台湾最後の夜、このグルメ天国のような台北で何を食べるか、
われわれが熟考に熟考を重ね選んだ食事、それが
「故宮晶華の故宮国宝ディナー」
でした。
故宮博物院には去年訪れ、石を加工した本物そっくりの東坡肉や、
翡翠の天然の色を生かして作った白菜などを見学しました。
そのとき「工芸品の手工業の緻密さ」、その技術そのものには
酷く感心したわけですが、それではこれが芸術か?というと、
はっきり言っていくら極限まで似ていてもテーマが肉ねえ、みたいな、あるいは
芸術というものはもう少し精神性をも内包するものではないのか?
みたいな根源的な疑問が浮かんでくるのを否定することはできなかったのです。
つまり日本の浮世絵や、同じ中国でも山水画、ましてや西洋の絵画彫刻に比べると、
その芸術性に関しては首をかしげずにいられなかったというか。
名前もない職人が気の遠くなるほどの手間をかけて権力者のために造った実用品、
というようなものばかりが芸術品として讃美されるというのはいかがなものか、ってことですが、
要は、中華圏ではそういう実用にこそ美や芸術性を求める精神性が育っていたと解釈しました。
ただ、決して優劣をつけるわけではないんですが、少なくとも、
ルーブルやオルセーを巡るときのような知的興奮は感じない、と言いますか。
モナリザやニケ像ではなく、肉やら白菜がここの目玉、というあたりが、すでにね。
それはともかく、であるからこそこのような故宮博物館の至宝は、
併設レストランのディナーのテーマにもなりうるわけです。
最終日にこのプランを知ったときに、われわれは飛びつきました。
要前日予約にもかかわらず、当日聞いてみたら、三人分OKであるとのこと。
いったん予約を入れたものの、三人分はいくらなんでも多いのではと考えなおし、
二人分をキャンセルし、その場で注文することにしました。
故宮博物館には早く着いたので、駆け足で見学。
とりあえず本日のディナーに出るであろう「肉石」と「白菜」を中心におさらいです。
これは博物館ではなく、敷地内の謎の建物。
台湾でもLEDのツリーデコレーションは普通に盛んです。
この故宮晶館は最近できたばかり。
ルーブル美術館に行ったことのある方は、あそこの中のレストランが、
料理大国フランスの威信をかけたものすごい高いレベルの食を提供していることを
もしかしたらご存知でしょうか。
料理も文化であるとして、美術館が良いレストランを備え、
芸術鑑賞の余韻を美味しい料理でさらに盛り上げようというこのような企画は、
最近日本でもしばしばみられるようになりました。
この台湾においてもどうやら同じようなムーブメントによってこのレストランができたのでしょう。
晶館の晶は水晶、つまりクリスタルのことですから、建物も
どうやらそのイメージで仕上げられているようです。
内装はレトロモダン。
落ち着きのあるチークの木の色が温かみを感じさせます。
外装と同じようなモチーフのパーティションですが、中華料理の店に
ときどきあるように、これは完全に閉めて部屋を仕切ることができます。
団体で訪れる客のための設えであると思われます。
本日の至宝ディナーのメニューが出されています。
これを写真を撮るという目的のあるわたしが取ることにし、
(どうせ三人で食べるので誰の前でもいいのですが)
TOは別の軽いコース、息子は軽い一品を注文。
このメニューを見る限り、それでも量が多くて食べられるかどうか・・。
しかし、一般に中華圏の人は(台湾人もたぶん)、残すことを失礼と思わないのです。
「残すくらいたくさん食べ物を出してもてなさなければならない」
というのが中華式おもてなしの心、ってことみたいです。
そして、お経のような立派なメニューが出されました。
それにはこのような美しい写真とともに説明が書かれています。
故宮博物館のおそらくもっとも有名な国宝、ヒスイの白菜。
実物。
美味しかったか、って?
いやまあ、普通の蒸した白菜でしたよ。
ただ、こんな小さな白菜、どうやって調達するのかなあ、と。
ベビーコーンやペコロスみたいな「ミニ白菜」があるんだろうか。
む?
なにかが、ってエビですが、顔を出している。
なぜエビが顔を出しているのか。
それは、この翡翠白菜にはキリギリスとイナゴが一緒に彫刻されていて、
その細かい細工がまた有名なのです。
http://www.npm.gov.tw/ja/Article.aspx?sNo=04001080
二匹の虫さんが見たい方はこちら↑
芝エビも二匹。
次行きます。
このディナーが要予約なのは、実はこのスープ、中華では究極のスープと言われる
佛跳墙(ぶっちょうたん)が、この国宝の鼎のような食器で供されるからなのです。
佛跳墙。
これはお釈迦様が修行を放ったらかして(かどうかは知りませんが)
垣根を飛び越して食べにくる、というくらい美味しいというネーミングのスープ。
干しアワビ丸ごと、フカヒレ、クジャクの卵(・・・え?)など高級食材ばかりを
一週間煮込むのだそうで、まあ、逆に言えばこれだけ力技食材を使って
旨くない方がおかしい、という料理です。
どうですか!
