アンナ・カヴァン『氷』
ちくま文庫の表紙は、周囲を白く縁取り、中には果てしない闇がある。
その真ん中に白抜きのタイトル。
冷たい水面に浮かぶ氷のようで、触れなくともその冷気が伝わってくる。
見続けると、吸い込まれ、水中を漂うような感覚になる。
このシンプルさが、この本の表紙にはふさわしい。
読後、強くそう思うようになってくる。
説明することのできないストーリーだ。
読書は、時間、空間をさまよう。
一瞬で、場所も立場も状況も変わっていて、とても頭がついていけないのに、飽きることなく読みすすめられるのはどうしてだろう。
冒険をしている感覚だからなのか。
それとも、危機感、悲しみ、焦りのようなものが支配していて切なくなるからなのか。
大きな災難を乗り越えたのに、気づいたら汗ひとつかいていなかった。
そんなスマートさも感じる、非現実。
カバーデザインは水戸部功氏。(2015)
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