「LGBT法」が成立しない米国 福井県立大学名誉教授・島田洋一
https://www.sankei.com/article/20230406-D66G3WTTDNPKDC5PKPLRYZZS5A/
◆共和党は法制定に反対
「日本は先進7カ国(G7)で唯一、LGBT(性的少数者)差別禁止法が制定されていない。議長国として開催する5月の広島サミットまでに成立させないと恥をかく」といった言説がよく聞かれる。しかしこれは、まずファクトにおいて明白な誤りである。
G7の中心的存在かつ最大人口の米国は、民主党が提出した包括的なLGBT差別禁止法案(名称は平等法)に共和党が一致して反対する状況が続いている。現在下院は共和党が多数を占め、上院は51対49で民主党系がわずかに優勢だが、60人が同意しないと討議を打ち切って採決に入れない上院独自の院内規則があるため、予見しうる将来、成立の見込みはない。
共和党の主な反対理由は以下の2点である。①トランスジェンダーの権利を女性の権利の上に置くことで女性に対する保護を切り崩す②差別の定義が曖昧で、信仰や思想の自由を脅かす。
ちなみに米最高裁は2020年に、LGBTであることを理由とした解雇や採用拒否は公民権法に定められた「雇用機会の平等」に反するとの判断を下している。あくまで雇用に限定した上での「差別の排除」であった。
一方、民主党提出の法案は、レクリエーション施設や教育の場での「差別」も許されないとしており、ジムのサウナや教育の一環である学生競技大会も「差別排除」の対象となる。
現状でも、トランスジェンダー選手(生来の男子)に敗れた結果、スポーツ奨学金が得られず進学を断念するなどの具体的被害が女子に生じている。「不公正」を訴えたところ、内定先企業にLGBT活動家が「差別学生を雇うのか」と圧力をかけ、就職の道まで閉ざされたという不当極まりない逆差別のケースもある。
「差別」の中身を全く定義しない日本の法案は、米民主党の法案より更に無限定であり、トランスジェンダーを自称する暴力団や極左活動家、変質者に悪用、乱用される危険性が非常に高い。
◆保守とリベラル対立の場に
そもそも日本社会は伝統的にLGBTへの許容度が高く、近年は当事者に理解を示す映画やテレビドラマ、漫画が溢(あふ)れている。その日本で、なぜ「差別は許されない」とするLGBT理解増進法を遮二無二通そうとするのか。
法ができると予算が付く。地方自治体は関連事業の推進を求められ、学校や職場に研修会の講師としてLGBT活動家が継続的に呼ばれることになる。関係するNPOには補助金が下りる。新たな公金利権スキームの誕生である。
なおLGBT教育は、米国では目下、保守とリベラルがぶつかる「激戦地」の一つである。民主党の首長や教育委員のもと左翼的教員組合が強い地域では、幼稚園から小中高を通じ「性、性自認、性的指向」に関し濃密なカリキュラムが組まれ指導が行われている。
生徒は心の中のLGBT的要素を掘り下げるよう促され、「トランスジェンダーだと思う」と告白する者がいれば、「無理解な親」に知らせずに呼び名を変え(例えばメアリーからマイクに)、従来の代名詞(彼女)を使う者がいればいじめと見なして叱責するといった指導例が報告されている。
「普通のトランスジェンダー」だけでなくノンバイナリー(男女の二分法を拒否)も自然な性自認の一つと教えられる。典型的には女性の場合、乳房切除術を受けつつ男性ホルモンの注射はせず、性別の不分明な存在を目指す。
男性の場合、バイデン政権がノンバイナリー初の幹部職員として起用を喧伝(けんでん)したエネルギー省次官補代理がスター的典型例だった。口髭(くちひげ)、スキンヘッドに真っ赤な口紅、女装で役所に通う様を誇示したLGBT活動家である(その後、複数の窃盗罪で免職)。
◆「差別解消」が偏った教育に
性教育も変化し、男女の型だけでなく、男性同士、女性同士の型も「正常」として教えなければLGBTへの偏見を助長するとして、過半の時間がビジュアル教材を用いたアナルセックスやオーラルセックスの講習に当てられる。当然、違和感を覚える生徒、強く反発する親が出る。
そうした中、反撃の先頭に立ったのが共和党の有力大統領候補の一人、フロリダ州のデサンティス知事だった。小学3年までのクラスではLGBT教育を行ってはならないとする州法を制定している。やはり共和党の大統領候補である女性のヘイリー元国連大使はこの内容ではまだ不十分として、小学校を通じてLGBT教育を禁止し、中学校でも親が許可しない限り子供を性教育クラスに参加させてはならないとの主張を打ち出している。また下院で多数を握った共和党指導部は、LGBT関連予算の全面見直しに乗り出している(例えば移民に対する性転換「治療」補助金の廃止など)。
LGBTに関して統一した「米国の立場」などない。混迷は深まり対立は激化する一方である。バイデン民主党政権の一方に偏した主張に萎縮するなど不見識も甚だしい。(しまだ よういち)
