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国を便宜の一つとしてしか考えない勢力が増えている 日本は自前で国の「設計図」を描け

2017-04-14 13:13:35 | 正論より
4月14日付     産経新聞【正論】より


国を便宜の一つとしてしか考えない勢力が増えている 日本は自前で国の「設計図」を描け 


元駐米大使・加藤良三氏


http://www.sankei.com/column/news/170414/clm1704140005-n1.html




 ≪耳に残った椎名氏の言葉≫


 10年前に亡くなった政治家の椎名素夫氏はほとんど表に出なかったが、日米同盟の強化に多大な貢献をした人で、本物の知識人であった。


 2005年の「郵政選挙」のあと、一時帰国していた私にポツリ、ポツリ語ってくれた氏の言葉は今も耳に残っている。

 「戦後60年を経た今、日本の社会では『国民』と呼ばれることを拒否する、正体不明の『市民』の人口は確実に増加している。これに国を便宜の一つとしてしか考えていない人間や組織の存在を合わせると、こういう要素でできている集合体は果たして国といえるのか」と述べ、こう続けた。


 「今回の選挙で形だけの勝敗ははっきりしたが、『勝った』と思う人たちはその成功の上に何を築こうとしているのか」「また『負けた』陣営は何をどういう手段で取り返せばいいと考えているのか。その結果、日本はどういう国になると考えているのか」「選挙ではにぎやかな『政策論争』が喧伝(けんでん)されたが、中身はといえば『郵政民営化』にしても『年金問題』にしてもゼニ勘定に関わるものばかりだった」-。


 そして氏は、「戦後60年にわたって日本が経験した、朝鮮特需に始まる一連の幸運を追い風として勝ち得た成功のコストは大きなものについた。他人(アメリカ)が書いた設計図にただ乗りした成功に安住しているうちに、国の基本を苦心して自分で考え抜く知的エネルギーまで喪失したのではないか」と懸念を表明した。





 ≪戦後の成功は「錬金術」の所産≫


 「他人の書いた設計図」に何かそこかしこ、いかがわしいにおいがあっても、それをさも「自分のもの」であるかのように使い続け、使いこなして、いつしか実質的に主体的なものにしてきたのが、戦後日本の「成功物語」であったと思う。

 私自身も一所懸命、そういう仕事をしてきた。

 しかし今、私はこの成功は高度の「錬金術」(hermetic)の所産だったのではないかと思うときがある。


 14年10月、文部科学省の研究所が発表した世論調査で83%の日本人が来世も日本人に生まれたいと回答している。16年に韓国のマクロミルエムブレイン社が行った世論調査では61・1%の韓国人が来世は韓国に生まれたくないと答え、76・9%が移住を真剣に考えたことがあると回答している。


 他方、15年春にウイン・ギャラップ・インターナショナルが64カ国・地域を対象に行った世論調査で「あなたは自分の国が侵略を受けたとき、身をもって戦いますか」と問うたのに対し、韓国は42%が「イエス」と答え、日本は最も低い11%のみが「イエス」と答えたとある。


 一片の世論調査で全てを推し量ることは無理があるが、この83%と11%の対比は椎名氏の懸念に符合するものだ。

 それは、日本国民の「自然災害」に対する結束度と、「他国からの侵略」に対する結束度の間に顕著なギャップがあることを示すものである。


 もし日本が某国に領土を取られたら、日本は何をしたいと考えるのか、何ができるのか、アメリカはどうすると思っているのかよく分からない。アメリカの日本重視の本格派が、内々に漏らすことがある。彼らにとってこれは改憲うんぬん以前の緊迫感を伴った問題意識である。

 一方、依然、日本は「言霊」の国であり、「他国からの侵略」に言及した途端に「予言には自己充足効果がある。そういうことを言うとそれが現実になってしまうのだ」として批判の対象にされる可能性が大である。





 ≪国際的な評価は得られるのか≫


 しかし、他人が書いた設計図を自由闊達(かったつ)に使いこなし、自分のものにしてここまで来た日本は、趨勢(すうせい)の問題として、今その代償が何であったかを考えるべき状況に向き合っている。


 そこで重要なのは、日本が自前の設計図を書くことを阻んでいるのは、決してアメリカではないという点である。直視すべきは、日本自身が自前の設計図を製造する能力を自ら封印してきたことであり、それは日本の責任であって他者に転嫁できる話ではない。

 日本が「成功物語」の結果、国際社会で最高の好感度を長く維持しているのは心地よいことである。しかし、日本国内に国を便宜の一つとしてしか考えない勢力が増えていることを考えれば、日本を外から見る諸外国の中に、日本を「便宜上、ユーティリティー(有用性)の高い国」としてしか見ない国が多くても、驚くにあたるまい。


 これは「ソフト」な支持であって、「ハード」な支持ととらえるのは早計である。

 他人から与えられた設計図をなぞった「成功物語」にも多分、限界がある。自前の設計図を書く覚悟がない場合、結局、損をするのは日本であり、まっとうな日本国民である。(元駐米大使・加藤良三 かとうりょうぞう)














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