セレンディピティ ダイアリー

映画とアートの感想、食のあれこれ、旅とおでかけ。お探しの記事は、上の検索窓か、カテゴリーの各INDEXをご利用ください。

犯罪小説集/劇場/風に舞いあがるビニールシート

2017年11月18日 | 

最近読んだ本の中から、感想を書き残しておきます。

吉田修一「犯罪小説集」

吉田修一さんの作品は、”悪人”、”パレード”、”怒り” と読んだことがあります。どれも読み始めると止まらなくなるおもしろさがありましたが、現代社会の闇や生きづらさが描かれていて、読んでいて辛くなることも。そんなわけで、映画化されている作品も多いですが、見るのを躊躇してしまいます。

本作は5編からなる短編集で、どれもここ10年くらいの間に世間を騒がせた、実際に起こった事件をモチーフにしています。とはいえイマジネーションを膨らませ、実際とは違う設定や、別の切り口で描かれているので、元の事件を思いう浮かべながらも、あくまでフィクションとして新鮮に読み進めることができました。

女性の複雑な心理をかつての同級生の視点で描いた”曼珠姫午睡”や、犯罪者の生い立ちに着目した”百家楽餓鬼”、”白球白蛇伝”。また、差別と偏見によって引き起こされた犯罪(青田Y字路)や、村社会が生み出した悲劇(万屋善次郎)など、日本の閉鎖性について考えさせられる作品もありました。

タイトルが漢字5文字で統一されていることからも、最初から連作を想定して書かれたのだと思いますが、粒ぞろいでどの作品もおもしろかったです。

又吉直樹「劇場」

”火花” で芥川賞を受賞した又吉さんの第2作。自ら小劇団を運営し脚本を書いている永田と、彼を尊敬し陰で支える恋人 沙希とのラブストーリーです。恋愛小説ということもあって、私は "火花" より楽しく読めました。

売れない劇作家と彼を支える恋人...ということで、私が思い出したのは常盤新平さんの ”遠いアメリカ”。若い頃に読んで、今は何者でもなく、ただ夢を追い求める2人に共感し、号泣したことを覚えていますが、今回はなぜか泣けなかった...。どちらかというと、沙希ちゃんの親の立場で読んでしまって、ただただ永田の身勝手さに腹が立ちました。^^;

私が若かった頃のきらきらした気持ちや一途な思いを忘れてしまったのかもしれませんが...。周囲がとやかく言うことではなく、これは永田と沙希ちゃんにしかわからない愛なのでしょうね。どこかフェリーニ監督の ”道” に通じるものも感じます。いろいろ文句を書きましたが^^; 小説としてはおもしろかったです。

森絵都「風に舞いあがるビニールシート」

森絵都さんの "みかづき" が気に入ったので、他の作品も読んでみたくなりました。2009年上期に直木賞を受賞した、6編からなる短編集です。作品は軟・硬 交互に続き、それぞれ個性があって楽しめました。

犬の里親探しのボランティアをしている主婦の目を通して、昨今のペット問題に切り込んでいる”犬の散歩”。テーマはシリアスですが、物語はやわらかい筆致で描かれていて、最後に家族の絆へとつながっているところがちょっと ”みかづき” のテイストに似ています。

仏像に魅せられて修復の道に入った若者の、師との確執と挫折を描いた”鐘の音”は、純文学の香りがあって私は一番気に入りました。ある仏像へと傾倒していく様子には狂気さえ感じられ、それゆえに残酷な結末に胸をつかれました。神に導かれたとしか思えない後日譚も不思議な余韻を与えてくれました。

世代間のギャップを描いた "ジェネレーションX" はコミカルでスピード感あふれる作品。仕事で謝罪に向かう中堅社員と取引先の若い社員。長い道中、延々私用電話をかけ続ける若者に最初は内心腹が立ちますが、その後思わぬ展開が待ち受けます。すてきなラストに胸のすくようなさわやかな感動を覚えました。

コメント (4)