https://www.sankei.com/article/20230406-D66G3WTTDNPKDC5PKPLRYZZS5A/
◆共和党は法制定に反対
「日本は先進7カ国(G7)で唯一、LGBT(性的少数者)差別禁止法が制定されていない。議長国として開催する5月の広島サミットまでに成立させないと恥をかく」といった言説がよく聞かれる。しかしこれは、まずファクトにおいて明白な誤りである。
G7の中心的存在かつ最大人口の米国は、民主党が提出した包括的なLGBT差別禁止法案(名称は平等法)に共和党が一致して反対する状況が続いている。現在下院は共和党が多数を占め、上院は51対49で民主党系がわずかに優勢だが、60人が同意しないと討議を打ち切って採決に入れない上院独自の院内規則があるため、予見しうる将来、成立の見込みはない。
共和党の主な反対理由は以下の2点である。①トランスジェンダーの権利を女性の権利の上に置くことで女性に対する保護を切り崩す②差別の定義が曖昧で、信仰や思想の自由を脅かす。
ちなみに米最高裁は2020年に、LGBTであることを理由とした解雇や採用拒否は公民権法に定められた「雇用機会の平等」に反するとの判断を下している。あくまで雇用に限定した上での「差別の排除」であった。
一方、民主党提出の法案は、レクリエーション施設や教育の場での「差別」も許されないとしており、ジムのサウナや教育の一環である学生競技大会も「差別排除」の対象となる。
現状でも、トランスジェンダー選手(生来の男子)に敗れた結果、スポーツ奨学金が得られず進学を断念するなどの具体的被害が女子に生じている。「不公正」を訴えたところ、内定先企業にLGBT活動家が「差別学生を雇うのか」と圧力をかけ、就職の道まで閉ざされたという不当極まりない逆差別のケースもある。
「差別」の中身を全く定義しない日本の法案は、米民主党の法案より更に無限定であり、トランスジェンダーを自称する暴力団や極左活動家、変質者に悪用、乱用される危険性が非常に高い。
◆保守とリベラル対立の場に
そもそも日本社会は伝統的にLGBTへの許容度が高く、近年は当事者に理解を示す映画やテレビドラマ、漫画が溢(あふ)れている。その日本で、なぜ「差別は許されない」とするLGBT理解増進法を遮二無二通そうとするのか。
法ができると予算が付く。地方自治体は関連事業の推進を求められ、学校や職場に研修会の講師としてLGBT活動家が継続的に呼ばれることになる。関係するNPOには補助金が下りる。新たな公金利権スキームの誕生である。
なおLGBT教育は、米国では目下、保守とリベラルがぶつかる「激戦地」の一つである。民主党の首長や教育委員のもと左翼的教員組合が強い地域では、幼稚園から小中高を通じ「性、性自認、性的指向」に関し濃密なカリキュラムが組まれ指導が行われている。
生徒は心の中のLGBT的要素を掘り下げるよう促され、「トランスジェンダーだと思う」と告白する者がいれば、「無理解な親」に知らせずに呼び名を変え(例えばメアリーからマイクに)、従来の代名詞(彼女)を使う者がいればいじめと見なして叱責するといった指導例が報告されている。
「普通のトランスジェンダー」だけでなくノンバイナリー(男女の二分法を拒否)も自然な性自認の一つと教えられる。典型的には女性の場合、乳房切除術を受けつつ男性ホルモンの注射はせず、性別の不分明な存在を目指す。
男性の場合、バイデン政権がノンバイナリー初の幹部職員として起用を喧伝(けんでん)したエネルギー省次官補代理がスター的典型例だった。口髭(くちひげ)、スキンヘッドに真っ赤な口紅、女装で役所に通う様を誇示したLGBT活動家である(その後、複数の窃盗罪で免職)。
◆「差別解消」が偏った教育に
性教育も変化し、男女の型だけでなく、男性同士、女性同士の型も「正常」として教えなければLGBTへの偏見を助長するとして、過半の時間がビジュアル教材を用いたアナルセックスやオーラルセックスの講習に当てられる。当然、違和感を覚える生徒、強く反発する親が出る。
そうした中、反撃の先頭に立ったのが共和党の有力大統領候補の一人、フロリダ州のデサンティス知事だった。小学3年までのクラスではLGBT教育を行ってはならないとする州法を制定している。やはり共和党の大統領候補である女性のヘイリー元国連大使はこの内容ではまだ不十分として、小学校を通じてLGBT教育を禁止し、中学校でも親が許可しない限り子供を性教育クラスに参加させてはならないとの主張を打ち出している。また下院で多数を握った共和党指導部は、LGBT関連予算の全面見直しに乗り出している(例えば移民に対する性転換「治療」補助金の廃止など)。
LGBTに関して統一した「米国の立場」などない。混迷は深まり対立は激化する一方である。バイデン民主党政権の一方に偏した主張に萎縮するなど不見識も甚だしい。(しまだ よういち)