彼の偽りの輝きが失われ、転落し泥にまみれるとしたら、それは何によってもたらされるか? 偶発的な事故、無分別、不手際……そのようなものだ。こういう思いに捕らわれると、彼の髪の毛穴から冷汗が噴き出るのだった。彼は単なる役者にすぎなかった。ほんの少しでも失敗すれば即終わりとなる。もっとしっかりした基盤を持ちたい、日々のパンを保証してくれるささやかな資産があれば貧困という悪夢を遠ざけておけるのに、と彼は熱望していた。フォルチュナ氏と同じ計画を思いつき、すぐさま実行に移したのはまさにこの切なる思いの故であった。
「ウィルキーに知らせてやったらどうだろう?」と彼は考えた。「莫大な財産が手に入るということをあの大馬鹿に教えてやったら、俺にまずますの返礼をしてくれる筈だ……」
思い切ってこの計画を実行すれば、マダム・ダルジュレを敵に回し、復讐される危険性もあり、そうなれば深刻な事態になる。彼女について彼は多くのことを知っていたが、それは向こうも同じで、彼のすべてを彼女は知っていた。彼を情け容赦のないやり方で世の指弾を受けるようにしたいと思えば、彼女は簡単にそうすることができた。それでも、利益と危険を天秤に掛け彼は行動に移すことにした。うまく立ち回りさえすればマダム・ダルジュレは彼の裏切りを知ることはないだろうと考えてのことだった……。そして彼がこんなに朝早くウィルキー氏の小サロンの間に姿を現したのは、真相を知っているのは自分一人だけではないのではないか、誰かに機先を制されるのではないか、と恐れたためであった。
「こんな朝早くから貴方のような方が! 一体何事があったのですか?」
ウィルキー氏は小サロンの間に足を踏み入れるや否やすっかり驚いた様子で尋ねた。
「私には何もありませんよ」と子爵は答えた。「ここに来たのは貴方のためです」
「え、それは一体! なんか心配になるじゃありませんか」
「ああ、ご心配御無用! 良いことをお知らせに来たのですから」
「私がここに来たのはですね、親愛なるウィルキー君」と彼ははっきりと言葉を続けた。「貴方にお尋ねするためです。貴方に何百万という財産を所有する権利があるということを教えに来た男にいかほどの謝礼をする気があるのかを」
十秒ほどの間、ウィルキー氏の顔は赤くなったり青くなったりを数回繰り返した。やがていつもとは違う声で彼は答えた。
「ああ、そりゃ傑作だ……面白い話ですね! これから数日間は食事の間は除いて、笑って過ごすことでしょうよ……」
彼はおふざけとして調子を合わせることにしたが、気は動転していた。実際彼はとっぴな妄想をさんざん夢見ていたので、どんなことでも起こり得るような気分になっていたのである。
「私は真から真面目な話をしているのですよ」と子爵は固執した。
ウィルキー氏は最初は返事をしなかった。彼の眼は、ひょっとしたらという期待と悪ふざけの犠牲になるのではないかという不安との間を揺れる葛藤を物語っていた。11.27
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