《前回までのあらすじ》
1950年代の宇宙人襲来大ブームがうそのように沈静化した1960年代。
だが、しかし! そのまま地球征服をあきらめる彼らではなかった。
いやむしろ! これまで以上に強大な力を持った宇宙人軍団が虎視眈々と次の攻撃のために爪をといでいた時間、それが1960年代の前半だったのである。
そして、その恐怖の開幕を告げたのは1964年。史上最凶の外敵の到来をもって新たなる「宇宙時代」は幕を開けたのであ~る! ピロピロピロ!!(鳴き声です。)
6、でかいクラゲ九州上空にあらわる
1964年8月『宇宙大怪獣ドゴラ』(特撮監督・円谷英二 ヒャッホウ!)
宇宙の敵との大戦争も過去の記憶となった1964年。地球防衛軍創設のきっかけとなった「ミステリアン遊星人襲来事件」からもすでに7年の歳月が流れていた夏のある日。
日本の南国・九州。政令指定都市になったばかりの北九州市の上空に、突如として謎の黒雲がたなびき、その中から正体不明の巨大浮遊物体がでろでろと出現しました。なぜ北九州市に!?
暗闇に不気味にボヤ~っと光る、巨大なクラゲのような無数の触手……それが北九州市の筑豊炭田地帯の真上にふよふよと近づくと、まるで竜巻にでもあったかのように大量の石炭が大空に舞い上がってゆく!
当然のごとく地球防衛軍が出動し、上空のクラゲ物体に無数の対空砲攻撃をしかけるのですが、まさに「のれんに腕押し」で手ごたえナシ! 虎の子の強力対空ロケットを撃ち込んでも、クラゲ怪獣はバラバラに分裂するだけで死なずに空中にただよい続けているのです。やりにくいなぁ!
空中の巨大クラゲ怪獣の正体は、「宇宙大怪獣ドゴラ」!
ドゴラは、もともとは地球付近の宇宙空間に生息していたごく小さな単細胞生物だったのですが、たび重なる地球圏での核実験によって地球と宇宙との境目にふきだまった放射能を栄養にしてしまったことにより異常成長、集合して巨大化した宇宙怪獣になってしまったのです。
ドゴラ日本出現の直前に連続発生していた世界各国の人工衛星の失踪事件も、それらをエサにしてスクスクと成長していたドゴラが真犯人でした。
ドゴラの大好物はズバリ「炭素」! 北九州市の上空に出現したのもそのためで、筑豊炭田で当時豊富に産出されていた石炭を狙っての狼藉だったのです。
地球上のどんな兵器も、ただ身体をバラバラにするだけでドゴラに対する致命傷を与えられない!
いったいどうすれば? このまま地球は、ジワジワとドゴラのえじきになっていくしかないのか!?
……となりかけたのですが、けっこうすぐ後に日本の科学者によって、ハチの一種の毒がドゴラの細胞を結晶化させることが発見されたため、毒素を培養したものを空中に散布することによってドゴラ細胞は全滅。バラバラと地上に落下して一件落着となったのでした。チャンチャン。
うーん。なーんか、あっさり退治成功。
まぁ、ね。このように「宇宙大怪獣ドゴラ事件」は、「大怪獣」と大きく出た割には「ひと夏の思い出」のようなささやかさをもって終わりました。
しかし! 7年前にイタリアのローマで大暴れした「金星竜イーミア」以来久しぶりの襲来。しかも「自分の意志で地球にやってきた宇宙怪獣」としては史上初のケースとなったドゴラの意義は大きかったでしょう。
ただし! 「地球の放射能の影響をうけて誕生した」や、「もともと地球のかなり近所に棲んでいた」など、「生粋チャキチャキの宇宙怪獣」とはいいがたい点があったことも否定できません。
そんなわけで、見た目どおりに素性までモヤモヤした感じの宇宙大怪獣ドゴラだったのですが……
その年1964年の暮れ。
ドゴラの印象を文字通り吹き飛ばす「正真正銘の宇宙大怪獣」がやって来てしまいました! まさに「ワシが本物の宇宙怪獣っちゅうもんを見せたるわい!!」と言わんばかりの怒涛の登場です。
そんなふうに、他の宇宙怪獣たちの奮起をうながすという役割だったとしたら、ドゴラの存在意義もちょっとはあったんじゃぁ~、ないの!?
