国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

緊迫する中東情勢の将来は、サウジとイランの勢力均衡による平和か?

2006年12月21日 | 中近東地域
1.イラクをシーア派国家とスンニ派国家に二分割、あるいはクルド民族国家も含めて三分割した上で、サウジとイランが衛星国化するシナリオ。ドイツの衛星国であるスロベニア・クロアチアとロシアの衛星国であるセルビアに事実上分割されたユーゴスラビアと同じパターン。クルド人地域はボスニア・ヘルツェゴビナのムスリム人地区やアルバニア人の住むコソボ的存在か?明瞭な境界線が引かれ、その両側で大規模な住民移動が起きる必要がある。短期的には大きな混乱が予想されるが、その後は安定した平和が期待できる。 2.イラクをシーア派・スンニ派共存国家として維持し、サウジとイランが緩衝国として扱うシナリオ。ゲルマン系とラテン系の共存する連邦制国家であるベルギーに近い存在になる。ただ、イラク内部でシーア派とスンニ派の政治的影響力が大きく異なることから、人口では少数のスンニ派が中央政府を支配するというサダム政権当時と同様の状況になる可能性が高く、新生イラク国家は安定しないだろう。安定を得るためには、イラク統治を巡ってサウジとイランが協力するだけでなく、欧州連合の中東版が形成されてイランとサウジの二大国が国家主権の一部をそこに譲渡することが必要不可欠と思われる。 3.イラク内部での混乱と内戦の継続を容認した上で、サウジとイランが協力してイラクを封じ込めるシナリオ。朝鮮半島の混乱を封じ込めるために日本と中国という異なる文明に属する二大国が協力しつつある東アジア情勢と似ている。ただ、日本・中国・朝鮮半島国家が地理的にも民族的にも明瞭に区別されるのと比較して、スンニ派イラク人とサウジ、シーア派イラク人とイランは関係が近いと想像され、イラク内部の緊張が容易にサウジ・イラン両国間の軍事対決に繋がりかねない危険がある。 上記の3つのシナリオの内で長期的な平和が最も期待できるのはシナリオ1、その次がシナリオ2だろう。「湾岸のアラブ諸国と核技術共有の用意がある」とのイラン大統領の発言は、シナリオ2の欧州連合中東版の前兆の様にも思われる。アラブ諸国とイランが戦略的に非常に重要な原子力エネルギー開発・核兵器開発で協力し信頼関係を築くことは中東和平に非常に有益である。シナリオ3は、一発の銃声が第一次世界大戦を引き起こした二十世紀初頭のバルカン半島情勢に似た危険な不安定さを秘めている。 . . . 本文を読む
コメント (2)