ポール・オースター『ガラスの街』
ポール・オースターの初期の作品である『ガラスの街』をずっと読まずにいたのは、コミック版の「シティ・オブ・グラス」を先に買ってしまったからだ。
デビッド・マッズケリの絵によるコミック版は、10数ページ進んだあたりで読めなくなってしまった。
読みにくかった。
その原因が原作にあるのか、描き方にあるのかわからなかったが、コミックが読めないのに原作がわかるのか? という思いが残った。
そのまま20年が過ぎてしまった。
柴田元幸訳の新潮文庫版『ガラスの街』を書店で見かけたとき、カバーのモノクロの絵が、コミック版の「シティ・オブ・グラス」を思い出させた。
2つの絵が似ているのはモノクロという点だけ。
タダジュン氏のイラストには、物語の面白さを想像させる何かがあって、強くこの本を読みたいと思った。コミック版の呪縛が解けたかのようだった。
小説を読んでみて、コミック版で感じた分かりにくさが、原作の分かりにくさに起因しているとわかる。
その分かりにくいことを、少しでも分かりやすくするために描かれている絵が、かえって混乱を生んでいる。
さらに、コミック版は原作をミステリーとしてとらえているため、必要のない箇所でも謎に満ちた雰囲気を出している気がする。
ぼくは、小説のこの分かりにくさを気に入っている。
そもそもミステリーを読んでいるつもりはないので、謎が謎のままでも構わない。
ポール・オースターの世界に浸るだけで、ぼくは十分幸せだ。
装画はタダジュン氏、装丁は新潮社装幀室。(2021)
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