余談ですが、映画『宇宙大怪獣ドゴラ』は、タイトルは名ばかりのギャング映画です。物語のほとんどは、ダイヤモンドをめぐるギャング団と警察の攻防で展開してゆくのです。
そんな本筋のあいまに、上にあげたような「ドゴラさわぎ」がさし込まれていくというあつかいなんですね。あわれドゴラ! でも、登場時間はかなり短いのですが北九州市襲撃シーンはけっこう迫力ありますよ。
7、ワシが宇宙超怪獣キングギドラじゃい!!
1964年12月『三大怪獣 地球最大の決戦』(特撮監督・やっぱり円谷英二)
「あの宇宙クラゲ騒ぎはいったい、なんだったんだろう……」
と、世界中の人々が微妙な気分になったまま暮れようとしていた1964年の12月。
日本の黒部峡谷に謎の巨大隕石が墜落します。地球の大気圏を通過したのにもかかわらずほぼ完全な形状を保っていた隕石は、なぜか周辺の金属を磁石のように引き寄せながらみるみる肥大していき、1週間もたたないうちに突如として大爆発!
あっけにとられる調査団の目の前で、爆発とともにひときわ上空高く舞い上がってゆく紅蓮の火柱。
「あっ! なにか、形になっていくぞ!」
地上の人間が指さす先で、火柱は消えずに空中にとどまり、ひとつの巨大な炎のかたまりになる。いったいこれからなにが起きるというのだろうか!?
そしてなんと! その炎の中から出現したのは、1匹の黄金に輝く大怪獣、いやさ、超怪獣!
なんとまがまがしく、かつ優美なお姿なのでしょうか。
身長100メートルの巨体、3本の長い首、翼長150メートルという2枚の翼。頭から2本あるしっぽの先まで、ぜ~んぶ黄金色!
輝かしい金のウロコにおおわれた全体像は西洋の「ドラゴン」を思わせるものなのですが、その3つの首の先にあるふてぶてしい顔つきは、まさに東洋の「龍」そのもの。
「おっしゃあ!! なんでも破壊しつくしたるでぇ!」
と、野望まんまんの血走った目つきをした恐怖の超怪獣が日本に出現した瞬間でした。そのわりに、鳴き声は「ピロピロピロ、ピロピロピロ~。」という、電話の呼び出し音のような人類の常識を超越したかわいい高音ヴォイス。
こいつぁいったい、何者なんだ!?
実は、この宇宙超怪獣が登場する伏線のような出来事はすでに起きていました。
浮浪者のような奇妙な身なりをした謎の美少女(演じるは、日本に2人しかいない『007』公式ボンドガールの1人・若林映子!『宇宙大怪獣ドゴラ』にも出てます。)が日本各地の観光地に現れて、
「私は金星人だ。5000年前に私たちの文明を滅ぼした宇宙超怪獣キングギドラが近日中に地球にやって来る。気をつけなさい。」
という予言をしていたのです。まぁ、信じる人はいないよね!
ところが! そのくだんのキングギドラとしか思えない黄金の超怪獣がホントに現れちゃったんだからサア大変。
詳しい話を自称金星人の美少女に聞くと、キングギドラにたった3日で自分達の文明を滅ぼされた金星人の残留思念(要するに幽霊)は5000年もの時を超えて宇宙をさまよい、ついにキングギドラが地球に狙いをつけたと知って、地球のある美少女(実は超セレブ)の肉体に憑依して地球人に警告を発する旅をしていたと語ったのです。うーむ、まぁ信じるか! かわいいしね。
しかし、5000年前に、現在の地球より発展していた金星の文明を3日で滅ぼしていたとは……ん? 「3日」?
