12月28日から年末年始の休みに入って、気付けば今日は2019年の大みそかです。
新しい年を迎える前にいくつか言っておきたいことがありますので、何回かに分けてブログを書いておきます。
まずは、今年の10月から大きな問題になっている例の神戸の教員間いじめ問題に関してです。
年末に新たな動きがいくつかあったので、以下のとおり、何件か神戸新聞の記事を紹介しながら、思うところをあらためて述べておきます。
教員間暴行 教育長「ミスで処分先延ばし。加害教員にも申し訳ない」(神戸新聞NEXT 2019年12月27日付け配信記事)
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201912/0012994796.shtml
教員間暴行 給与差し止め不服審査で市教委「答弁1カ月延長を」 資料の多さ理由に (神戸新聞NEXT 2019年12月27日付け配信記事)
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201912/0012992550.shtml
教員間パワハラで32人処分 文科省初の全国調査 (神戸新聞NEXT 2019年12月25日付け配信記事)
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201912/0012987472.shtml
東須磨小問題 調査委の報告書公表「年度内に」 (神戸新聞NEXT 2019年12月20日付け配信記事)
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201912/0012976891.shtml
神戸市長が批判「言語道断」 市教委の資料提供ミス (神戸新聞NEXT 2019年12月18日付け配信記事)
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201912/0012969710.shtml
ほんとうに、この半月くらいのあいだに、矢継ぎ早に神戸の教員間いじめ問題に関連して、これだけの新聞記事が配信されているわけですが・・・。
このことに対する私のコメントを結論から先に言いますと、次の3点です。
(1)「神戸市長や市教委上層部が目論んでいた『火消し』の筋書きが、この年末には崩壊してしまった」ということ。
(2)「依然として『火消し』の枠組みばかりに議論が終始していて、当該の小学校の教育活動の再建や、神戸市の教育施策全体を見直して、たとえば教員間いじめや、教員から子どもへの暴力・暴言、そして子ども間のいじめが起きにくいような教育環境をつくっていくという話が出てこない」ということ。
(3)「あらためてもう一度、10月からこの間の「ハラスメント」調査や市長・市教委上層部の対応のあり方、マスコミ報道のあり方なども含めた、本格的な検証作業をしたほうがいいのではないか」と思うこと。
たとえば、例の加害教員と呼ばれる4人(=異議申し立てがでているので、今回はこのように表記します)に対する分限休職処分及び給与差し止めを、市教委上層部は10月末に市の条例を改正して強行したわけですが、先月からそれに対する加害教員のひとりからの異議申し立てが行われているわけですよね。また、その異議申立てを審査する市の人事委員会に対して、市教委側はここへきて書類提出の延期を求めているわけですよね。
それにしても、なぜ市教委側からここで、加害教員と呼ばれる人々の処分に関連する書類が、スッと人事委員会に出せないのでしょうか? 市長や市教委上層部は「いろいろ悩んで、慎重に検討した結果の決断だ」とこの間説明してきたわけですが、このような有様では、加害教員に対する分限処分や給与差し止めという対応の根拠そのものが怪しいということにもなりかねません。
また、その対応の根拠自体が怪しいということは、10月末の処分時に市の分限懲戒審査会が出した意見(=ほんとうにこの分限休職処分や給与差し止め措置が必要なのか、怪しい)という意見のほうが正しかった、ということにもなりかねません。
さらに、市の分限懲戒審査会が出した意見の方が正しいのであれば、現在進行中の「ハラスメント」問題に関する弁護士チームによる調査(新聞記事では「調査委員会」になっていますが)のすすめ方にも、なにかと疑義が生じてきますね。市教委側の弁護士チームへの書類提出でミスがあったとされていますが、本当は人事委員会での異議申立て審議の動きを見ているのではないか・・・と思ったりもします。
一方、上記で紹介した弁護士チームの調査についても、記事を読む限りでは、懲戒処分の妥当性を問うために、まずは、被害にあった教員から申し立てられた出来事の事実確認に追われている印象です。また、あらためて市教委側から提出された資料に基づいて、もう一度弁護士チームは事実確認作業をやり直すようですね。
ですが、この間の弁護士チームの作業では、新聞記事を見る限り、そもそも神戸市の教育界や当該の学校の運営にどういう問題があって、その問題が背景になって教員間いじめが起きて、それが継続してなかなか止められなかった・・・という、そういう議論には至っていないように見受けられます。そこが明らかにならない限り、有力な再発防止策も、当該の学校の再建策もできないでしょう。