見るからに精のつきそうな食材がゴロゴロと。
しかし、全く残念至極なことに、このスープ、
一週間煮込んでもさらに用意するのに時間がかかるのか、出てきたのが
全てのコースが終了して今からデザート、という頃。
途中で何度も「佛跳墙はもう少しお待ちください」
あの~、他のもの食べてたら、お腹がいっぱいになって、このスープの
いかにもコース料金の半分くらいのコストがかかっていそうな有難そうな
食材がほとんど食べられなかったんですけど・・・。
このコース+軽めの普通コース+息子の一皿を三人で食べても、
案の定多すぎて、このころにはもう「見るのもいや」状態ですから、
後から考えたらこれは実に不本意でした。
スープなんだから先に出していただきたかったわ。
そもそもこの野菜は何?
はい、これは台湾にしかない「ライチニガウリ」でございます。
聴いたこともありませんでしたが、普通のニガウリより甘いのだそうです。
なんか見本と全然違うんですけど・・・。
説明には「日本のからしをベースに使ったソース」と書いてありました。
とはいえ、このニガウリモドキもかなり苦かったです。
ゴーヤ嫌いのわたしには正直あまりありがたくない一品でした。
よって、TOに全て押し付けました。
おそらくこの故宮博物院でもっとも有名な「肉形石」があらばこそ、
このレストランもこのような企画を考え出したのでありましょう。
お待ちかね、トンポーローです。
同じ形に切るのが結構手間だと見た。
ここまで凝るのなら、同じような金色の肉乗せを用意してほしかった。
お味は・・・・・
わたし、こういう脂っぽいのが苦手なものですから、何とも・・。
ここで反則技。
元時代の雲林堂飲食制度集という古書から、
どうやらこのレシピを見つけてきて再現したもののようです。
見た目まるでロールサンドイッチ。
材料はガチョウ、エビ、豚の頭(え?)、カニなどと書かれているそうですが、
ここのははちみつなどで味付けしたガチョウを使用しているそうです。
たぶんこれだったと思います(-_-)
茶色いのは豆腐で、中をくり抜いてお皿のようにして春巻きを立てています。
これも、トリの料理のレシピが書かれた経典からの復刻。
中にエビ、ネギ、などの野菜をぎゅうぎゅう詰めた鶏の手羽。
丸々してますが、これは中の詰め物のせいです。
ソースはメイプルシロップとお酢がベース。
皮がパリッと香ばしく、わたしは味見しただけですべて息子に取られました。
TOのコースに佛跳墙のようなスープが。
でもこちらにはそれほど手間はかかっていないはず。
大根モチのようなもの。
TOのコースに出ていました。
今見るとおいしそうですが、
このあたりになると全くよそのお皿に食指動かず。
デザートは、工芸品の「折り畳み式棚」からインスパイアされたものが、
同じような「でもよくあるタイプの」棚にいろいろ乗せられて出てきます。
これが出てきたとき、つくづく三人分頼まなくて良かった、
と胸をなでおろしたわたしたちです。
もし頼んでいたらこれが三人分出てくるんですよ?
ここにも白菜発見。
しかし、これはもうすでに「ネタ」みたいなものですから、
美味しいとかおいしくないとかの話ではありません。
「白菜だ」
「白菜だね~」
パク。終り。って感じです。
はっきり言って日本の銘菓「ひよこ」の方が美味しいと思いました。
それにしてもわたしがこれを首だけ食べたら家族から批難されたのですが、なぜ。
右側はクルミをかたどったお饅頭です。
肩で息をしながら(それでもかなり残して)全品食破?しました。
これは、何が珍しいというわけではなく、入れ物です。
氷を細工した器。
これは「こんな型があるのかねえ」などと言って大して気にしなかったのですが、
あとから英語の説明を読んだところによると、この製氷をした
シェフのクオ・リンロン氏は、氷細工の大会で賞を取ったことがあるとのこと。
そのクオシェフが製作したのが、このお皿であるということですが
これ、そんなシェフの作品だとは全く思わなかったのでちゃんと撮らなかったのですが、
そう思わなくてもしかたないくらいフツーの氷だったんですよ。
しかも、このセンスのないというかやる気のなさそうな果物のアレンジ・・・。
さて、全コースこれで終了。
まあ、美味しかったし話のたね(わたしにはブログネタ)にもなったよね。
とお勘定を払って帰ろうとしたら、ウェイトレスが
This is for you、といって、メニューをくれました。
どうやらこのコースを頼んだ人には記念にもらえるようです。
さて、このコース、お値段はおいくらだと思います?
400元、つまり日本円で言うと12000円。
これを高いとするかどうかは意見の分かれるところでしょう。
ただ、たとえばコースに出された佛跳墙ですが、たとえばこれ、北京で食べると、
一人分で日本円の5000円、大皿で高いものは10万円。(日本円)
日本で食べると、たとえば銀座アスターでいただくと、
21万円。
なんなのこの非現実的な値段設定。
「ブッチョウタンって、この間テレビでやってたの!食べてみたい」
と女の子に言われて、2万1千円か、やたら高いスープだな、でも
まあドンペリねだられるよりましか、と思ってうっかり頼んで、
お勘定書きが来たとき青ざめるようなことになってしまいそうです。
・・というようなゴージャス料理がコースに入っていたのだから、これは
非常に安いといってもよかったのではないでしょうかね。
・・・・・ん?
・・・・・・・・・・んんん?
その佛跳墙、エリス中尉、あまりにお腹がいっぱいだったので
ほとんど残したんだった・・・・orz
嗚呼、無知とはなんと贅沢であることよ。