ちょっとひっかかりますね。「3日」という言葉の意味を、金星人の幽霊は「地球時間」と「金星時間」、どっちの意味で言っていたのでしょうか。
だって、金星は地球よりも極端に自転速度の遅い惑星で、金星がぐるっと1回転するのには、地球でいう約117日分の時間がかかるというのです。つまり、金星の1日は地球の117日なんですよ。
ということは、キングギドラがかつての金星文明を地球時間でいう3日で滅ぼしたのか、それとも351日間というほぼ1年くらいの時間をかけて滅ぼしたのか? 情報の内容にかなりの誤差が生じてしまうわけなんですね。
まぁ、どっちにしろ恐いことに違いはないんですが……恐いというのなら、滅ぼされたあと5000年間もキングギドラの動向を追い続けていた金星人の執念も恐すぎですね。老刑事もビックリのスッポンっぷり。
金星といえば「金星竜イーミア」なんですが、ということは、キングギドラはイーミアの故郷を滅ぼしたにっくき宿敵ってことになるんですかね? でも、5000年前のことだからなぁ。
あれ? 5000年前といえば、確かあの太陽系幻の第5惑星「ミステロイド」が核戦争で自爆した時でしたよね?
単なる可能性の問題ですが、もしかしたら、自爆しなくてもミステロイドはキングギドラに滅ぼされてたのかも知れません。そりゃまぁ、ちょっと高いところから落ちただけで簡単にブッ壊れるモゲラでキングギドラに太刀打ちはできなかったろうよ。
こんな感じで、キングギドラの恐怖は太陽系にとどろくものとなっていたのですが、20世紀の終盤にはなんと、地球で紀元前1億年ほどまでに繁栄していた恐竜が突然のように絶滅したのも、このキングギドラが原因なのではないかという新説が発表されるにいたりました。え!?
つまり、かつて地球上で全盛期を迎えていた恐竜の世界が消えていったのは、当時スクスク成長期だったキングギドラ少年が白亜紀(紀元前1億4400万年~前6500万年)に地球に襲来し、ティラノサウルスやらトリケラトプスやらをモリモリ食べつくしてしまったからなのではないかというわけなんです。どんだけ~!?
ついでに言うと、のちに宇宙超怪獣キングギドラとしては3代目にあたる個体が1999年の7月にも地球に現れているのですが、一部の人々のあいだでは、かつてあの大予言者・ノストラダムスが警告した「アンゴルモアの大魔王」とは、この時のキングギドラのことだったのではないかとまことしやかにささやかれたそうです。どんだけどんだけ~!?
そんな恐怖の大王キングギドラ様なんですが、持っている武器はおおよそ2つしかありません。でも! その2つが強力なんだなぁ。
まずは、身長100メートルに体重3万トンという巨体がマッハ3でムリヤリ空を飛んじゃう、そのムチャクチャなパワーによって周辺に発生する衝撃波(ソニック・ブーム)ですね。
その威力はすさまじく、ただキングギドラがその上空を飛んでいったというだけで、長野県の松本城は屋根瓦が全部ふっとんで半壊し、東京タワーは真ん中からへし折れて倒壊してしまいました。ああ、指一本ふれずに日本人の誇りをなんなく破壊してしまうその尊大さ!
そして2つ目の武器というのが、その3つの口から絶え間なく発せられる稲妻のような引力光線!
この光線を受けた地球上の物体はことごとく粉々に爆砕し、地球の重力から解き放たれたかのように空中高く舞い上がってしまうのです。これは強力だ!
この2つ。この2つだけなのではあるのですが、これがすんげぇんだよ!
シンプル・イズ・ベスト。富山の日本アルプスから覚醒したキングギドラがやってくる。
最初はひらひらした金色のちょうちょが遠くにいるなぁ程度にしか見えなかったものが、近づいてくるにつれてどんどんその恐ろしさをチラつかせてくる。
どうやらケタちがいに巨大な何からしい……そして3本首の先には、鬼のような形相でこちらをにらみつける大迫力の顔と、それらの口から絶え間なく発せられる黄色い引力光線の雨が!
