への攻撃である。したがって組織・団体のささいな違いにこだわらず、力を結集し大同団結することが今後の希望となる。
大内さんの講演のほか、王子養護学校校長が「ものづくり教研」に学校施設使用拒否したことに対する訴訟で7月20日最高裁で都の敗訴が確定したことが都障労組から報告されるなど、各訴訟の進展がそれぞれの団体から報告された。そして10.23通達により都教委が、生徒とともに作ってきた卒業式、子どもの実態に合わせた卒業式を奪ったことへの怒りが口ぐちに上がった。
また白井劍弁護士から、1943年のバーネット事件連邦最高裁判決を引用し次の話があった。バーネット事件とは、「エホバの証人」を信仰するバーネット家の2人の子どもが国旗敬礼を拒否し退学処分になった事件である。判決は「国旗敬礼の強制を認めれば、個人が自己の信念を述べる自由を保障するはずの憲法修正条項が、じつは自己が信じていないことを公権力が強制することを容認しているのだと、公言することになる」と、国旗敬礼の強制を違憲とした。「生徒の前で教職員が面従腹背しないと処分されるのはおかしい。日本のバーネット判決を勝ちとろう」と力強いアピールで締めくくった。