ドナルド・レイ・ポロック『悪魔はいつもそこに』
理不尽な仕打ちを受けた人が、相手に向かって拳を握りしめる。
そいつを殴ってしまえ!
読みながら心の中で叫ぶ。
そんな暴力性が自分の中にあると気づき、恐くなる。
物語に同調し、ときどき起こる気持ちの動き。
それは、小説家の巧みな筆力が引き起こす。
タイトルの「悪魔」、カバーの十字架を見て、オカルトものを想像した。
怖いもの見たさでページを繰るが、ここにそういう恐怖はない。
ただ、暴力の匂いが充満する文章で、いつ誰かが殺されても不思議ではない雰囲気が絶えず漂っている。
1960年代のオハイオ州。
極貧の中、暴力を振るうことを意に介さない父に育てられた少年の話が、いくつかある軸のひとつ。
少年はその後両親を亡くし、愛情深い祖母とともに暮らす。
やがて、彼は人を思い遣る大人へと成長していくように見えるのだが。
悪は善良な人を飲み込んでしまう。
そいつを殺ってしまえ!
暴力が最上の解決に見えてしまうのは、ぼくの中に棲む悪魔のせいか、あるいは作家のチカラなのか。
装丁は新潮社装幀室。(2023)
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