しかし、それが見えるくらいの距離になった頃にはもう手遅れ。一瞬にしてキングギドラは頭上をマッハで通過していき、すべての物体は引力光線によって破壊されるか、それを運良くまぬがれたものもソニック・ブームによって大空高く吹き飛ばされてしまうのです。
まさに「破壊神」……キングギドラの前には身分のちがい、性別のちがい、運不運のちがい、生物のちがいなど関係ありません。宇宙すべての物体という物体が平等に破壊されていくのみなのです。
富山~長野~東京~神奈川と飛び回るキングギドラ。どこにも降り立つことなく、それなのに全地域を壊滅させてしまうそのポテンシャル。「怪獣は自然災害だ。」とは言いますが、まさにキングギドラは宇宙サイズの超災害です。やべぇよ!
これは大変だ……キングギドラには、今までの侵略宇宙人にあった「征服」という目的はないのですが、それ以上にやっかいな「破壊」しか頭にないんだからよけいに始末に負えない! 容赦もへったくれもあったもんじゃありません。
そのあまりにも速すぎるキングギドラの破壊スケジュールになんの対応策も打ち立てられない自衛隊と地球防衛軍。いよいよ地球のホモサピエンス時代もおしまいなのか!?
しかし! 意外なところに地球の救世主はいたのです。今じゃあ意外でもなんでもねぇんですが。
怪獣には怪獣を! なんと、いろんな事情があって偶然に富士山麓(特撮が似合う日本の風景ナンバー1)で集合していた地球を代表する3大怪獣、ゴジラとラドンとモスラ(幼虫)がキングギドラと対戦することになったのです。
地球の3大怪獣は、人類に非常に好意的だったモスラの説得もあって(史上初の「怪獣語」会話例)なんとかかんとかやったこともない集団戦を始めることとなります。
キングギドラは都合良く富士山麓に降り立ち、付近の村落を焼き尽くしながら3大怪獣のいる場所に移動します。
これはおそらく、キングギドラが富士山に集まっていた3大怪獣の気配を感じ取って、
「のぞむところじゃあ! まずはお前らから血まつりにあげてやるわい。」
という判断をしたのではないでしょうか。
地味な村落に降臨した黄金色の超怪獣。このミスマッチの美学ね!
そこでキングギドラが、「村の鎮守さま。」といった感じのひなびた神社の鳥居を容赦なく引力光線でブッ倒すくだりがあるのですが、これは名シーンだね。
「ワシの前では、神も仏も、大都会も田舎も関係ない。みんな仲良く死ね!」
といったキングギドラの基本スタイルが如実に理解できる構図です。信長みたいな怪獣だね。
しかし、キングギドラ無念!
「史上最大の決戦」のもようはぜひとも記録映画で見届けていただきたいのですが、1対3というハンディキャップマッチだったこと、富山の黒部峡谷で覚醒してから1日もたっていない寝起き状態だったことがわざわいして、残念ながらここでの初のゴジラたちとの対決にキングギドラは惜しくも敗れてしまいます。
モスラの頑丈な糸まみれになって宇宙へと撤退していくキングギドラ。
「おどれら、おぼえとけよォ! 地球、絶対また来るからな! おいゴジラ、おまえ顔おぼえたぞ~!!」
しかし、からくも勝利した地球の3大怪獣たちの疲労もはげしく、ゴジラ、ラドン、モスラ、それぞれもそれぞれの休息できる場所へと去ってゆくのでした。
《次回予告》
宇宙最悪の超怪獣キングギドラの危機も、3大怪獣のの活躍によって被害時間半日・被害地域は東日本だけという奇跡的な損害の少なさでしのぐことのできた地球。しかし、
「さすがの地球防衛軍も、役に立たない時は役に立たない。」
という信じたくない事実を露呈させることになってしまった。今度また来たらどうしよう……不安に怯える人類。
だが、しかし。
「そっかぁ! うちらの兵器だけじゃなくて、うまく宇宙怪獣もコントロールして地球にけしかけたらいいんだぁ!」
という悪魔の発想に目を輝かせる宇宙人がいた! いや、遮光器みたいなサングラスをしてるから目は見えないんだけどさ。
つうことで次回は、約8年ぶりの地球襲来にして、史上初めて「宇宙怪獣をあやつる宇宙人スタイル」を確立させたあの宇宙人の登場だ~!
