今日はいよいよ、文部科学省初等中等教育局長が今年6月1日付で各都道府県・政令指定都市教育委員会教育長などに出した通知「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の在り方について」の、最後の検討を行います。
以下の青字部分が、この通知の部分です。今回は通知のうちの「2 背景調査を行う際の留意事項」(4)~(7)の部分と、「3 学校及び教育委員会における平素の取組に関する留意事項」をとりあげます。
(4)詳しい調査を行うに当たり、事実の分析評価等に高度な専門性を要する場合や、遺族が学校又は教育委員会が主体となる調査を望まない場合においては、具体的に調査を計画・実施する主体として、中立的な立場の医師や弁護士等の専門家を加えた調査委員会を早期に設置することが重要であること。なお、学校又は教育委員会が主体となる調査を行う場合においても、適切に専門家の助言や指摘を受けることが望ましいこと。
いままでも、いろんな子どもの自殺事案において、学校や教育行政とかかわりの深い人たちが中心になって「調査委員会」などが設置されたケースがあります。また、今も子どもの自殺などが起きた場合、学校や教育行政の側には、臨床心理士や弁護士などの緊急対応チームによる支援が入るケースがあります。
こういった過去の取り組みに関する成果と課題について、文部科学省側はどのように認識しているのでしょうか? それに関する検討抜きには、調査委員会が「中立的な立場」をとるために何が必要か、見えてこないように思うのですが。また、遺族側が望まなければ詳しい調査を行わないというのも、学校における子どもの自殺防止の観点から見て、「それでいいのか?」と思ってしまうのですが。
(5)詳しい調査を行うに当たり、調査の実施主体は、遺族に対して、調査の目的・目標、調査委員会設置の場合はその構成等、調査の概ねの期間や方法、入手した資料の取扱い、遺族に対する情報提供の在り方や調査結果の公表に関する方針など、調査の計画について説明し、できる限り、遺族と合意しておくことが重要であること。また、在校生及びその保護者に対しても、調査の計画について説明し、できる限り、その了解と協力を得つつ調査を行うことが重要であること。なお、詳しい調査の過程において、必要に応じて随時、遺族に対して、調査の状況について説明することが重要であること。
遺族側への説明や合意を得ることについては当然ですし、調査過程において遺族側に随時、その進行状況などについて説明をすることも当然でしょう。ただ、調査実施にあたって在校生とその保護者に説明をすることは必要としても、その調査への協力は、調査する側がどのような姿勢で説明するかによって、ずいぶん変わってくると思います。「二度とこういう悲しい出来事が起こらないように、正直に知っていることを話してほしい」という姿勢で調査に臨むのか、それとも、「ややこしい話になりそうだから・・・・」というような姿勢で臨むのか。それによって、他の保護者や子どもたちの協力の様子も変わるのではないでしょうか。その点について、文部科学省はどう考えているのでしょうか?
(6)背景調査においては、自殺等事案が起きた後の時間の経過等に伴う制約のもとで、できる限り、偏りのない資料や情報を多く収集し、それらの信頼性の吟味を含めて、客観的に、また、特定の資料や情報のみに依拠することなく総合的に分析評価を行うよう努める必要があること。したがって、調査で入手した個々の資料や情報は慎重に取り扱い、調査の実施主体からの外部への安易な提供や公表は避けるべきであるとともに、外部に提供又は公表する方針がある場合には、調査の実施に先立ち、調査対象となる在校生やその保護者に説明し、できる限り了解を得ることが重要であること。
これ、ここでいう「外部」とは誰にとっての、何を指しているのでしょうか。「調査委員会」にとっては、遺族側もマスコミも、他の子どもや保護者、学校・教育行政の側も「外部」ではないのでしょうか? そういう扱いにしておかなければ、少なくとも「調査委員会」の独立性・中立性は保てません。
また、背景調査については、「最初から調査結果については、必要に応じて外部にその内容を部分的にであれ、公開をすることが前提」で、「調査委員会」を立ち上げ、調査を実施することを原則にすべきではないのでしょうか? でなければ、子どもの自殺事案の検証をふまえた自殺防止に関する意識啓発活動、再発防止の取り組み等、なにも動かないように思うのですが。逆に言えば、他の子どもや保護者から「必要な協力が得られなかった」という理由で、「調査委員会」が立ち往生してもいい、と文部科学省は考えているのでしょうか?
