◎virtual walkingで本山参り
妙好人椋田與市は、滋賀県磯村の人。妻と子供が四人いたが、貧乏であった與市は、耕すべき田畑も少なく、一月を三分して、十日は自分の田畑を耕作し、十日は他人に雇われ、後の十日は仏法の聴聞に費すことにしていた 。
『與市の家は、小さいむさくるしい家であったけれども、いつも家の隅に小さな竹筒が掛けてあり、毎日変わった草花がさされていた。隣人がそのことを不思議に思い、與市に尋 ねてみると、「わしは、貧乏でご本山へ参ることができぬ。ご本山の御真影様への、せめてもの志と思って、お花をあげています」と答えたという。
ある冬の寒い日、與市は友人に、「わしは明日からご本山へ参ろうと思うが、おまえもいっしょに来ぬか」と誘いをもちかけた。赤貧の與市に、よくも路銀ができたものと、友人は心中あやしみながらも、同伴することにした。「それでは明晩わが家へ来たれ」と言うので、翌晩になって訪ねて行くと、與市は、「それではこれからご本山へ参ろう」と、お仏壇を開いて点燈焼香し、しみじみと礼拝した後、家の中をゆるゆると歩き始めた。よほど歩いたころ、「はや草津まで来た」とひとり言を言い、しばらくすると「はや大津まで来た」と言った。そして最後に、「とうとう本山まで来た」と、そこで端座して、再びしみじみと礼拝するのであった。それから友人に向かって、「これで今晩のご本山参りがすんだ。ありがたいことであった。わしはこれから三十日間こうしてご本山参りをするから、おまえもおまえの家で毎晩参れ」と勧めた。友人は、寒さや来客のために、このご本山参りを続けられなかったが、與市は、その後一日も欠かさずに参り続けた。』
(新妙好人伝近江・美濃篇/高木実衛/編 法蔵館P52-53から引用)
室内virtual walkingで本山参りした後、しみじみと礼拝する様に、與市の観想の真剣味を感じる。
また毎日茅屋で、西本願寺におわします御真影(親鸞像)竹筒に花を献ずるとは、その敬虔さと無私がわかる。
しみじみとした礼拝と花だけで、信仰の深みがうかがい知れる。