蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

独ソ戦

2019年11月04日 | 本の感想
独ソ戦(大木毅 岩波新書)

私個人の、第2次世界大戦におけるドイツ軍の印象は、パウル・カレルの「焦土作戦」「バルバロッサ作戦」「砂漠のキツネ」「彼らは来た」などの著作によって形作られた。
彼の著作では、ドイツ軍は精強だったがヒトラーの誤った介入によって敗れた、みたいな論調が多くて、ロンメル、マンシュタイン、マントイフェルといった有名な将軍はすべて天才的指揮官として描写されていたような記憶がある。

ところがパウル・カレル(本名はカール・シュミット)が、かつてはナチ党員でSS中佐であったことが暴かれて、彼の著作は全く信用をなくしてしまった。このことが日本に伝わってきた時は、けっこうショックだった。

多くの本は図書館で借りて読んだが、「焦土作戦」(独ソ戦の前半部分から終結までを描いたかなり分厚い本)だけは、買って読んだ。当時としてはかなり高価で、なけなしの小遣いをためてやっとこさ買った本だったので大部にもかかわらず繰り返し読んだ。マンシュタインのバックブローとかチェルカッシイの包囲戦とかを興奮しつつ読んだ思い出は今でも鮮明だ。私に限らず、それなりの数の人が彼の著作の影響を受けていたと思う。

本書は、私のような「ドイツ軍観」を破壊する内容。
独ソ戦は、イデオロギーが鋭く対立した民族絶滅戦争で、
ドイツ軍もソ連への侵攻に積極的であり、
ヒトラーの介入により戦況が悪化した場面はあったが逆のこともあり、
ソ連の軍事理論は特に戦略面においてドイツを凌駕していてドイツの敗北は必然であった、
などとする。

うーん、そうはいっても、すべて首肯することは若干抵抗があって、ドイツが軍事的もしくは戦略的勝利を得ることができたかもしれない局面もいくつかはあったと思うし、戦略面ではアメリカの援助がソ連勝利の決定的要因の一つだったことが軽視されていたようにも思った。

しかし、本書によって、独ソ戦が犠牲者数から見て人類史上最大の殺し合いであったことにあらためて気づかされた。これまで戦術や兵器の観点に傾きがちだった見方が本書によって更新されてことは確かだ。

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