(7)上記のほか、背景調査における資料や情報の収集、調査結果の外部に対する説明や公表等に当たり、調査の実施主体は、当該児童生徒、遺族、在校生及びその保護者など関係者のプライバシーや心情にできる限り配慮するよう努める必要があること。ただし、資料や情報の収集、調査結果の適切な説明等に支障が生じないように努める必要があること。
いったい文部科学省は、子どもの自殺事案発生時に、「調査委員会」などによる背景調査を積極的にすすめたいのでしょうか? それとも、それにブレーキをかけたいのでしょうか? この文章の前半を読んでいると、文部科学省は在校生や保護者などのプライバシー、心情などへの配慮を口実にして、調査実施やその結果の公表にブレーキをかけようとしているようにも読み取れてしまいます。しかし、後半は調査実施や説明等に支障が生じないように、ともいう。もしも後半部分のほうが大事なのだとしたら、「調査委員会」には適切な守秘義務だけ課して、それ以外の制約を課すような前半部分の文章は削除したほうが、よっぽどいいでしょう。
3 学校及び教育委員会における平素の取組に関する留意事項
(1)学校及び市区町村教育委員会は、万が一自殺等事案が起きたときに備え、本報告書や別添1を参考としつつ、これらの資料を活用して研修を行うなど、平素から、背景調査を適切に行うことができるように取り組む必要があること。
「ほう、ほんとうにこれ、やるんですよね?」「これ、ほんとうにやる覚悟のある学校、市区町村教育委員会なら、私、全面的に協力しますよ」というのが、率直な意見です。
ただし、その場合は条件があります。文部科学省が実はこの通知に添付する形で、「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」の報告書や、この会議をふまえた各種の手引書などをあわせて送っているようです。まずは、その報告書や手引書の内容が、子どもの自殺に直面した遺族の側からどう見えるか、その話をさせていただきたい。
次に、子どもの自殺に直面した遺族がどんな心理状態におかれ、どんな形で今まで学校・教育行政の事後対応に直面して、二重三重の苦しみを負ってきたのか。その話も、この研修場面においてさせていただきたい。 この2つの条件をのんでいただけるのであれば、私はこの3(1)でいう研修などに、積極的に協力してもいいと思っています。結局、本気で子どもの自殺事案に向き合い、遺族へも真摯に対応しようと学校や教育行政が取り組もうと思うのであれば、ここまでやらなければダメでしょう。
(2)都道府県教育委員会は、自殺予防に関する普及・啓発など自殺予防対策を推進するとともに、背景調査に関し、担当者を設けるなど体制整備及び専門性向上に関する取組、調査委員会の委員の候補となる人材に関するリストの作成、本報告書の内容を踏まえた各都道府県ごとの背景調査の具体的な手順の検討、域内の学校関係者又は教育委員会関係者に対する研修の実施など、児童生徒の自殺等事案が起きたときに域内の学校又は教育委員会を適切に支援することができるように不断の取組を着実に推進する必要があること。
ここも(1)と同じです。本気で各都道府県教委が子どもの自殺事案発生時の背景調査に積極的に取り組み、その調査結果をふまえた再発防止策の確立や意識啓発活動の実施等に取り組むのであれば、「すでに起きた子どもの自殺事案に学ぶ」作業が必要不可欠です。
また、その作業の重要なパートナーとして、自殺した子どもの遺族からの話を聴き取る作業と、過去の事案の検証作業を行うことは、まず早急に手をつけるべき作業ではないでしょうか。
そして、その検証作業や遺族からの話を聴く作業に携わった学校・教育行政の関係者と、教育・心理・医療・法律などの専門家を核にして、調査委員会の委員候補者をつくっていくことが必要なのではないでしょうか。
私としては、この文部科学省の通知を読んで、このようなことを感じました。ひとまず、このシリーズに関する投稿は、いったん、ここで終わります。