メガシャキの人は、まだいない。
1950年代の宇宙人襲来大ブームがうそのように沈静化した1960年代。
だが、しかし! そのまま地球征服をあきらめる彼らではなかった。
いやむしろ! これまで以上に強大な力を持った宇宙人軍団が虎視眈々と次の攻撃のために爪をといでいた時間、それが1960年代の前半だったのである。
そして、その恐怖の開幕を告げたのは1964年。史上最凶の外敵の到来をもって新たなる「宇宙時代」は幕を開けたのであ~る! ピロピロピロ!!(鳴き声です。)
6、でかいクラゲ九州上空にあらわる
1964年8月『宇宙大怪獣ドゴラ』(特撮監督・円谷英二 ヒャッホウ!)
宇宙の敵との大戦争も過去の記憶となった1964年。地球防衛軍創設のきっかけとなった「ミステリアン遊星人襲来事件」からもすでに7年の歳月が流れていた夏のある日。
日本の南国・九州。政令指定都市になったばかりの北九州市の上空に、突如として謎の黒雲がたなびき、その中から正体不明の巨大浮遊物体がでろでろと出現しました。なぜ北九州市に!?
暗闇に不気味にボヤ~っと光る、巨大なクラゲのような無数の触手……それが北九州市の筑豊炭田地帯の真上にふよふよと近づくと、まるで竜巻にでもあったかのように大量の石炭が大空に舞い上がってゆく!
当然のごとく地球防衛軍が出動し、上空のクラゲ物体に無数の対空砲攻撃をしかけるのですが、まさに「のれんに腕押し」で手ごたえナシ! 虎の子の強力対空ロケットを撃ち込んでも、クラゲ怪獣はバラバラに分裂するだけで死なずに空中にただよい続けているのです。やりにくいなぁ!
空中の巨大クラゲ怪獣の正体は、「宇宙大怪獣ドゴラ」!
ドゴラは、もともとは地球付近の宇宙空間に生息していたごく小さな単細胞生物だったのですが、たび重なる地球圏での核実験によって地球と宇宙との境目にふきだまった放射能を栄養にしてしまったことにより異常成長、集合して巨大化した宇宙怪獣になってしまったのです。
ドゴラ日本出現の直前に連続発生していた世界各国の人工衛星の失踪事件も、それらをエサにしてスクスクと成長していたドゴラが真犯人でした。
ドゴラの大好物はズバリ「炭素」! 北九州市の上空に出現したのもそのためで、筑豊炭田で当時豊富に産出されていた石炭を狙っての狼藉だったのです。
地球上のどんな兵器も、ただ身体をバラバラにするだけでドゴラに対する致命傷を与えられない!
いったいどうすれば? このまま地球は、ジワジワとドゴラのえじきになっていくしかないのか!?
……となりかけたのですが、けっこうすぐ後に日本の科学者によって、ハチの一種の毒がドゴラの細胞を結晶化させることが発見されたため、毒素を培養したものを空中に散布することによってドゴラ細胞は全滅。バラバラと地上に落下して一件落着となったのでした。チャンチャン。
うーん。なーんか、あっさり退治成功。
まぁ、ね。このように「宇宙大怪獣ドゴラ事件」は、「大怪獣」と大きく出た割には「ひと夏の思い出」のようなささやかさをもって終わりました。
しかし! 7年前にイタリアのローマで大暴れした「金星竜イーミア」以来久しぶりの襲来。しかも「自分の意志で地球にやってきた宇宙怪獣」としては史上初のケースとなったドゴラの意義は大きかったでしょう。
ただし! 「地球の放射能の影響をうけて誕生した」や、「もともと地球のかなり近所に棲んでいた」など、「生粋チャキチャキの宇宙怪獣」とはいいがたい点があったことも否定できません。
そんなわけで、見た目どおりに素性までモヤモヤした感じの宇宙大怪獣ドゴラだったのですが……
その年1964年の暮れ。
ドゴラの印象を文字通り吹き飛ばす「正真正銘の宇宙大怪獣」がやって来てしまいました! まさに「ワシが本物の宇宙怪獣っちゅうもんを見せたるわい!!」と言わんばかりの怒涛の登場です。
そんなふうに、他の宇宙怪獣たちの奮起をうながすという役割だったとしたら、ドゴラの存在意義もちょっとはあったんじゃぁ~、ないの!?
