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ニッポンのゆる~い日常

(5)「台湾に手を焼くよ」

2013-05-09 17:13:44 | 歴史
【子供たちに伝えたい日本人の近現代史】

(5)「台湾に手を焼くよ」


http://sankei.jp.msn.com/life/news/130505/art13050508040001-n1.htm



■「ヒラメの目」論で統治


 台湾の台北市を観光に訪れる日本人がたいてい足を運ぶのが、市の中心部にある総統府だ。言うまでもなく、台湾の総統が政務をとる建物である。

 バロック式5階建て、中央に塔が立つ赤煉瓦(れんが)の偉容は、見る人を圧倒する。実は日本による統治時代、統治に当たる台湾総督府として建設された。日本が先の大戦で敗れた後、台湾当局が総統府として再利用しているのだ。

 その総統府の300メートルほど東にある台湾の迎賓館「台北賓館」は台湾総督の住居、官邸(公邸)だった所だ。ともに日本統治時代の歴史を今に伝えており、総統府には日本の歴代総督の写真が飾ってあるという。



 日清戦争を戦った日本と清国とは明治28(1895)年4月、山口県下関市の春帆楼で、講和条約(下関条約)を結んだ。

 清が朝鮮の独立を認めること、日本に対して遼東半島と台湾を割譲すること、2億両(当時の金で約3億円)の賠償金を払う-の3点が柱であった。


 このうち遼東半島は、調印からわずか6日後、ロシア、ドイツ、フランスによるいわゆる「三国干渉」により日本が放棄せざるを得なかった。

 だが、台湾については、6月初め、初代の台湾総督となった樺山資紀が台北に乗り込んで総督府を開き、植民地統治を始めた。

 しかし当初は決して安易な道ではなかった。


 台湾はオランダなど西欧の国に支配されていた時期もあり、はっきりと清の版図に入ったのは、1683年のことだった。

 その後、中国大陸の福建省や広東省からの移民が増加し始め、中部から北部へと開拓が進んだ。しかし山地の多い東部は19世紀に入っても、ほとんど未開拓の状態だった。先住民の高山族を完全に支配することもできていなかった。阿片(あへん)を吸う「悪習」もあり、清ももてあまし気味だった。


 講和のさい、清の全権、李鴻章が日本の伊藤博文に対し「貴国は台湾に手を焼くよ」と「忠告」したと言われる。あながち、台湾を手放さなければならなくなった悔しさだけではなかった。そして日本はさっそくこの言葉をかみしめさせられる。

 劉永福将軍が率いる「台湾民主国」軍は、日本の近衛師団と頑強に戦った。このため日本は国内などから次々に兵力を増員し鎮圧にあたり、この年の11月、ようやく平定する。

 それでも最初の3年間ほどは、高山族などの激しい武力抵抗にあい、日本国内では「台湾売却論」まで出る始末だった。


 それだけではなかった。割譲とともに、一旗揚げようと台湾に渡る日本人も多かったが、中には悪徳商人のような者もいた。彼等は総督府の役人と結託し、台湾人から搾り取ろうした。また軍の中にも総督の命令を無視し、勝手に武力をふるう者もおり、一段と反発を買っていった。


 何とか軌道に乗るのは統治開始から3年後の明治31年、第4代総督となった児玉源太郎が、統治を実際に取り仕切る総督府民政局長(後に民政長官)に、後藤新平を起用してからだった。


 大正12年の関東大震災で復興計画を立案する後藤は元々医師で、日清戦争の後、戦地から復員する兵士の検疫を担当した児玉の補佐を務め辣腕(らつわん)をふるった。そのことで児玉の強い信頼を得た。

 その後藤は統治に当たって「比目魚(ヒラメ)の目」という独特の「哲学」を持っていた。

 「比目魚の目が体の片側に2つついているのは生物学的理由があるからで、無理やり変えるわけにはいかん」というのである。だから統治する場合も、台湾の古い慣習や制度を生かし、日本のシステムを押しつけるのを避けた。

 そうした古い習慣、制度を綿密に調べる「旧慣調査」を実施し、その結果として住民が相互監視する「保甲」を利用した警察制度をつくり、治安を安定させた。その上で、医療から産業まであらゆる分野で改革を進める。




                          ◇




【用語解説】初期の台湾総督

 初代総督は薩摩出身で海軍大臣や海軍軍令部長などをつとめた樺山資紀。その後、桂太郎、乃木希典、児玉源太郎という長州出身の陸軍軍人が続いた。

 2代目の桂は辞令を受けた後、台湾を視察するなど意欲を見せた。だが直後に政権交代した松方正義内閣の陸軍大臣を要請されたのに、その後取り消されるという、ドタバタに怒って総督を辞任した。

 代わりに起用された乃木も統治の困難さに絶望して1年余りで辞め、4代目の児玉の起用によってようやく統治が本格化する。








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