蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

権力は嘘をつく

2023年01月19日 | 本の感想
権力は嘘をつく(スティーブ・シャンキン 亜紀書房)

アメリカ軍による南北ベトナム間の紛争への介入を始めたジョンソン大統領の国防長官マクラマラは、戦局が悪化したのを見て政府内における一連の活動を記録して後世の教訓にしようと「ベトナムにおけるアメリカの政策決定の歴史」をまとめるように指示する。これが後に、国防省職員だったダニエル・エルズバーグによって新聞にリークされ、公表してきた事実と異なる政府の実態が暴かれてしまう・・・というノンフィクション。

エルズバーグはどう考えても政府の秘密を漏洩した犯罪者なのだが、リークの拡大を防ごうとしたニクソン政権の拙劣な裏工作(ウォーターゲート事件もその一部)が明るみに出て世論は彼の味方になり、判事は公訴棄却してエルズバーグは時代の英雄となった。

本書の最後に登場するスノーデンもやったことは似たようなもので、現にエルズバーグはスノーデンの行為を称賛したという。

ジョンソン大統領や側近はベトナムに介入してもうまく行かないことは十分理解していたという。しかしそれでも彼らは戦争を始めてしまい、「アメリカ初の対外戦争に破れた大統領にはなりたくない」という強い、しかし後から見れば愚かな動機のもと戦力の逐次投入を続ける。
よく、日中戦争〜太平洋戦争の日本の意思決定の拙さが指摘されるが、結局同じ人間、アメリカでも似たような局面では同じような行動をしてしまうのだなあ、と思った。

拙劣という意味ではニクソン政権の裏工作も相当なもので、「プラマーズ」(配管工)と名付けられたメンバーの手際はコメディ映画みたいなひどさだった。大統領直属のスパイ?なのだから服部半蔵率いる忍者みたいな感じなのかと空想させるが、実際にはコソ泥並だった。
もっともこれは全てバレてしまったからそう見えるのであって、現実にはうまくいっていて、かつ、明るみになっていない裏工作もまた多数あるにちがいないのだが。
エルズバーグは法を冒しているのだから、彼を妨害するためには(政権側が)不法行為で対抗するのは当たり前だ、みたいな粗雑な発想を大統領側がしているのもけっこう衝撃的。

そうは言っても、アメリカって(いい意味で)すごいな、と思える所もたくさん登場する。
NYタイムズやワシントン・ポストみたいな、巨大マスコミのオーナーが、自身が犯罪に問われうることを承知の上でリークを記事にすることを認めたところ、とか
政府がNYタイムズへの掲載差し止めの訴えを起こしたNY連邦地裁の判事がこれを否定する判決を出した、などなど。



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