◎旦那衆の道楽
(2010-06-13)
「転落 ホームレス100人の証言/神戸幸夫/アストラ社」の登場人物は、大方が気がやさしい、人と争わない、おとなしい、人づきあいが下手というのは、ほぼ共通しているのではないか。逆にいい加減、または不器用・バカ正直というのは、正反対の傾向であり,これは特徴としては挙げられない。一人だけ一千万円持って世界放浪の20年の人がいたがこれは自分捜しの結果ホームレスになったのだろう。
以上はいわばキャラクターとそれに根ざすライフスタイルによってホームレスとなった人たちだと思う。
もう一つのホームレスになる人の類型は、ギャンブル、サラ金から多重債務、アル中、病気、身体障害、土建のリストラで食べていけなくなった人。こうしたホームレスについては、性格の心やさしさは、あまり関係ない。所得が下がって住居も、場合によっては家族も失ったのである。
働けない人の他は日雇いでやっている人が多いが、「50歳を超えた時から仕事が減ってきて、55歳からパタリとなくなった」のでホームレスになったという話がちらほらと出ている。1960年代に中学を卒業した中卒の人が目立つ。これはいま55歳以上の人たちのことだが、更に不況が深まればそれはだんだん高卒、大卒に移行していくのだろう。本書の登場人物中49人が学歴が高校中退以下である。
その徴候はこれ。『もうひとつの統計を紹介しよう、09年に厚生労働省が、いわゆるネットカフェ(東京及び大阪)で暮らす非正規社員から聞き取りした学歴調査である。中学卒17.1%、高校中退21.9%、高校卒48.6%だったという。高校全入時代といわれる時代にあって中学卒の異常な高率ぶりと、三者だけで87.7%を占めてしまう結果だ。これは高校卒以下の学歴では安定した収入を得ることが困難になっており、非正規労働者の大半がこの層で構成されていることを意味しているといえよう。』
(転落 ホームレス100人の証言/神戸幸夫/アストラ社P83-84から引用)
将来性のある職業の代表格が公務員である今の日本は、国として下り坂だし、国として手仕舞に入っていると言える。
メディテーションというのは、食べていけなくては続けることはできない。居宅がなくて、山野や洞窟で坐るにしても食べ物は要る。どんな人にも、「ほんとうに生きる」ことで幸福を実感する道筋はあるはず。それがメディテーションなのだが、歴史的に旦那衆の道楽という位置づけだったことから、ホームレスになってから坐るのはなかなかむずかしいことだし、またそういう人がますます増えるようでは(増えつつあるが)、悟った人が続々と出現してくるなどというのは夢物語に過ぎない。
そんなわけで、日本社会の行く末についての切迫感をひしひしと感じさせる書でありました。