負けようのないほど良い手のときわざと負け、あの馬鹿げた出来事のためにツキが変わってしまった、とぶつくさ言いながら彼は立ち上がった。そして隣のサロンに入って行き、誰にも気づかれぬように外に出た。
「マダムはどこにおられる?」と彼は最初に捕まえた使用人に尋ねた。
「夏の小部屋におられます」
「一人で?」
「いえ、若い男の方とご一緒です」
男爵は自分の推測が正しかったことをもはや疑わなかった。が、不安は二倍になった。勝手知ったる家だったので、彼は急いでその小部屋に走っていった。ちょうどそのとき、ウィルキー氏は自分の欲望が打ち砕かれたことに逆上し、恐ろしい剣幕で怒鳴っていた。男爵は恐怖を感じ、屈んで鍵穴から中を覗くと、ウィルキー氏が片手を振り上げるのが見えた。男爵はドアを開けるというより押し破り、あわやという瞬間ウィルキー氏を投げ飛ばし、息子に殴られるというこの上ない侮辱からマダム・ダルジュレを救ったのだった。
「この、ろくでなし!」と義憤にかられた男爵は叫んだ。「悪党! 一文の値打ちもないへなちょこ野郎! お前のためにすべてを犠牲にしてきた可哀想な御婦人に対する仕打ちがこれなのか! お前の母親だぞ! お前はこの人の歩いた道に口づけをするべきなのに、こともあろうに殴ろうとするとは!」
ウィルキー氏はまるで身体中の血が胆汁に変わってしまったかのように、顔色は鉛色になり、唇は渇き震え、目は飛び出さんばかりになっていた。彼はもがきながら立ち上がり、右手で左の肘をさすっていた。倒れた際に椅子の角にぶつけたのだ。
「このどん百姓めが!」と彼は荒々しく呻った。「乱暴者! 馬鹿!」
それから一歩下がりながら、言った。
「誰がここに入っていいと言った? あんた、誰なんだ? 一体どんな権利があって、人のことに口出しをするんだ?」
「まともな人間なら誰でも、卑劣な根性の若造をこらしめる権利があるのだ!」
ウィルキー氏は両手で握り拳を作った。
「卑劣なのはあんたじゃないか、この無礼者が!」と彼は言い返した。「誰に向かって話してると思ってるんだ! 少し態度を改めた方がいいぞ、あんたみたいな老いぼれの……」
彼が発した言葉はひどく汚く下品なもので、心優しき人間には侮辱でしかない言葉の一つだった。「何だと!」 男爵は鞭打ちに使われる細い革紐で強く引っ叩かれたかのようになった。彼の大きな顔は脳卒中でも起こしたかのように紫色になった。目は稲妻のような怒りの光を放ち、その形相は物凄かったので、それまで半ば意識を失っているようにぐったりしていたマダム・ダルジュレがハッと身を起こした。恐怖に打ちひしがれている息子の姿を見、彼女は両手を広げて息子を護ろうとした。
「ジャック!」彼女はたどたどしく口ごもりながら哀願した。「ジャック、お願い!」 3.25
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