安倍政権スルー 北の拘束邦人解放に秘めた拉致解決の糸口
安倍首相(左)と金正恩朝鮮労働党委員長(C)AP
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/236319/
北朝鮮が、拘束していた日本人男性を解放した。国営「朝鮮中央通信」は26日、男性が北の国内法に違反する罪を犯したが、「人道主義の原則により、寛大に許し、国外に追放することにした」と伝えた。日本政府には“寝耳に水”の急展開は北の歩み寄りにも取れる。実は、北はこれまで、拉致問題進展に向けた“ヒント”を発信しているが、安倍政権は見て見ぬフリ。解決の糸口を逃し続けている。朝鮮中央通信は、男性の名前を「杉本倫孝」(スギモト・トモユキ)と明かした。杉本氏は、滋賀県出身の39歳の映像クリエーターとみられ、今月上旬、中国旅行会社のツアーで北に入国。10日に、西部・南浦で拘束された。南浦の軍事施設を撮影した疑いをかけられたとの情報もある。日本の外交筋は、「27日までに解放され、近く経由地の中国に到着」と語ったが、北朝鮮関係筋は確認しておらず情報は錯綜している。北は、1999年にスパイ容疑で元日経新聞記者を2年以上拘束。2003年には、麻薬密輸容疑の邦人を約5年間出国させなかった。今回も、拘束を長引かせ、「人質」として、対日交渉カードに使うのではないかと懸念されていた。ところが、わずか20日足らずで突然の解放。河野外相は27日午前、外務省で幹部と対応を協議し、菅官房長官も会見で「当然、報道は承知している」と政府独自で情報を掴んでいなかったかのような口ぶりだった。思わぬ“朗報”に安倍政権はバタバタだ。「6月の米朝首脳会談前に、北が拘束米国人3人を解放したように、外務省幹部は、日本に向けても対話の用意があるとのメッセージとみています。日本政府としても、現地で罪を犯した自国民を大目に見てくれたわけで、感謝の気持ちを持たざるを得ないでしょう」(外務省担当記者)
■「過去の清算」のヒントを見て見ぬフリ北が日本に言及する際、こき下ろす言動が目につくが、実はこれまでも歩み寄りのヒントを盛り込んできた。北の朝鮮アジア太平洋平和委員会報道官は、22日付で「拉致問題」について談話を発表。安倍政権を<罪の多い加害者が「被害者」を装う術策にすぎない>と非難する一方で、こんな表現がある。<日本は過去の清算なしには、一歩も未来に進むことはできない><われわれは過去の清算が行われる前には、広大な世界(=北朝鮮)に通じる関門を絶対に開かない>元外交官の天木直人氏が言う。「この談話を素直に読むと、日本が過去の清算に向き合えば拉致問題を含めて門を開ける用意があるということですよ。最近、北は『拉致問題は解決済み』と主張しながらも、必ず『過去の清算』に触れています。『安倍政権は過去と向き合え』と何度も解決の糸口を示しているのです。ところが安倍首相は、先日の全国戦没者追悼式では6年連続、アジア諸国への『加害と反省』を盛り込まないなど、過去に向き合う姿勢をみじんも持っていない。拉致解決に最もふさわしくない首相なのです。石破さんは、総裁選でこの点を追及すべきです」安倍首相は、15年8月の「戦後70年談話」で、侵略戦争や植民地支配の主体が誰かを語らず、過去の過ちを正面から認めた「村山談話」を骨抜きにした。安倍3選なら、あと3年間、拉致問題は1ミリも進まない。