余談ですが、映画『宇宙大怪獣ドゴラ』は、タイトルは名ばかりのギャング映画です。物語のほとんどは、ダイヤモンドをめぐるギャング団と警察の攻防で展開してゆくのです。
そんな本筋のあいまに、上にあげたような「ドゴラさわぎ」がさし込まれていくというあつかいなんですね。あわれドゴラ! でも、登場時間はかなり短いのですが北九州市襲撃シーンはけっこう迫力ありますよ。
7、ワシが宇宙超怪獣キングギドラじゃい!!
1964年12月『三大怪獣 地球最大の決戦』(特撮監督・やっぱり円谷英二)
「あの宇宙クラゲ騒ぎはいったい、なんだったんだろう……」
と、世界中の人々が微妙な気分になったまま暮れようとしていた1964年の12月。
日本の黒部峡谷に謎の巨大隕石が墜落します。地球の大気圏を通過したのにもかかわらずほぼ完全な形状を保っていた隕石は、なぜか周辺の金属を磁石のように引き寄せながらみるみる肥大していき、1週間もたたないうちに突如として大爆発!
あっけにとられる調査団の目の前で、爆発とともにひときわ上空高く舞い上がってゆく紅蓮の火柱。
「あっ! なにか、形になっていくぞ!」
地上の人間が指さす先で、火柱は消えずに空中にとどまり、ひとつの巨大な炎のかたまりになる。いったいこれからなにが起きるというのだろうか!?
そしてなんと! その炎の中から出現したのは、1匹の黄金に輝く大怪獣、いやさ、超怪獣!
なんとまがまがしく、かつ優美なお姿なのでしょうか。
身長100メートルの巨体、3本の長い首、翼長150メートルという2枚の翼。頭から2本あるしっぽの先まで、ぜ~んぶ黄金色!
輝かしい金のウロコにおおわれた全体像は西洋の「ドラゴン」を思わせるものなのですが、その3つの首の先にあるふてぶてしい顔つきは、まさに東洋の「龍」そのもの。
「おっしゃあ!! なんでも破壊しつくしたるでぇ!」
と、野望まんまんの血走った目つきをした恐怖の超怪獣が日本に出現した瞬間でした。そのわりに、鳴き声は「ピロピロピロ、ピロピロピロ~。」という、電話の呼び出し音のような人類の常識を超越したかわいい高音ヴォイス。
こいつぁいったい、何者なんだ!?
実は、この宇宙超怪獣が登場する伏線のような出来事はすでに起きていました。
浮浪者のような奇妙な身なりをした謎の美少女(演じるは、日本に2人しかいない『007』公式ボンドガールの1人・若林映子!『宇宙大怪獣ドゴラ』にも出てます。)が日本各地の観光地に現れて、
「私は金星人だ。5000年前に私たちの文明を滅ぼした宇宙超怪獣キングギドラが近日中に地球にやって来る。気をつけなさい。」
という予言をしていたのです。まぁ、信じる人はいないよね!
ところが! そのくだんのキングギドラとしか思えない黄金の超怪獣がホントに現れちゃったんだからサア大変。
詳しい話を自称金星人の美少女に聞くと、キングギドラにたった3日で自分達の文明を滅ぼされた金星人の残留思念(要するに幽霊)は5000年もの時を超えて宇宙をさまよい、ついにキングギドラが地球に狙いをつけたと知って、地球のある美少女(実は超セレブ)の肉体に憑依して地球人に警告を発する旅をしていたと語ったのです。うーむ、まぁ信じるか! かわいいしね。
しかし、5000年前に、現在の地球より発展していた金星の文明を3日で滅ぼしていたとは……ん? 「3日」?
