彼女は澄んだ目を彼の方に向けた。睫毛の上で揺れている涙のためその目はいつもより更に美しかった。いつもとは違う声で彼女は答えた。
「はい、さようでございます」
「あなたはシャルース伯爵となんらかの血縁関係にある方ですか? なんらかの相続の権利がおありですか?」
「いいえ」
「失礼なことを伺いますが、聞かねばならぬことでして……あなたをド・シャルース氏に仲介したのは誰ですか? どのような名目であなたは引き取られたのですか? あなたの御父上は? 御母上は?」
「私には父も母もいません。私はこの世で一人ぼっちなのです……誰もいません」
ゆっくりと判事の鋭い目が部屋中を見回した。
「そういうことですか……分かりました」と彼は答えた。「人はあなたの寄る辺ない身の上につけこんで貴女に礼を欠くようなことを……侮辱したりなどすることがあるかもしれませんね」
居合わせた者たちは皆下を向き、カジミール氏はこんなことなら中庭に残っているんだった、と後悔した。マルグリット嬢の方は、判事の慧眼について行けず、びっくりした様子でその顔をじっと見ていた。彼女は彼が門番のブリジョー氏と会話を交わしていたことを知らず、その馬鹿げた嘘の混じった供述から部分的に真実を察知したことなど知るよしもなかったからである。
「お嬢様のお許しを願って、すぐに事情聴取に取り掛かりたいと存じます」と彼は続けて言った。「ですがその前に一つだけ質問させていただきます。シャルース伯爵は貴女に対し深い愛情を注いでおられたと聞いています。貴女の将来について何らかの配慮をなさっていないというのは確かなことですか? 彼が遺言書を残さなかったことに確信があるのですか?」
マルグリット嬢は首を縦に振った。
「伯爵は以前、私に財産を残すという旨の遺言を作られたことがあります」と彼女は答えた。「私もそれを読みました……伯爵が読むように仰ったのです……ですが、それは私がここに住むようになって二週間後に破り捨てられました。私がそうお願いしたのです……」
先ほどからマダム・レオンは口の中で舌がひりつくのを感じていた。彼女は治安判事から不安を感じ取っていたのだが、今その不安を振り払い、前に進み出た。
「どうしてそんなことが仰れますの、お嬢様」と彼女は叫んだ。「伯爵様は、ああ、あの方の御魂が安らかであらんことを、伯爵様がどんなに心配性の方だったか、よくご存じじゃありませんか!どこかに、遺言書の切れ端がある筈ですわ」3.9
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