5月17日付 産経新聞【正論】より
自らに〝時代遅れ〟の制約課す日本学術会議 軍事研究禁止は国を弱体化させる
平和安全保障研究所 理事長・西原正氏
http://www.sankei.com/column/news/170517/clm1705170007-n1.html
日本学術会議は3月24日に「安全保障と学術に関する検討委員会」の幹事会が決定した「軍事的安全保障研究に関する声明」を出した。これは2015年度に防衛省防衛装備庁が設置した「安全保障技術研究推進制度」が、大学の研究者に研究費を出して研究成果を日本の防衛技術の向上に取り入れようとしたことに対し、同会議が軍事利用される恐れのある研究を規制するよう大学などに要請した反対声明であった。
≪日本学術会議の声明は時代遅れ≫
日本学術会議は自然科学および人文社会科学の分野の研究者84万人を代表する機関で、1949年に設立された。これまで50年と67年に同様の声明を出しており、今年の声明はその延長線上にある。同会議の声明は憲法23条が「学問の自由」を保障しているにもかかわらず、それを否定し自らに時代遅れの制約を課している。
もともと声明は、科学者は戦争協力をしないこと、および研究は政府から独立したものであるべきだという態度で出されたものである。50年の声明が「戦争を目的とする科学の研究には、今後絶対に従わない」とし、67年の声明が「軍事目的のための科学研究を行わない」としていた。
しかし「軍事技術と民生技術は分けられない」「防衛目的の技術と攻撃目的の技術を分けて考えるべきだ」などのいわゆる「軍事研究」を部分的に容認する意見もあったため、声明は「大学等の研究機関における軍事的安全保障研究(中略)が、学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にあることをここに確認し」とし、イデオロギー色を後退させている。そして「研究の適切性」をめぐっての「議論に資する視点と知見を提供すべく、今後も率先して検討を進めて行く」と結んでいる。
ここでは日本学術会議が各大学や研究機関に軍事的安全保障研究に従事することを禁じているわけではない。しかし実際にはそうした研究に参画しないように研究機関や大学に強い要請をしたと見るべきだ。2015年度に58件あった大学からの応募件数が16年度には23件に減少したという。関西大学や法政大学は学内の倫理基準に照らして学内の研究者の応募を禁止することとし、これまで米国防総省や防衛省からの助成金を受けていた東京工大も同じ理由で当面禁止することに決めたという。
≪核を知らずに対抗できるのか≫
古代ローマに「平和を欲するならば、戦争に備えよ」という格言がある。世界の大半の国は、この格言を表明することはないにしても、実際にはこれに沿った国家戦略を立てている。日本も憲法上の制約を課しながら、同様の国家戦略を立てている。日本の平和は、国際協調を重視する外交とともに、国防に備える自衛隊と「戦争の備えをしている」米国との同盟で保持されている。
残念ながら、日本学術会議の有力メンバーは「すべての科学者が軍事目的の研究をしなければ、戦争は不可能である」との伝統的思考から抜け出せないでいる。
日本は北朝鮮の核に対して核で対抗することはできないが、核の知識がなければそれへの対抗策を施すことはできない。サリンを大量に持つべきではないが、サリンの性質を知り、効果的な対策を練る研究は絶対に必要だ。サイバー攻撃から守るには、その仕組みを研究しなければならない。これらの研究の倫理性を疑うのは的外れである。
大学の研究者の中には、自国の平和と安全を願い、防衛技術の向上に貢献したいとの意欲を持つ人がいる。日本学術会議の声明はそういう研究者の「学問の自由」を奪い、結果として日本の防衛の弱体化に貢献している。
≪非武装平和主義的思考の克服を≫
防衛装備庁は15年度に3億円、16年度に6億円、そして今年度には大幅に増額して110億円の予算を組んだ。そのため、1件約3千万円で3年間の研究費だったのが、今年度からは1件当たり5年間で数億円から数十億円のものが新設されるという。
ほとんどの技術が軍事技術にも民生技術にも使われる今日、こうした研究資金を使って主要国に負けない研究成果を出せるようにすべきである。日本学術会議は研究に対する政府の過度の介入を警戒するが、研究者によっては、研究の途中で政府の要望を入れて研究を修正したいと考える人もいるだろう。また政府としても何億円かの資金を投入する研究を研究者のみに任せておいて進捗(しんちょく)状況を見ないのは、適切な資金の使用方法とは思えない。
防衛装備庁は研究成果を「原則として公開」としている。基礎研究であれば汎用(はんよう)性は高いわけで、できるだけ研究成果を公開することが望ましい。しかし防衛技術研究を全部公開するのでは日本の防衛力を強めることにならない。
日本学術会議や研究機関が防衛省からの研究費に関して「研究の適切性」を議論するにあたって、非武装平和主義的思考を克服して、防衛技術の汎用性を国際的基準で検討することを望みたい。(平和安全保障研究所 理事長・西原正 にしはら まさし)
自らに〝時代遅れ〟の制約課す日本学術会議 軍事研究禁止は国を弱体化させる
平和安全保障研究所 理事長・西原正氏
http://www.sankei.com/column/news/170517/clm1705170007-n1.html
日本学術会議は3月24日に「安全保障と学術に関する検討委員会」の幹事会が決定した「軍事的安全保障研究に関する声明」を出した。これは2015年度に防衛省防衛装備庁が設置した「安全保障技術研究推進制度」が、大学の研究者に研究費を出して研究成果を日本の防衛技術の向上に取り入れようとしたことに対し、同会議が軍事利用される恐れのある研究を規制するよう大学などに要請した反対声明であった。
≪日本学術会議の声明は時代遅れ≫
日本学術会議は自然科学および人文社会科学の分野の研究者84万人を代表する機関で、1949年に設立された。これまで50年と67年に同様の声明を出しており、今年の声明はその延長線上にある。同会議の声明は憲法23条が「学問の自由」を保障しているにもかかわらず、それを否定し自らに時代遅れの制約を課している。
もともと声明は、科学者は戦争協力をしないこと、および研究は政府から独立したものであるべきだという態度で出されたものである。50年の声明が「戦争を目的とする科学の研究には、今後絶対に従わない」とし、67年の声明が「軍事目的のための科学研究を行わない」としていた。
しかし「軍事技術と民生技術は分けられない」「防衛目的の技術と攻撃目的の技術を分けて考えるべきだ」などのいわゆる「軍事研究」を部分的に容認する意見もあったため、声明は「大学等の研究機関における軍事的安全保障研究(中略)が、学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にあることをここに確認し」とし、イデオロギー色を後退させている。そして「研究の適切性」をめぐっての「議論に資する視点と知見を提供すべく、今後も率先して検討を進めて行く」と結んでいる。
ここでは日本学術会議が各大学や研究機関に軍事的安全保障研究に従事することを禁じているわけではない。しかし実際にはそうした研究に参画しないように研究機関や大学に強い要請をしたと見るべきだ。2015年度に58件あった大学からの応募件数が16年度には23件に減少したという。関西大学や法政大学は学内の倫理基準に照らして学内の研究者の応募を禁止することとし、これまで米国防総省や防衛省からの助成金を受けていた東京工大も同じ理由で当面禁止することに決めたという。
≪核を知らずに対抗できるのか≫
古代ローマに「平和を欲するならば、戦争に備えよ」という格言がある。世界の大半の国は、この格言を表明することはないにしても、実際にはこれに沿った国家戦略を立てている。日本も憲法上の制約を課しながら、同様の国家戦略を立てている。日本の平和は、国際協調を重視する外交とともに、国防に備える自衛隊と「戦争の備えをしている」米国との同盟で保持されている。
残念ながら、日本学術会議の有力メンバーは「すべての科学者が軍事目的の研究をしなければ、戦争は不可能である」との伝統的思考から抜け出せないでいる。
日本は北朝鮮の核に対して核で対抗することはできないが、核の知識がなければそれへの対抗策を施すことはできない。サリンを大量に持つべきではないが、サリンの性質を知り、効果的な対策を練る研究は絶対に必要だ。サイバー攻撃から守るには、その仕組みを研究しなければならない。これらの研究の倫理性を疑うのは的外れである。
大学の研究者の中には、自国の平和と安全を願い、防衛技術の向上に貢献したいとの意欲を持つ人がいる。日本学術会議の声明はそういう研究者の「学問の自由」を奪い、結果として日本の防衛の弱体化に貢献している。
≪非武装平和主義的思考の克服を≫
防衛装備庁は15年度に3億円、16年度に6億円、そして今年度には大幅に増額して110億円の予算を組んだ。そのため、1件約3千万円で3年間の研究費だったのが、今年度からは1件当たり5年間で数億円から数十億円のものが新設されるという。
ほとんどの技術が軍事技術にも民生技術にも使われる今日、こうした研究資金を使って主要国に負けない研究成果を出せるようにすべきである。日本学術会議は研究に対する政府の過度の介入を警戒するが、研究者によっては、研究の途中で政府の要望を入れて研究を修正したいと考える人もいるだろう。また政府としても何億円かの資金を投入する研究を研究者のみに任せておいて進捗(しんちょく)状況を見ないのは、適切な資金の使用方法とは思えない。
防衛装備庁は研究成果を「原則として公開」としている。基礎研究であれば汎用(はんよう)性は高いわけで、できるだけ研究成果を公開することが望ましい。しかし防衛技術研究を全部公開するのでは日本の防衛力を強めることにならない。
日本学術会議や研究機関が防衛省からの研究費に関して「研究の適切性」を議論するにあたって、非武装平和主義的思考を克服して、防衛技術の汎用性を国際的基準で検討することを望みたい。(平和安全保障研究所 理事長・西原正 にしはら まさし)