ちょっとひっかかりますね。「3日」という言葉の意味を、金星人の幽霊は「地球時間」と「金星時間」、どっちの意味で言っていたのでしょうか。
だって、金星は地球よりも極端に自転速度の遅い惑星で、金星がぐるっと1回転するのには、地球でいう約117日分の時間がかかるというのです。つまり、金星の1日は地球の117日なんですよ。
ということは、キングギドラがかつての金星文明を地球時間でいう3日で滅ぼしたのか、それとも351日間というほぼ1年くらいの時間をかけて滅ぼしたのか? 情報の内容にかなりの誤差が生じてしまうわけなんですね。
まぁ、どっちにしろ恐いことに違いはないんですが……恐いというのなら、滅ぼされたあと5000年間もキングギドラの動向を追い続けていた金星人の執念も恐すぎですね。老刑事もビックリのスッポンっぷり。
金星といえば「金星竜イーミア」なんですが、ということは、キングギドラはイーミアの故郷を滅ぼしたにっくき宿敵ってことになるんですかね? でも、5000年前のことだからなぁ。
あれ? 5000年前といえば、確かあの太陽系幻の第5惑星「ミステロイド」が核戦争で自爆した時でしたよね?
単なる可能性の問題ですが、もしかしたら、自爆しなくてもミステロイドはキングギドラに滅ぼされてたのかも知れません。そりゃまぁ、ちょっと高いところから落ちただけで簡単にブッ壊れるモゲラでキングギドラに太刀打ちはできなかったろうよ。
こんな感じで、キングギドラの恐怖は太陽系にとどろくものとなっていたのですが、20世紀の終盤にはなんと、地球で紀元前1億年ほどまでに繁栄していた恐竜が突然のように絶滅したのも、このキングギドラが原因なのではないかという新説が発表されるにいたりました。え!?
つまり、かつて地球上で全盛期を迎えていた恐竜の世界が消えていったのは、当時スクスク成長期だったキングギドラ少年が白亜紀(紀元前1億4400万年~前6500万年)に地球に襲来し、ティラノサウルスやらトリケラトプスやらをモリモリ食べつくしてしまったからなのではないかというわけなんです。どんだけ~!?
ついでに言うと、のちに宇宙超怪獣キングギドラとしては3代目にあたる個体が1999年の7月にも地球に現れているのですが、一部の人々のあいだでは、かつてあの大予言者・ノストラダムスが警告した「アンゴルモアの大魔王」とは、この時のキングギドラのことだったのではないかとまことしやかにささやかれたそうです。どんだけどんだけ~!?
そんな恐怖の大王キングギドラ様なんですが、持っている武器はおおよそ2つしかありません。でも! その2つが強力なんだなぁ。
まずは、身長100メートルに体重3万トンという巨体がマッハ3でムリヤリ空を飛んじゃう、そのムチャクチャなパワーによって周辺に発生する衝撃波(ソニック・ブーム)ですね。
その威力はすさまじく、ただキングギドラがその上空を飛んでいったというだけで、長野県の松本城は屋根瓦が全部ふっとんで半壊し、東京タワーは真ん中からへし折れて倒壊してしまいました。ああ、指一本ふれずに日本人の誇りをなんなく破壊してしまうその尊大さ!
そして2つ目の武器というのが、その3つの口から絶え間なく発せられる稲妻のような引力光線!
この光線を受けた地球上の物体はことごとく粉々に爆砕し、地球の重力から解き放たれたかのように空中高く舞い上がってしまうのです。これは強力だ!
この2つ。この2つだけなのではあるのですが、これがすんげぇんだよ!
シンプル・イズ・ベスト。富山の日本アルプスから覚醒したキングギドラがやってくる。
最初はひらひらした金色のちょうちょが遠くにいるなぁ程度にしか見えなかったものが、近づいてくるにつれてどんどんその恐ろしさをチラつかせてくる。
どうやらケタちがいに巨大な何からしい……そして3本首の先には、鬼のような形相でこちらをにらみつける大迫力の顔と、それらの口から絶え間なく発せられる黄色い引力光線の雨が!
