教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

教育学的視点②―どの教育のどの部分か

2024年04月13日 19時21分49秒 | 教育研究メモ
 教育学的視点は、どの教育のどの部分を捉えようとするかがまず必要である。教育の目的を捉えようとするのか、過程を捉えようとするのか、条件を捉えようとするのかで、まったく捉え方や対象が変わってくる。目的を意識して捉えてみると、例えば、一方の教育が人間性を教養しようとする教育であり、もう一方の教育は国家・経済発展のための人材育成の教育であることが明らかになってくる。条件を捉えるには、例えば制度・政策に注目するのか、制度の運用について行政の動きに注目するのか、学校の経営に注目するのか、教師の協働や研究研修に注目するのかによって、捉え方も見るべき対象も異なってくる。

 さらに詳しく考えておこう。教育は学校・社会・家庭の中て行われている。学校教育には、例えば幼児教育、初等教育、中等教育、高等教育がある。それぞれ異なる視点が必要である。幼児教育や初等教育の視点で高等教育を捉えようとしてもうまくいかない(思わぬ結果が発見されるかもしれないが)。幼児教育には、遊びや環境構成、社会的保育を捉える視点が必要である。お受験や早期教育の視点が必要なこともあるかもしれない。初等教育や中等教育を捉えるには、義務教育や普通教育の視点、市民教育や国民教育の視点、全人教育や人間教育の視点、進路指導や大学受験の視点などが必要である。高等教育を捉えるには、専門教育の視点だけでは不十分で、教養教育の視点も必要である。
 学校教育を詳しく見るには、教科指導や教科内容、教科外指導を分けて視点をもつことも有効である。教科指導・内容を捉えるには、読書算(3R's)だけでなく、言語認識や社会認識、自然認識、芸術、技術、倫理、道徳、運動、体育、衣食住や家庭生活などの視点や、それらを総合する視点を持たなくてはならない。また、それらの知識や技能を伝達するだけでなく、応用・演習したり、探究したりする方法や過程を捉える視点も必要である。教科外指導については、道徳教育や生活指導、学級経営、キャリア・進路指導、養護、給食、掃除、制服、校訓、校則、部活動、児童会・生徒会など、多様な活動を捉える視点が必要になる。
 社会教育には、図書館や博物館、公民館、スポーツ施設等の社会教育施設を捉える視点が必要だが、NPOや企業、マスメディアの動向を捉える視点も必要である。家庭教育には、子育てやしつけ、家庭的保育、早期教育などを捉える視点が必要である。
 なお、教育は生活・人間形成の一側面であると先述した。教育は、学習や福祉、政治、経済などの人間の生活の別側面との関係の中で、相互に影響し合っている。例えば、教育を学習との関係から捉える視点は、教育学的視点にも必要である。学習には様々なものがあるが、例えば、乳幼児期の発達や児童期・青年期・成人期・老年期それぞれの発達、または生涯発達を捉える視点によって異なった様相を見せる。生涯学習の視点は、教育を捉える際にきわめて重要な視点である。幼児期の学習に応じた教育と老年期の学習に応じた教育を捉えるには、やはり区別された視点が必要である。

 以上のように、教育学的視点をどの教育のどの部分を捉える視点かで整理すると、極めて多様な個別の教育学的視点が見えてくる。すべての視点を身に付けるのは至難の業であり、いくつかの視点を身に付けるだけでも容易なことではない。哲学や社会学などのほかの学問も教育を捉える視点があるが、ほかにも身につけるべき重要な視点があるので、それらの学問を学ぶだけでは教育学ほど細かく教育を捉えることは難しい。教育学的視点を身に付けるには専門的で体系的な計画的な教育・学習が必要な所以であり、ここに教育学教育の専門性がある。

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