キャサリン・ライアン・ハワード『56日間』
いつかこんな小説が出てくるだろうと思っていた。
COVID-19(新型コロナウィルス感染症)のパンデミックを描いたものが。
ただ想像していたものと違ったのは、外を出歩かなくなった状況をうまく利用した恋愛小説風だったこと。
事実上ロックダウンになったアイルランドが舞台。
コロナ禍で出会い好きになった人と一緒にいるには、早急だけども一緒に暮らすしかない。
感染者数が急激に増えていく毎日は、マスクをし手洗いをしっかりしても罹患する恐怖は大きかった。
この物語では、そんな怖さは強調されない。
話がぶれてしまうからかもしれない。
何かを隠している男に、正体不明の住人に、少しずつ不気味さ植えつけていくためかもしれない。
タイトルの『56日間』は、ダニー・ボイル監督の恐ろしいゾンビ映画『28日後』を想起させる。
作中この映画に触れている場面があり、作者が意識しているのがわかる。
この小説が恐ろしいのは、ゾンビでも広がる感染でもなく、執着心だ。
ゾンビは出てこない。
装丁は新潮社装幀室。(2023)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます