ジェスミン・ウォード『骨を引き上げろ』
モノトーンのシンプルな絵の表紙を開けると、見返しの赤が目に突き刺さる。
本扉にも絵が入っていて、その赤い塊が、心臓の鼓動、血管を勢いよく流れる血を連想させた。
この物語は熱い。
舞台はアメリカミシシッピ州、語られるのは貧しい黒人の一家。
母は末の子の出産時に亡くなり、父と10代の息子2人、15歳の少女と7歳の弟で暮らしいる。
父は、やってくるハリケーンに備え、子どもたちに指示を出し忙しく動き回っている。
窓を覆う板は廃材だし、水を入れるボトルは床下に転がっているもの。
半端仕事で生計を立てる家族の貧しさが見える。
例年ハリケーンの直撃を受けないのだが、父はこっちに向かってくるのが感覚でわかると、いささか執拗だ。
そんな父を傍目に、次男は飼っているピットブルの出産と生まれた子犬の世話にかかりきりだ。
彼と犬とは相思相愛で、犬はほかの人間を無視している。
物語の語り手である少女は、自分のことを性の捌け口程度にしか見ていない男の子どもを身籠っている。彼女はまともに相手にされていないとわかっていても、その男のことを好きでたまらない。
妊娠していることは誰にも言えずにいる。
やがて父の懸念通り、ハリケーンが襲ってくる。それは巨大な被害をもたらしたカトリーナだった。
ただ生きることの熱さが、読んでいるうち体に染み込んできて力が湧いてくる。
いつも一家のそばにいる友人の、大きな優しさが救いになる。
装丁は水崎真奈美氏。(2022)
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