しかし、それが見えるくらいの距離になった頃にはもう手遅れ。一瞬にしてキングギドラは頭上をマッハで通過していき、すべての物体は引力光線によって破壊されるか、それを運良くまぬがれたものもソニック・ブームによって大空高く吹き飛ばされてしまうのです。
まさに「破壊神」……キングギドラの前には身分のちがい、性別のちがい、運不運のちがい、生物のちがいなど関係ありません。宇宙すべての物体という物体が平等に破壊されていくのみなのです。
富山~長野~東京~神奈川と飛び回るキングギドラ。どこにも降り立つことなく、それなのに全地域を壊滅させてしまうそのポテンシャル。「怪獣は自然災害だ。」とは言いますが、まさにキングギドラは宇宙サイズの超災害です。やべぇよ!
これは大変だ……キングギドラには、今までの侵略宇宙人にあった「征服」という目的はないのですが、それ以上にやっかいな「破壊」しか頭にないんだからよけいに始末に負えない! 容赦もへったくれもあったもんじゃありません。
そのあまりにも速すぎるキングギドラの破壊スケジュールになんの対応策も打ち立てられない自衛隊と地球防衛軍。いよいよ地球のホモサピエンス時代もおしまいなのか!?
しかし! 意外なところに地球の救世主はいたのです。今じゃあ意外でもなんでもねぇんですが。
怪獣には怪獣を! なんと、いろんな事情があって偶然に富士山麓(特撮が似合う日本の風景ナンバー1)で集合していた地球を代表する3大怪獣、ゴジラとラドンとモスラ(幼虫)がキングギドラと対戦することになったのです。
地球の3大怪獣は、人類に非常に好意的だったモスラの説得もあって(史上初の「怪獣語」会話例)なんとかかんとかやったこともない集団戦を始めることとなります。
キングギドラは都合良く富士山麓に降り立ち、付近の村落を焼き尽くしながら3大怪獣のいる場所に移動します。
これはおそらく、キングギドラが富士山に集まっていた3大怪獣の気配を感じ取って、
「のぞむところじゃあ! まずはお前らから血まつりにあげてやるわい。」
という判断をしたのではないでしょうか。
地味な村落に降臨した黄金色の超怪獣。このミスマッチの美学ね!
そこでキングギドラが、「村の鎮守さま。」といった感じのひなびた神社の鳥居を容赦なく引力光線でブッ倒すくだりがあるのですが、これは名シーンだね。
「ワシの前では、神も仏も、大都会も田舎も関係ない。みんな仲良く死ね!」
といったキングギドラの基本スタイルが如実に理解できる構図です。信長みたいな怪獣だね。
しかし、キングギドラ無念!
「史上最大の決戦」のもようはぜひとも記録映画で見届けていただきたいのですが、1対3というハンディキャップマッチだったこと、富山の黒部峡谷で覚醒してから1日もたっていない寝起き状態だったことがわざわいして、残念ながらここでの初のゴジラたちとの対決にキングギドラは惜しくも敗れてしまいます。
モスラの頑丈な糸まみれになって宇宙へと撤退していくキングギドラ。
「おどれら、おぼえとけよォ! 地球、絶対また来るからな! おいゴジラ、おまえ顔おぼえたぞ~!!」
しかし、からくも勝利した地球の3大怪獣たちの疲労もはげしく、ゴジラ、ラドン、モスラ、それぞれもそれぞれの休息できる場所へと去ってゆくのでした。
《次回予告》
宇宙最悪の超怪獣キングギドラの危機も、3大怪獣のの活躍によって被害時間半日・被害地域は東日本だけという奇跡的な損害の少なさでしのぐことのできた地球。しかし、
「さすがの地球防衛軍も、役に立たない時は役に立たない。」
という信じたくない事実を露呈させることになってしまった。今度また来たらどうしよう……不安に怯える人類。
だが、しかし。
「そっかぁ! うちらの兵器だけじゃなくて、うまく宇宙怪獣もコントロールして地球にけしかけたらいいんだぁ!」
という悪魔の発想に目を輝かせる宇宙人がいた! いや、遮光器みたいなサングラスをしてるから目は見えないんだけどさ。
つうことで次回は、約8年ぶりの地球襲来にして、史上初めて「宇宙怪獣をあやつる宇宙人スタイル」を確立させたあの宇宙人の登場だ~!
メガシャキの人は、まだいない。