また、このような懲戒処分に向けての事実確認作業ばかりを優先すると、当然のことながら、その当該の学校に通う子どもたちの受けた被害の把握やそれへのケア、あるいは、子どもたちや保護者、地域住民の学校再建にむけての思いの把握などが、何かと後回しになってしまいます。それでは「学校への信頼回復」と言われても、肝心のその学校に通っている子どもも、その子どもの保護者も、長年、その学校を大事に守り育ててきた地域住民も納得できないでしょう。
このような次第で、前々から私はこのブログで「教育学や心理学・精神医学の研究者などもいれて、時間をかけて調査を」と主張してきましたが、法学系(弁護士)中心での調査・検証作業の限界が、もうすでに現れているように思っています。また、法学系だけでなく、教育学や心理学・精神医学の研究者なども入れた本格的な調査・検証を実施するのであれば、たとえば、ひとまず当該の学校から加害教員と呼ばれる人々を引き離すために「転勤」させた上で、他校などで仕事をさせながら、じっくりと調査・検証作業を行うことだってできたはずです。そうすると、ますます例の分限休職処分・給与差し止めという対応には疑義がでてきます。
そう考えると、「いったい、今行われている弁護士チームの作業は、「誰に向けて、なんのため」の作業なんでしょうか? もう一度、そこから問い直してほしい」と、私はいま、あらためて願うばかりです。
そして、この間に、文科省が行った調査の結果もでてきました。他の自治体においても、いわゆる教員間のパワハラ問題で、処分をされている教員が32人もいるということですね。ということは、この間「神戸方式」の教員人事のせいで教員間いじめが起きたのだ、ということをマスメディアなどを通じてさかんに連呼してきた人々がいるわけですが、でも「ほんとうにそうなのか? 日本全国に教員間のいじめ・パワハラが起きやすい環境が形成されているなかで、神戸では今回の件のようなかたちで現れたのではないのか?」という見方もできるわけです。
このような次第で、私はもう一度、今年10月から論じられてきたこと、調査・検証されてきたことを、別の視点から点検しなおして、議論を再構築しなおすべきではないかと考えるわけです。また、その際には、例の「激辛カレー」を無理やり食べさせられている映像をマスメディアが流したことの是非や、加害教員とされる人々を「早く処分しろ」と言い続けてきた人々の側の意識の問題、さらに、そういう人々の声に煽り煽られるかのように情報発信をし続けてきた神戸市長のあり方なども、当然、問題にされてしかるべきかと思います。
ところで、神戸市長はなにかと「言語道断」とこの間の市教委事務局の対応を批判するわけですし、その都度、教育長は謝ってばかりいるわけですが・・・。
でも、その市教委事務局の対応をコントロールするべき教育長や教育委員を、議会の承認を経て任命したのは、神戸市長ご自身です。教員間いじめの問題がこれだけ大きな社会問題になり、また、その問題への対応に何かと失敗してきた教育長や教育委員がいる以上、教育長らを任命した市長ご自身の責任も今後、なにかと問われてくるのではないかと思います。
また、教育長ご自身、さらに教育委員さんたちは、これまでの自分の市教委事務局に対する「監督」の在り方に対して、何の自己批判もないのでしょうか? 謝るだけでなく、自らの在り方についても厳しく検証が必要なのではないかと思います。
そして、「加害教員(とされる人々)を早く処分しろ」と叫んできた市議さんたちは、いったい、何を考えてそのような動きをつくってきたのでしょうか。あなたがたがリードしてきた議論の結果が、この年末の状況なのですから。後先のことも考えず、かなり勢いだけで突っ走ってきたことについて、いま、冷静なふりかえり、反省が必要なのではありませんか。
なので、「市教委事務局や学校現場だけを何かと悪者にするかのような言動は、今後、つつしんでほしい。あなたも組織風土のなかにいるのですし、そういう組織風土をつくってきた側にいるのですから」と、神戸市長と市教委上層部、そして「加害教員(とされる人々)を早く処分しろ」と叫んできた市議さんたちには、この場で伝えておきたいと思います。
最後に。私の知る限り、神戸の学校現場にも市教委事務局のなかにも、地元教組にも、市議さんたちのなかにも、そして保護者や地域住民、いわゆる市民のみなさんのなかにも、この悲しい事件をきっかけに、神戸の学校現場を変えていきたいと願う人々は大勢います。そういう人々の思いや願い、知恵、努力が結集できるような、そんな枠組みを構築できるかどうか。2020年に入ったら、神戸市長と教育長、教育委員で構成される「総合教育会議」での議論が、今までのような「火消し」ばかりの議論から、「焼け跡からの再出発」に向けての議論に転換できるように。そのことを願ってやみません。そのためにも、今後は上記のような「この悲しい事件をきっかけに、神戸の学校現場を変えていきたい」と願う人々の声を、しっかりと聴いてください。「加害教員(とされる人々)を早く処分しろ」と叫んできた人々の声は、もう十分、聴いてきたはずですから。