◎見ている自分が残る
ユング派の著作を見ると、ユング同様に錬金術書、カバラ、グノーシスの著作の断片が多数登場し、それを再構成する能力と洞察には驚かされる。
西洋錬金術と道教の外丹は似ているというのは、昔から言われてきた。道教の側が、関係文書を道蔵や蔵外道書などで集大成したことがあり、道教の外丹感を想像することができるようになっている。平たく言えば、似たような文献が多いが、実際に悟りまでたどりつけた人間がさほど多くはないのではないかと思われる。
西洋錬金術からカバラ関連も、事情はおそらく同じであって、挿絵入りの立派な文献であってすら、実際に大悟にまで至った人間の手になるものは多くはないのではないかと思う。
一方で、悟りを開いた人間は、そのプロセスを語りたがるという法則があり、文献に残すかどうかは別にして、旧知や弟子に話はしているのだろうと思うがその旧知や弟子がちゃんと理解できているかどうかは別のこと。
さらに西洋錬金術と道教の外丹・内丹のように広義の密教系、クンダリーニ・ヨーガ系経典では、肝心のところは文字にしない伝統がある。また文字にしたとしても、俗人や門外漢には絶対にわからないように書いている。
チベット密教の究竟次第は明かされていないし、秘密集会文献には精液、経血などがばんばん登場、さらにダライラマは、一つの言葉が3つも4つもの意味で登場するのが普通であると述べている。同様に西洋錬金術の用語辞書みたいなのを見ると、一つの言葉が3つも4つもの意味で登場してきている。
その意味を同定するには、自分が悟りを開かねばならないが、他の読者、研究者が悟りを開いていることは稀である。よって真義は伝わりにくい。
そうした中で、西洋錬金術の基本線について感じていることは、次のようなことになる。
1.錬金術の素材のプリマ・マテリアは、宇宙はただ一つの物質からできているという説明から、第六身体アートマンである。
2.その下に四大元素地水火風がある。第五元素を立てる者もいる。
3.七金属は七チャクラに照応する。
金:サハスラーラ(太陽)
銀:アジナー(月)
水銀:ヴィシュダ(水星)
錫:アナハタ(木星)
鉛:マニピュラ(土星)
銅:スワジスターナ(金星)
鉄:ムラダーラ(火星)
これは上から順にならべてみた。
4.賢者の石とは、大悟覚醒のことだが、それに至る三段階は、次のとおり。
(1)黒化(ニグレド):影(本来の自己)との出会いの苦しみ
(2)白化(アルベド):影からの解放。天国化。
(3)赤化(ルベド):天国と地獄の結婚、二元対立の解消。賢者の石の完成。
三段階を全体として見れば、見神と神人合一が区別されていないのは、どういうつもりなのだろうか。それこそ異端の烙印を押されかねなかったということか。
挿絵は錬金術書『太陽の光輝』の22枚目最終図(出典:wikipedia)だが、見ている自分が残っている。