「よし! お前が案内しろ」
この提案が珍しかったと見え、シュパンは戸惑いを見せた。
「え?行くんですかい、こんな時間に?」
「ああ、そうだとも。閉まっているわけじゃないだろう?」
「いや、そんなこたないっす。そりゃ確かなこって。ヴァントラッソンはホテルの他に、食料品屋もやってるし、酒も売ってるんすから……少なくとも十一時までは開いてまさぁ。ただ、ですね。この親爺はちょいと変わったとこがあって、食事の間邪魔されるのを嫌うんですよ。もし彼の家に行くのが、請求書を突き付けるためなら……ちょっと時間が遅すぎるんじゃないかと。あっしが旦那だったら、明日まで待ちますね。雨が降ってるし、猫一匹だって外に出ちゃいませんぜ。あそこはぽつんと人里離れたところでね、取り立てになんぞ行った日にゃ、どんなやり方で支払いをするか……手あたり次第の物で……例えば棍棒とか……」
「お前、怖いのか?」
この疑念はあまりにも滑稽だったので、シュパンは腹も立てなかった。返事の代わりに彼は軽蔑するように肩をすくめただけだった。
「それじゃあ、出発するとしよう」フォルチュナ氏が言った。「俺が支度している間、お前は馬車を見つけて来い。良い馬のにするんだよ」
シュパンは稲妻のように出て行き、階段を雷のような音を立てて転げ落ちるように駆け降りた。家を出たところに辻馬車の乗り場があったが、彼はフェイドー通りまで走る方を選んだ。そこに知っている貸し馬車屋があるのだ。
「馬車ですね、旦那!」彼が近づいてくるのを見て、御者の何人かが声を掛けた。
彼は返事をしなかったが、馬の一頭一頭を通らしく吟味し始めた。昼間の暇な時間をマルシェの馬市で馬商人たちと過ごす男といった風だった。そのうちの一頭が彼の気に入った。彼は御者に合図し、貸し馬車の事務所の方に近づいて行くと、そこでは一人の女が本を読んでいた。
「俺の五スー(1スー=5サンチーム)を貰うよ、姐さん」と彼は要求した。
女は彼をじろじろと見た。このような場所の多くでは、主人のために馬車を借りに来る召使には二十五サンチームを渡す習慣がある。この少額の手当が顧客を掴むのである。しかし、この窓口の女は、シュパンが召使ではないことを見抜いて、躊躇った。シュパンは良い顔をしなかった。
「気を付けねぇと、ポケットに穴が空くぜ」彼は言った。「何ならおたくの競争相手のとこへ行くからな」
シュパンの口調に恐れをなした女は彼に五スーを渡し、彼は満足の顰め面を浮かべながらポケットにしまった。この金はちゃんと正当に自分のものだ。これだけの手間を掛けて手に入れたのだから。
しかし、ボスの部屋に戻り、馬車が門のところで待っていると告げた時、彼は危うく倒れそうになった。フォルチュナ氏はシュパンのいない時間を利用して、変装するところまでは行かないものの、外見にかなり手を加えていた。7.23
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