マスメディアの伝えるところでは、大阪市の公共交通、特に市営地下鉄と市バスについて、今「民営化」が検討されているとのこと。そのことに関して、「国鉄改革は国鉄当局の問題の先送りに業を煮やした中曽根氏が外部有識者の国鉄改革委員会を設置。あっという間に分割民営化の抜本改革案ができた。依然抵抗する総裁を中曽根氏が更迭し、やっと検討作業が始まった」などと、ある大阪市の市政改革推進会議のメンバーは、自分のブログに書いている。どうやら、市政改革本部や推進会議は、「国鉄改革」を市営地下鉄・市バス「民営化」のモデルにしたい様子である。
しかし、だとしたら、次の事柄を指摘しておかなければならないだろう。
まず、「国鉄改革」に先立って、マスメディアを通じての国鉄労働者の勤務実態などに対する非難が次々に行われたこと。(そういえば、つい最近まで、「職員厚遇批判」が大阪市の行政に対して浴びせられていたっけ?)
また、特定の労組に在籍する人々をまるで狙い撃ちにしたかのように、新会社への異動に際して嫌がらせを行ったり、あるいは、「人材活用センター」という名の施設に送り込んで、従来の職務につかせなかったりしたこと。その結果、この「国鉄改革」を通じて、関係者から百名を超える自殺者まで出たという。
それから、大都市周辺の国鉄用地の売却や、それに伴う都市再開発が引き起こす地価上昇を見越して、大企業などの国鉄資産の「配分」や都市再開発をめぐるかけひき(というよりも分捕り合戦?)がおきたこと。
さらには、国鉄からJRへの移行に伴い、例えば、ベテラン・中堅の運転手や安全管理部門などでの人員削減や配置転換が行われ、結果的に安全性が軽視される風潮が生み出されたこと。その結果が、数々の列車事故などへとつながった面は否めないこと。<なお、ここまでの内容は、鎌田慧『国鉄処分』(講談社文庫)、鎌田慧『国鉄改革と人権』(岩波ブックレット)を参考にして書いた。>
そして、こうした分割・民営化によって旧国鉄の累積債務は返済されたのかというと、実はそうではなく、国鉄清算事業団の解散時点で約8億円の無利子債務を国が免除、約16兆円の有利子債務を国の一般会計が引き継いでいる(この点は「国鉄清算事業本部」のホームページを参照)。また、JR各社は国鉄からの移行に際して、旧国鉄債務の一部を負担していたはずであるし、国鉄清算事業団の解散時点でJR各社にさらなる負担を求められたという経過もある。結局、旧国鉄の累積債務は、こんな形で「見えなくされただけ」かもしれないのである。
こういう経過や今の状況をみていると、はたして本当に大阪市の地下鉄や市バスの財政再建に「国鉄改革」の手法を用いることが適当なのかどうか、そこからして疑問の声があがってきてもおかしくないのではないか。そして、こういう経過や今の状況を知らずに「国鉄改革」を持ち上げるのも困った話だし、知っていて「国鉄改革」の手法を導入しようというのであれば、これはかなりタチの悪い話であると言わざるをえない。