lurking place

ニッポンのゆる~い日常

日本挑発する北方領土訪問計画 

2015-07-29 11:35:28 | 正論より
7月29日付      産経新聞【正論】より


日本挑発する北方領土訪問計画    新潟県立大学教授・袴田茂樹氏


http://www.sankei.com/column/news/150729/clm1507290001-n1.html


 7月23日の露閣僚会議でメドベージェフ首相が、北方領土訪問の意向と国境防備のための島の軍備強化方針を打ち出し、他の閣僚たちにも訪問を強く誘った。日本への挑発的な言動である。この報道に接して、私は3年前の深刻な事態を想起せざるを得なかった。



 《韓国、中国へも“飛び火”》


 2012年7月末に、民主党の玄葉光一郎外相とラブロフ外相の会談がロシアで予定されていた。しかし7月初めに突然メドベージェフ首相が国後島を訪問し、しかも日本に対してきわめて侮辱的な発言をした。外交常識から見て当然、日本は外相会談をキャンセルするか延期すべきだった。


 しかし日本政府は抗議したが行動では逆に、玄葉外相は予定通り訪露し、しかもプーチンへの秋田犬のプレゼントまで持参した。


 これを注視していたのが韓国の李明博大統領だ。専門家によると、李大統領は領土問題に関し日本は真剣勝負ではないと見て、直後の竹島訪問(8月)を決断したという。これが転回点となって、日韓関係が一挙に悪化した。

 さらに翌9月、尖閣諸島が国有化されると、私有地の国有化は主権問題とは無関係にもかかわらず、中国が主権問題だと大騒ぎをし中国各地で反日暴動が起きた。



 北方領土問題は主権侵害の問題だが、日本が真剣な対応をしないと、他の外交、安全保障さらには経済問題にも大きな影響が及ぶという具体例である。

 先日の露閣僚会議では、来年から10年間の新クリール発展計画も採択した。これは軍事と民生を結合した島の総合開発計画で(予算700億ルーブル)、島の人口も25%増の2万4千人にする計画だ。6月にはショイグ国防相が択捉、国後の軍事拠点建設などの2倍加速を命じ、露国内ではこれは日本の領土返還要求への対応と報じられた。クリール発展計画も軍備強化も、島を日本に返還するつもりはないとの意思表示でもある。




 《なぜいま対日強硬策なのか》


 筆者は露屈指の日本専門家と日露関係について3月から5月にかけて往復7回の公開論争を続けた。露側の結論は、日本は数十年か無期限、領土問題は一切提起せず、露との協力関係を推進すべしというものだ。今回のメドベージェフの島訪問に関する露側報道でも、「露は島の共同開発を提案しているが、条件は日本側が領土要求を忘れて経済協力に集中すること」としている(『RIAノーボスチ』2015年7月25日)。



 わが国では、プーチン大統領の年内訪日が検討され領土交渉進展が期待されている。それに配慮し、欧米諸国が6月以後、対露批判を強めているにもかかわらず、対露制裁も控えめにしてきた。従って、なぜいま対日強硬姿勢なのか、との戸惑いの声が政府などからも出ている。「大統領は北方領土問題解決に強い意欲を示しているのに、首相がそれを阻害する言動を繰り返している」といった報道さえある(朝日新聞 7月24日)。しかしこの認識は間違いだ。

 4島の発展計画や軍備増強も、プーチンの意に反して首相や国防相が進めることはあり得ず、当然、大統領の指示で推進されている。北方領土問題でも大統領自身が強硬姿勢なのだが、わが国ではほとんど報じられていないので、説明しよう。




 《露大統領招聘は正しい行動か》


 北方四島の帰属(主権)は未定と両国が公式に認めていたのに、平和条約交渉に関連して「4島が露領であるのは第二次大戦の結果だ」と初めて述べたのはプーチンだ(2005年9月27日 露国営テレビ)。彼は2012年3月に、朝日新聞の若宮啓文主筆に領土問題で「ヒキワケ」と述べ注目された。その時彼は、日ソ共同宣言に従って歯舞、色丹を日本に引き渡しても、「その後それらの島がどちらの国の主権下に置かれるのか、宣言には書いてありませんよ」との強硬発言をしたが(昨年5月にも同じ発言をしている)、朝日や他の日本メディアはこの強硬部分を報じなかった。


 またその時、彼は「両国外務省に(交渉)ハジメの指令を出そう」とも述べたが、その後、露外務省は日本外務省との領土交渉を拒否してきた。もちろん、反大統領ゆえではなく、彼の指令がないからだ。プーチンが外務省に話し合いをさせようなどと人ごとのように言うこと自体、解決の意思がない証拠だ。両外務省は何十年も議論をし尽くしているが決定権はなく、いま残されているのは両国首脳の決断だけだからだ。


 ではこの状況で日本として露にどう対応すべきか。わが国は北方領土問題に関して、しばしば露側に抗議し言葉で批判するが、行動が伴わず、時には逆の行動さえとる。従って、日本の抗議は単なる「儀式」だと、露首脳たちにも揶揄(やゆ)される。結局いま問われているのは、今年プーチン大統領を招くのは国家として正しい行動なのか、国家主権の問題でまた誤解を招くことにならないか、ということである。露との良好な関係構築は必要だが、それと個々の問題への対応ははっきり区別すべきだ。(はかまだ しげき)














  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする