lurking place

ニッポンのゆる~い日常

安倍談話は日本人の「必読文献」となるであろう

2015-10-16 14:31:22 | 正論より
10月16日付    産経新聞【正論】より


安倍談話は日本人の「必読文献」となるであろう 東京大学名誉教授・平川祐弘氏


http://www.sankei.com/column/news/151016/clm1510160001-n1.html


 安倍晋三首相の『戦後70年談話』は日本人の過半の賛成を得たが、反対もいる。「『戦後70年談話』は日本人がこれから先、何度も丁寧に読むに値する文献だ」と私が言ったら、「どの程度重要か」と問い返すから「明治以来の公的文献で『五箇条ノ御誓文』には及ばぬが『終戦ノ詔勅』と並べて読むがよい。これから日本の高校・大学の試験に必ず日英両文とも出題されるだろう」と答えた。 「『教育勅語』と比べてどうか」と尋ねるから「文体の質が違うが、これからの必読文献は『戦後70年談話』の方だ」と答えた。すると早速講義するよう、ある大学に招かれた。そこでこう話した。安倍談話は歴史への言及で始まる。




 ≪悪と化した明治以来の日本≫


 「…百年以上前の世界には、西洋諸国を中心とした国々の広大な植民地が、広がっていました。圧倒的な技術優位を背景に、植民地支配の波は、十九世紀、アジアにも押し寄せました。その危機感が、日本にとって、近代化の原動力となったことは、間違いありません。アジアで最初に立憲政治を打ち立て、独立を守り抜きました。日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました」

 これからの若者にはこれが共通知識となるだろう。もっともロシア側の見方は異なる。レーニンは日露戦争に際し日本の正義を支持したが、スターリンはそれとは逆の歴史観を述べた。


 昭和20年、戦争に負けるや日本は悪い国だと私たちは教育された。占領軍の手で新聞ラジオを通して宣伝というか洗脳が行われた。それで明治以来の日本がすべて悪と化し、歴史の洗脳も行われた。大山巌満州軍総司令官が揮毫(きごう)した忠魂碑を取り壊すことはさすがにしない。だが私が通った都会の学校の講堂からは東郷平八郎の書も乃木希典の書も撤去された。


 日本人の変わりざまは早かった。昭和23年、東大教養学部の前身の一高で「大東亜戦争やシナ事変を戦った日本が悪かったからと言って日露戦争まで悪かったのでしょうか」と全寮晩餐(ばんさん)会の席で発言した卒業生がいた。それは当時としては言ってはいけないタブーにふれたから、数百人の一高生がシーンとしている。いちはやく拍手した私は間が悪く、彼は「私は酔っております」と断りを入れて降壇した。

 しかしその頃の私は夜な夜な「胸に義憤の浪湛(たた)へ 腰に自由の太刀佩(は)きて 我等起(た)たずば東洋の 傾く悲運を如何(いか)にせむ 出でずば亡ぶ人道の 此世に絶ゆるを如何にせん」と大声で寮歌をうたっていた。日露戦争前夜の青年の気持ちは戦後にも底流していた。



 ≪日露戦争に寄せた思い≫


 それだから私たちは平和主義を奉ずるが、それでも1960年代になるや、島田謹二『ロシヤにおける広瀬武夫』や司馬遼太郎『坂の上の雲』を愛読したのである。それは若き日の和辻哲郎や柳田国男が「黄禍」は「白禍」であると言った作家アナトール・フランスに共感したと同じようなものだろう。私が日本フランス文学会で最初に発表したのも日露戦争に際してのアナトール・フランスの発言についてであった。


 そんな私が定年で駒場を去って23年、その昔大学で教えた学生もまた定年を迎えつつある。私はそんな老骨だが、年配の男女でも賛否両論、議論に花が咲く。

 外国人研究員は「『朝日』は日本の良心」で、慰安婦報道で『朝日』が謝罪したのは安倍政権が圧力をかけたからだという程度の日本理解である。教え子の女性も配偶者の職業やキャリアによって賛否が異なる。極端に安倍首相を嫌う人は、本人か配偶者に学校づとめや弁護士が多かった。




 ≪悪態をつく私への賛意≫


 『朝日』は「この談話は出す必要がなかった。いや、出すべきではなかった」と8月15日の社説に書いた。そんな新聞を半世紀以上読んできた夫婦が反対を口にするのは当然だろう。しかし周辺の名誉教授連は「『朝日』があれだけけちをつけるのだから安倍談話はきっといいのだろう」とシニカルな口を利く。

 ただ皆さんお利口さんで、私のようにはっきりと意見を活字にしない。根が正直な私は「ろくに歴史も知らないくせにどこぞの論説主幹は偉そうな口を利く」と心中で感じたことをすぐ口にする。口にするばかりかこのように「正論」欄に書く。

 すると意外やそんな私に賛同する教え子の女性がいたりする。本人がたとえ教師でも、配偶者が官僚や商社とかで外国も長く社交も広いと「日本人に生まれて、まあよかった」と思うらしい。そこは大新聞中毒となった人たちの井の中の大合唱と違って面白い。

 そんな悪態をつく私になんと朝日の元記者が大賛成の手紙をよこした。その永栄潔氏が『ブンヤ暮らし三十六年』(草思社)を書いて慰安婦報道で大きく躓(つまず)いた朝日新聞の実態を回想して新潮ドキュメント賞をとった。日本の言論自由のために祝賀したい。(ひらかわ すけひろ)











この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
«  豪潜水艦、日本も現地製造視... | トップ | 中華の「ストーリー」に打ち... »

正論より」カテゴリの最新記事