ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

さらば、シェヘラザード

2019-04-29 10:22:47 | 読書
ドナルド・E・ウェストレイク『さらば、シェヘラザード』





 ドナルド・E・ウェストレイクの本が、絶滅しかけている。

 そんな状況のなか出版されたこの本は、「ドーキー・アーカイヴ」というシリーズの中の1冊。

 10人の作家の1人にすぎない。しかも少々色物扱い。

 だからこんな色の表紙なのだろうか。

 どぎつい赤に、紫色の唇。

 唇の間に、英語のタイトルと著者名。

 外国の本を思わせる作りだが、どうやら日本語版オリジナルのようだ。

 ポルノ小説を書いている作家の話なので、こういう装丁になったのだと思うが、この作家を知らないと手に取りにくい。


 この小説、ちょっと変わっている。

 別の作家の下請けで、ポルノを書いて生活している主人公。能力の限界から行き詰まってしまう。

 迫る締め切り。クビを切られる恐怖。

 「1」と章番号を入れて、書き出したのは自分自身のこと。

 ポルノを書かなければと思いながら、つい辛い現実を書いてしまう。

 きっちり1章分(25ページ)で区切りをつけ、新たな章でポルノを書き始めるのだが、また途中で現実のことが混じってくる。

 やがて現実と妄想と、ポルノの設定とがごっちゃになってしまう。

 それでも悲しい習性からか、25ページで1章という設定は守り続ける。

 実際の本のページ数は下にあり、主人公が書いている小説のページ数は上に同じ書体で入っている。

 とても細かい仕掛けだが、物語の中に取り込まれていく感覚になる。


 これを機に、ドナルド・E・ウェストレイクの復刊、または新しい翻訳が出てほしい。

 装丁は山田英春氏。(2019)




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